表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/44

9月② アカネとの帰り道

 僕をいじめていたあいつとの一件も、あれから一週間以上が過ぎ、今は冷静に考えることができるようになっていた。ベーススクールが終わり、いつものようにアカネと一緒に帰る。今日は夜空に雲もなく、東京でも星がいくつか見える。辛いことは考えるのを止めて、アカネと話すことを楽しまなくちゃ。


「今日のレッスンも面白かったね」僕はちょっと無理して明るく言う。

「そうですね。だんだんレッスン内容も難しくなってきていますね」

「僕とか、なんとなくで弾いているから難しい譜面も易しい譜面もあまり変わらないんだよなぁ」

「聡吾さんはテキストに付属されているCDを使って家で練習していますか? 私はなかなか時間が取れなくて」

「うん。少しは練習しているよ。少しと言ってもほんの少しだけど」アカネと違い、やっているバイトの量も少なく、時間が余っているはずなのに、一週間に一時間程度しかレッスンの予習を行っていなかった。僕は演奏するのが本当に好きなのだろうか? 単にかっこいいバンドマンに憧れていたというだけではないのだろうか? 僕は分からなくなってしまった。


 横断歩道の前で立ち止まる。秋の涼しい夜風が身体を駆け抜ける。

「今夜の10時からのテレビ、仲村さんの好きなバンドについて、お笑いの人たちがトークする番組がありますね」背はあまり高くないアカネが身長差のある僕を見上げながら言う。

「今日は父親が会社休みだとかで家にいるんだよなー。せっかくだから、父親と久しぶりに将棋でも打とうかなと思っているよ。母親があぶったスルメでも食べながら」僕もアカネの方を見て口元を軽く緩めながら言う。


 信号が青になり、僕とアカネは人波の中、横断歩道を渡る。二人で人をかき分けるように歩み進んでいく。

「仲村さんの家はご両親の仲が良いんですね。私の家は両親が離婚しているから羨ましくて」

「そうだったんだ」僕はなるべく平静を装い、顔色を変えないようにしながら言った。

「突然こんな話してしまってごめんなさいね。ついポロっと口から出てしまいました」

「いや、いいんだよ」

「でも、これからもご家族の話は遠慮せずにしてくださいね」アカネは自然な笑顔で言った。


 4月の奨学金返済の話といい、アカネは苦労しているんだなと思った。僕は他の面では苦労したけど、家庭環境が良好なのは良かったことの一つだ。世間を良く知っている人に言わせたら、病気をしていることも、両親が離婚したことも、普通のよくあることなのだろう。みんな何か欠けながら、そして何か満ち足りながら生きている。


 家に着くと妹が母親に愚痴をこぼしていた。にきびが治らないことが悩みの種のようだ。にきびを隠すためにメイクをして、男友達に「厚化粧」と言われたのも気にしているようだ。その話をそばで聞きながら、遅れた夕食を取る。人それぞれ悩みは尽きないものだな。しかし、そんなことを言う男友達は心ない奴だ。豆腐屋の角に頭をぶつけて怪我してしまえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