6話
俺が朝食を食べていると、二階から愛とユズハが同じ制服を着ておりてきた。2人とも素材が良いので目の保養になる。ハニカミながら「どうかな?」と聞いて来るユズハは男心をくすぐる達人の様だ。
今日はユズハの初登校日なので、三人で学校へ向かう事になっていた。普段は友人と待ち合わせて学校へ向かう愛も今日はそれをキャンセルして俺達に同行してくれる。
何だかんだと俺に文句を言ってくるが、やはり面倒見が良い妹を見て兄としてはとても満足だ。
三人で朝食を取ると家を出て学校へと向かう。学校は家から20分程歩けば着く所に建てられている。
俺の家の周辺には家が多いので家を出た時からチラホラと学生達とすれ違う。その誰もがユズハを見て指を指している。それ程に目を引くユズハは俺の後ろをピッタリと張り付きその横には愛が楽しそうに笑顔を見せる。
俺としては変な虫が付かない様に威嚇は忘れない。学校に近づくにつれて同じ学校の生徒が増えて来た。共学高校なのだが商業科があるので女子の方が若干多い。
学校へ付くとユズハを職員室へと連れて行く。入学説明書に書かれて在った先生に引き渡して俺の最初の仕事は終わる。
教室に入ると、クラスの中の話題はユズハで持ちきりとなっていた。前を歩いていた俺とユズハが一緒に住んでいるとは想像して居らずに、近くの男子に金髪美少女の話題を振られた。
「なぁ、外国人の転校生が来ているみたいだぞ。それが凄く美人だって話だ。川嶋は知ってたのか?」
「そうだな」
前の席の男子が声を掛けてきた。俺が日本に戻ってから学校に通っているが最初は同級生の名前を思い出すのに一苦労していた。
なんせ異世界で10年過ごした前の記憶で名前などはうろ覚えになっていた者も多くおり、少しづつ名前や性格などを覚えなおしていた。だからクラスの中で俺は比較的大人しく過ごしている。
「ちくしょ~ それなら俺も今日は早めに学校へ来るんだった」
そんな話をしていると始業のチャイムが鳴り響く。全員が自分達の席に戻り先生が入って来るのを待った。
チャイムから5分位が経過した所でドアがガラガラと開かれ先生が入って行きた。
「みんなおはよう」
「「おはようございます」」
「まず最初に伝えるが、転校生がこのクラスに来る事になった」
先生のその言葉を受けて、クラスは修羅場とかす。噂の中心であった転校生がまさか自分達のクラスにくる幸運にどの生徒も周囲の友達と噂話に花を咲かす。
「静かにしろ!!!」
先生の一喝でクラスは一度静けさを取り戻す。だが全員先生よりも入って来る転校生を見ようとドアを見続けていた。
「知ってるとは思うが転校生は外国の子だ。だからだ心細い事もあるから茶化す事は禁止だからな」
「わかってま~す」
ワクワクが止まらない生徒達は大きな声で返事を返す。
「それじゃ、ユズハ・アディールさん入ってきなさい」
先生の指示を受けてユズハが教室へと入ってきた。周りの者達はみんなユズハに見とれていた。
「ユズハさんは、日本とフランスのハーフとの事で今は訳あって日本に来ているそうだ。どの位学校に通えるか解らないが、みんなも仲良くして良い思い出を作ってあげて欲しい」
「ユズハ・アディールです。宜しくお願いします」
ユズハは礼儀良く挨拶を行う。元々ユズハは孤児で俺が保護し今まで育ててきた。ユズハという名前も俺が付けてやった物だ。アディールという性はユズハが考えたものだろう。ユズハが居た村が確かアディールと言った筈だ。そんな事を思い出して心が少し重くなる。
「それじゃ、ユズハさんの席は……」
先生が何処に座らそうか見渡していく。
「大和の隣が良い」
その時ユズハが爆弾を放り込んでくる。その言葉を聞いたクラス全員がバッと俺に視線を注ぐ。
俺は何て事してくれたんだと、頭を抱えて机の上にへたり込んだ。
その後はクラスの女生徒達からは興味の眼差しが、そして男子からは恨みが込められた熱い視線を注がれ続ける事になる。
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一週間の地獄の日々が過ぎ、今日は休みの日だ。ユズハはクラスに溶け込み直ぐに人気者となっていた。俺の家にホームステイしている事も話している。その為に更なる妬みを受けた俺の居場所はますます無くなっている気がしてならない。
今日は映画へ連れていく約束となっている。異世界に無かった大衆の娯楽ってやつを教えてやる為だ。今回は難しい世界背景など少ないシンプルで解りやすいバトル映画をチョイスしてみた。
ユズハと駅に繰り出すと、全開同様に周囲の視線を集めてしまう。少し優越感も味わう事も出来るが、それ以上に厄介事を引き寄せるので余り目立つ事はしたくない。
何事もなく映画館に入り上映を待つ。部屋の電気が消灯し大音量の音と迫力満点のスクリーンに躍動する役者が映し出された。
「大和。凄い凄い」
初めて映画を見るユズハは興奮しっぱなしだ。映画が終わると近くの喫茶店で甘い物を食べる。俺は甘い物はそんなに特異では無いのでコーヒーを頼み、ユズハは俺がお勧めしてみたパフェを注文する。
初めて食べるパフェにユズハの表情はみるみる崩れていく。そんな時間を共有しながら俺は以前から聞いてみたかった事を問う。
「ユズハ、お前が俺の世界に来てから、結構たってしまっているが向こうに帰りたくはないのか?」
まだパフェは残っているが、ユズハはスプーンを一度置いてから、ジッと俺の目を見つめて答える。
「私が居たい場所は大和の傍だよ。何処に居たとしても傍に大和が居てくれればそれでいいの」
ユズハの真直ぐな気持が俺を揺さぶる。だが俺は日本人でユズハは異世界人。この世界にはユズハの知っている人は俺しか居ない。何故そこまで言い切れるのか不思議に思った。
だがこれでいい訳がない。ユズハの幸せは力を合わせて平和を勝ち取ったみんなが住むあの世界。
しかしあれから異世界側からも何のアクションは一度として無い。連絡をとる方法が無いのか? 今探しているのか? それは解らないが何としても返してやりたい。俺は自分勝手な考えだが強く願っていた。