19話
日もまだ上がらぬ早朝、昨日の疲れもあり殆どの者達はまだ深い眠りについている。
俺が訪れた部屋には皇太子とフラウが先に到着していた。フラウがいた事に驚いた俺は皇太子に視線を向ける。
「いや、私は何も言っていないぞ。フラウが勝手に気付いて問い詰めてきてな…… つい喋ってしまったのだ悪かった」
バツが悪そうに皇太子は頭をさげる。
バレたのは仕方ない。実は誰にも告げずに日本へと帰る気でいたのだ。
そうすればもう日本に来る手立ては転移魔法しかなくなる。皇太子には仲間を日本に送らない様に頼んでいたので、もう誰も来る事は無くなる予定だった。
「フラウ、俺は一人で日本へ帰るよ」
勇気を出して俺がそう告げると、フラウはコクンと頷き手に持っていた道具袋を俺に手渡す。
「これは大和様が使っていた道具袋です。中の物は触っておりませんが大和様が兄に頼んでいた品を入れています」
俺は皇太子に混乱の粉を頼んでいた。日本に帰るのは俺一人、ユズハが居なくなれば家族の者達は騒ぎ出す。それを粉を使って全てを無かった事にするつもりでいた。
「そうか…… ありがとうな。お前達と過ごした時間は忘れないよ」
「私も忘れませんわ」
「そろそろいいか? それじゃ転移を始めるぞ」
皇太子に言われ俺は光の円柱へと入る。最後に光のフィルターを通してこの世界を目に焼き付けて行く。 転移が始まり景色が少しづつ歪みだし次の瞬間には俺の部屋の風景に変わっていた。
「これで全部終わったな…… これで良かったんだよ」
自分にそう言い聞かせる。
部屋の空気が何時もより冷たく感じていた。早朝なので気温が低い事も関係しているのだろうが、それだけでは無い。大切な物が無くなったと言う感じだろう。
翌朝、家族に粉を使いユズハもフラウと一緒に帰ったと記憶をすり替える。その後はこの道具袋はクローゼットの一番置くに置いた。
全てが終わり俺の本当の日常が始まった。
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あれから1ヶ月が過ぎている。ユズハ達が居ない事にはまだ慣れないが自分で決めた事だと何度も言い聞かせて毎日を過ごしていく。
だけど心にポッカリと空いた虚しさは大きくなる一方だった。それだけ大きな存在になっていたのだと今になって気付かされた。
「失恋ってこういう気持ちなんだろうか? でも俺が振ったんだけどな。あいつら今頃どうしているのだろうか?」
一人で寂しくなり、一人でイライラして仲間達の笑顔を思い出す。自業自得なのだが心底自分の馬鹿な行動を何度も後悔する。
更に眠っている時に夢に出て来たのはユズハだった。バッと布団から起き上がりユズハ達が居ない事を確認してしまう。
それから更に1週間が経過した時に俺は遂に覚悟を決める。 それは全てを受け入れる覚悟だった。
「どれだけ酷い事をしてきたのかは、分かっている…… だけど俺は再び会って気持ちを伝えたい。受け入れて貰えないとしても謝りたい……」
俺はそう決めると次は何は異世界に戻る方法を考えだす。魔法がロクに使えない今の俺には異世界へ戻る方法など無いに等しい。
だがその時にフラウが渡してくれた道具袋がある事を思い出した。
フラウは俺の荷物には手を付けていないと言っていた。ならば俺の道具袋にも帰還の護符は入っているかも知れない。その一途の望みを託して俺は道具袋に手を入れた。
「帰還の護符!」
俺が呟くと帰還の護符が手に吸い寄せられた。袋から手を抜くと2枚の護符が握られている。
「良かった…… 2枚もあるのか。何処に飛ぶかは解らないが異世界に行ければどうにかなる。ユズハやフラウに謝ろう」
決意を固めて俺は帰還の護符を使おうとした。だがその時ある事に気づく。
「あれ? 名前が書いてある…… これはユズハ? こっちはフラウ? どういう事だ?」
護符には名前が書かれていた。普通の護符には人の名前は書かない。俺は護符を使うのをやめて考えてみる。
「もしかすると、名前が書いてある所に飛ぶって事なのか? ユズハとフラウ…… でも何で名前が書かれている護符が……」
俺は目を閉じて2人を思い浮かべた。そして顔が出てきた方の護符を使ってみた。
護符は力を発揮し光に包まれた俺は再び異世界へと舞い戻る。
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光が収まると目の前にはユズハが立っていた。俺の姿を見つけて涙を浮かべて飛びついてくる。
「やっぱり来てくれた。ずっと待ってた」
