忍びが欲しい
1544年 (天文13年) 4月 那古野城 吉法師
翌日、爺に昨日のことを含め相談を持ち掛けた。
「甲賀に伊賀、ですか……」
しかし爺の反応は鈍い。
この時代、伊賀や甲賀の者たちは金で雇われる傭兵のような扱いで、余り信が置けないと考えられていた。兵として雇うならともかく、家臣として召し抱えるなど考えられないことなのだ。
武士から見て彼らの様な存在は、金のために生きる下賤なものの様に映っているんだろう。
ただ現代に生きていた俺からすれば、武士も傭兵もどちらも大して変わらない気がするけどなぁ。
甲斐の武田の様に、他国から略奪するために戦争をするような盗賊集団みたいなやからもこの時代結構いたみたいだし。まぁ領民を食わすためには仕方が無かったんだろうけど。
あれは極端すぎるかもしれないが、どの大名も結局は人殺し集団には違いないんだ。
戦争の大義名分を大事にしたり、血筋を大事にしたりと最低限のルールはあったみたいだけど、力のない農民たちからの略奪なんて許されることじゃないだろう。こういう考えって、俺が甘いだけなんだろうか。
これから俺も元服後はそいつらの仲間入りをすることになる。自分の立ち位置をちゃんと考えて行動しないと、道を見失うかもしれん。気を付けよう。
ま、それは今は置いておくとしてだ。
俺は忍びの諜報能力が欲しい。他にも俺の目、耳、手足となって色々とやって欲しいことが沢山ある。
他の武士たちの評価なんて、それこそ今更だ。
なんてったって、吉法師の評価がすでに最低なんだから。
よし、ここはゴリ押そう。
「爺よ、俺は絶対に忍びを召し抱えるぞ」
「むぅ……」
俺の強い視線に、爺が思わず唸る。
そして諦めたようにため息をつき、首を振った。
「いやはや、分かり申した。忍びの者を召し抱えることに対してはもう何も言いませぬ。しかし、甲賀と伊賀、全ての者にというのは止めた方がよろしいかと」
「ん? どういうことだ?」
「甲賀と伊賀、合わせれば相当な数になりまする。その者たちが召し抱えられたとなれば、いくら情報を止めようとも流石に他の大名たちに気づかれます。現段階では、かなり危険にございまする」
うっ……そりゃそうだわ。
情報を規制したいとか言いながら、やってることが滅茶苦茶だ。
危ない、忍びを召し抱えるってなってちょっとテンションが上がり過ぎてた。
「そうだな。すまぬ、少し考えが足らなんだ」
「いえ」
「……それにそもそも、それだけの人数を抱える金もないか」
「ですな」
ふーむ、じゃぁ人を雇い入れるのは当分後かぁ……いや、少数精鋭で雇うならどうだ? この時代に浪人生活をしていたり、不遇な地位に置かれている者。あとは、怪我で一線を退かざる終えなくなった者とか。
そういえば、三河に一人いるじゃないか。今なら彼を捕まえられるかもしれない。
「爺よ、では人数を絞って声を掛けてみよう。まずは服部半蔵保長という者が三河におるはずだ。そやつに繋ぎを付けて欲しい。松平に仕えているが、待遇は良くないはず。出来れば奴を家臣として召し抱えたい。一度話だけでも聞きに来て欲しいと伝えてみてくれ」
「はっ」
「他にも誰か心当たりがあれば教えてくれ。俺には人の怪我を治癒する力がある。怪我で一線を退き歯痒い思いをしているものなどがおれば繋ぎをとりたい」
「なるほど。確かにそういう者であれば、探せば見つかるやもしれませぬな。分かりました、色々と当たってみましょう」
「うむ、頼んだぞ」
よし、もしこれで服部半蔵が仲間になれば大分でかい。
今後の伊賀との繋ぎも楽になるはずだし、三河の力を削げるかもしれない。
あんまり楽観視は出来ないが、出来るなら必ずゲットしておきたいな。
他に誰か居たっけかな。
まぁとりあえずは爺の情報網を頼りにするしかないか。
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