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顔合わせ

1544年(天文13年)4月下旬 那古野城  吉法師


 俺がこの時代に転生して半月が経った。

 爺から、村へ赴くための準備をするから時間をくれと言われたため、俺はその間三バカを始めとした吉法師軍団と顔合わせをした。

 どいつもこいつもヤンチャそうな顔つきをしており、小学生とは思えない体力で俺を驚かせてくれた。


 俺のスキルについては、三バカ以外には伝えていない。いずれは伝える必要もあるのだろうが、吉法師としての能力を大勢に知られるのは、出来るだけ先に延ばした方が良いだろう。


 訓練としては、今までやっていた水練と相撲などの格闘に加え、走り込みや筋トレもさせることにした。といっても皆まだ10歳前後であり、無理な負荷を掛けない様注意しながら行っている。

 走り込みはともかく、筋トレはこの世界では珍しいらしく、初めは皆怪訝な顔をしていたな。でも万千代や頭の良い奴らは筋トレの意味にすぐに気が付き、積極的にやり始めた。他の奴らも続けていくうちに効果が何となく実感でき始めたらしく、今は黙々と筋トレに励んでいる。


 一番理解が得にくかったのが、ストレッチだ。

 関節や筋肉の凝りと言った概念が上手く伝えられず、中々に苦労したよ。結局、怪我をしにくくなるからやれと命令し、二人一組で毎回訓練の前後にしっかりとさせている。

 関節が柔らかくなれば、武術のパフォーマンスも向上するはずだ。今はよくわかっていなくても、しばらく続けていけば自ずと分かってくるだろう。



 そんな感じで鍛錬に明け暮れていたある日、爺から準備が出来たから時間を作ってくれと言われた。なんでも村に行くためのお付きの人員との顔合わせをするらしい。まぁ村に行くメンバーにはこの力の事は伝えておかなければいけないから、その辺りの事を話すためだろう。


 自室で一人待っていると、外から爺の声が聞こえてきた。


「若、よろしいですかな?」


「うむ、入れ」


 襖をあけて、爺と共に二人の男と一人の女性が入ってきた。

 男性のうち一人は20歳くらいの青年で、爺にどことなく面影似ている。爺の息子とかだろうか。もう一人の男性は人好きそうな顔をしていて、にこにことこちらを見つめてくる。年はさっきの青年よりももう少し上で、30弱くらいだろうか。優し気な顔の中にも、何だか人生の重みの様な渋みを感じさせる。

 女性の方は……普通に可愛いな。色白でふんわりとした雰囲気の可愛らしい女性だ。

 

「爺、この者たちがワシに付き従う者たちか?」


 俺の言葉に、爺似の男がピクリと反応した。ん? 違うんだろうか。


「はい。その方ら、若にご挨拶いたせ」


「はっ。某、平手政秀が嫡男、五郎左衛門久秀と申しまする。この度、父より吉法師様のお傍にお仕えさせていただくようにと仰せつかりましてございまする。よろしくお願いいたしまする」


「うむ。爺にはいつも世話になっておる。うつけと呼ばれるワシに愛想を尽かすことなく、今まで付き従い、導いてくれた。五郎左衛門よ、良い父を持ったな」


「……はっ。過分なご評価、恐悦至極にございまする」


 少し間があったな。うつけと聞いていた俺が、まともな返事をしたことに驚いたのかな?


「して、その方も爺の息子か?」


にこにこ顔の男に話をふる。


「いえ、滅相もございませぬ。某、平手様にお仕えさせていただいております、八兵衛と申しまする。この度、村の者や庄屋たち、それから下男等との折衝役を仰せつかりましてございまする」


「なるほど、折衝役か。しかしその方、武の方も中々の腕前ではないか?」


 顔の人懐っこさに誤魔化されそうになるが、歩き方や体の肉付きがただの農民や商人とは明らかに違う。おそらくこいつも護衛役を兼ねているのだろう。

 八兵衛がちらりと爺の顔色を窺う。その視線を受けた爺が頷くと、八兵衛はそのまま口を開いた。


「はっ。護衛のまねごとをさせていただいておりまする。この乱世、自分の身を守る程度の力は必要にございますれば」


「ふむ、道理であるな」


 などと、分かったようなことを言っておく。

 何と言うか、俺のことを知らない人と話すのってすげぇ疲れる。自分を良く見せるために、頑張って背伸びしなくちゃいけないというか……うつけの振りの方が、何倍も楽だわ。


「して爺よ、そちらの女子はどういう事じゃ? 村への道中に、女を連れていくのか? その白い肌をみるに、ほとんど外に出しておらぬのであろう。村までの道中で倒れてしまうのではないか?」


 言葉選びも難しい。上手く喋れているか分からんな。俺としては、『爺さんよ、その可愛い女の子はだれだ? そんな可愛らしい女の子を村なんかに連れて行って大丈夫かな? 肌も白くて箱入り娘なんじゃないのか? 途中で倒れたら大変だよ』的なことを言いたいんだが、どうも言葉が攻撃的になってしまう。


「はっ、この者は爺の娘である『道』と申します。道につきましては、若に少々ご相談したきことがあり、こちらに連れて参ったのです」


 そう言って、申し訳なさそうにしつつも、縋るように俺を見つめてくる爺さん。

女中か何かかと思っていたら、爺さんが自分の娘を連れてきたでござる。

息子の方は将来俺に仕えさせる為に連れてきたんだろうけど、何故に娘も連れてくるかな。相談って、側室とかについてだろうか。俺まだ全然そういうこと考えてないんだけど……はぁ、でも爺さんのこんな縋る様な顔を見せられたら無碍には出来んな。とりあえず、話だけでも聞いてみないと。

はぁ、面倒事じゃないと良いんだけど。

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