ユズハは怒っておらず、俺に会えた事を喜んでくれていた。その瞬間に俺も泣きそうになる。嫌われて居なかった事がうれしい。再び抱きしめられる事が嬉しい。ユズハに会えた事が嬉しかった。
俺は決意した言葉を告げる。
「ユズハお前を迎えにきた。俺とずっと一緒に居てくれないか?」
ユズハは大きな涙を流しながら「はい」と答えてくれた。
その時、ドアが開きフラウが飛び込んでくる。
「あ~あ、私の負けの様ですね。こうなっては仕方ありませんわ…… 正妻の座はユズハに譲ります。だけど…… 第2婦人の座は誰にも譲りませんわ」
フラウはそう強く言い放ち拳を握る。
「負け? ん? どう言う事だ?」
俺は疑問に思い、2人に問いかけた。するとユズハは備え付けの机の引き出しから一冊の雑誌を取り出す。あるページには付箋も貼り付けられている。
本を手にした俺は驚いた。
「意中の男性を落とす50の方法!? 何だこの本は!!」
俺は更に付箋が張っているページを開く。そこには男をその気にさせる38番目の方法と書かれており、「連絡も一切取らずに距離を置きましょう。会えない時間が愛を育ててます」と書かれていた。
「もしかして、お前達これを実践していたのか……?」
「はい。会えない時間が愛を育むですわ!!」
「もし俺がずっと来なかった時は?」
「3ヶ月たっても来ない時は2人で押しかけようときめていました」
2人は楽しそうに笑い合う。結局俺は2人の手の平で踊らされていただけだった。こんな雑誌に負けたのは悔しいが悪い気はしない。
自分で決めた事だ。有言実行、責任を取ってやろうと思う。
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その日の内に俺が皇太子を捕まえて、転移魔法を依頼する。皇太子は俺がこの世界にいる事に驚いていた。
その後急ピッチに準備は進められ、儀式の時に皇太子が文句を言ってきた。
「転移も簡単では無いのだぞ。幾ら勇者だと言ってもだな…… 簡単に言わないで欲しい」
「あぁ感謝してるよ。困った事があれば強力するから何時でもいってくれ」
俺はユズハと共に帰る事となった。フラウは用事を済ませて飛んでくるとの事だ。
魔術師が儀式を始めて作り出された円柱の光に入った時に突然ドアがけたたましく開かれる。そしてソフィーとエルザが走って俺に飛びついてきた。
「や~くん。ユズハばっかりズルいよ。ぼくも連れて行って」
「やまと……私も離れたくない。いいでしょ?」
皇太子は目をギョッとさせて俺に文句を言ってくる。
「勇者殿ぉぉ!英雄全員を連れて行くとはどう言う事なんだ! 英雄が居なくなったら国民にどう説明を……」
俺も驚いたが、二人共俺に好意を持っていてくれていたのは知っている。更にユズハと違って我儘を言わずに俺を見送ってくれた。そんな彼女達の気持ちも今度は受け止めたい。
幸い、こちらの世界では重婚が出来るのだ。それならば…… 俺は大きな声で皇太子に返した。
「心配するなよ。あと2年だ! 後2年経過すれば俺も成人になる。そうなれば……」
転移は始まっており、全て伝える前に俺達は日本へと帰っていた。
正妻とか第二夫人とか俺には関係ない。今いる仲間全員が俺に取って大切な人なのだ。
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俺の家は毎日が騒がしい。それは毎日正妻の座を掛けた熾烈なバトルが繰り広げら得ているからだ。
「正妻は私って決まったのよ。後から付いてきたあなた達は権利ないわ」
「勝負に勝てば正妻。どんな手を使っても勝つ!!」
「今日の勝負は何? 僕は楽しければ何でもいいよ」
「ユズハには悪いけど、4人になったから前の勝負は無効ね。次は私が勝たせて頂きますね」
そんな喧騒を見ながら俺の心は満たされていた。彼女も本気で争って居るのではなくきっとじゃれ合っているだけだろうし。俺もこんな結末を望んていたのだと思う。
大切な仲間達との異世界生活はもう少し続くようだ。
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これで、この話は終了です。
最初は続きを書こうとしていましたが勢いで書いた作品だったので、作品の問題点やおかしな設定など、感想やメッセージで多数ご指摘を頂き自分で考えてた結果。
私自身、このままでは駄目だと思い、この先を書く事を断念する事を決めました。ですが今回教えて頂いた事を次に繋げて良い作品書ければと思います。
楽しみにして頂いていた読者の人には申し訳ありませんが、ご理解宜しくお願いします。
ここまで読んで頂き有り難うございました。




