16話
フラウが異世界に戻り3日が経過し今日は土曜日で学校も休みだ。ユズハもフラウを見送った後は寂しそうにしていたが、今は元気も戻ってきており俺は安心する。
愛とユズハがリビングでテレビを見ていたのを見つけ俺はユズハに声を掛けた。
「ドラマ見ている時に悪いけど、ユズハは明日空いているか?」
「おにぃ、ユズハちゃんを何処に連れ出す気なの? 怪しいなぁ」
ユズハより愛が反応してジト目で見てくる。愛はフラウをリスペクトしているので、フラウが居なくなってからはユズハの世話を良く焼いていた。年下の癖にませすぎだ。
だが俺は愛の言葉など特に気にする事も無く俺は用件を伝えた。
「用事が無いなら、明日の日曜日に遊園地行ってみないか? 前から行ってみたいと言っていただろ?」
俺はユズハに楽しい思い出を作ってやるつもりだった。フラウが帰ってくればユズハも異世界へと帰る事になる。その前に一つでも多く楽しい思い出を作ってやりたい。
「もぅおにぃ、デートの誘いなら妹が居ない所でやりなよ。恥ずかしくなるじゃない。ユズハちゃんも嫌なら断っていいんだからね」
「遊園地…… デート…… 私行きたい!!」
俺の想像通りユズハは喰い付いてきた。ユズハはバッと立ち上がると愛の手を引き部屋へと戻っていく。遊園地へ行く時に着る服をコーディネートして欲しいと頼んでいた。
俺の横をすり抜け部屋へと向かうユズハと愛の表情は全く違っていた。ユズハ嬉しそうな笑顔で、愛は俺に対して蔑んだ視線を向ける「えっちな事したら…… 解ってるよね?」と小声で釘をさしてから2階へと消えていった。
「ユズハも異世界に帰るのに…… 何もしねーよ」
誰にも聞こえない小さな声でそう返した。
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遊園地は電車を乗り継ぎ2時間程移動した所にある。結構大きく人気のスポットなので、もしかすると学校の知り合い達もデートに来ているかも知れない。
何故だか解らないが俺は一人で駅前でユズハを待っていた。今朝ユズハに言われたのだが、ドラマなどでみた待ち合わせをやってみたいらしい。
一緒に家を出ればいいのに俺だけが早めに家から追い出された。待ち合わせは駅前の小さな噴水の前だと告げられる。
「まっ仕方ないか。こうなったらお姫様が満足するまで付き合うまでだ」
気持ちを切り替えて、噴水前で待っていると遠くからユズハが近づいて来るのが解った。周囲の男共がユズハを見て振り向いているのでユズハの周囲だけ空気が違う。
ユズハは前回買った服と愛の持ち合わせの服を合わせていた。良く似合っており可愛らしい。周囲の者がユズハと俺が吊り合って居ないと言っている気がして仕方ない。
「エヘヘ。待った?」
ユズハが笑顔で定番の一言を発して来る。
お前が追い出したんだろ!!と思ったんだがここは芝居に乗ってやる。
「俺もちょっと前に着いた所」
期待通りの言葉を聴けてユズハの笑顔が益々破顔していく。そこまでニヤつかれると逆に気持ち悪いぞ!
「じゃあ、行くか」
「うん」
俺達は電車に乗り込み遊園地へと向かった。予定では11時前後に着く筈だから向こうで昼食も取れるだろう。
「考えが甘かった!! こんなに人がいるのか……」
遊園地に到着した俺は余りの人の多さに驚愕を覚えた。家族連れやカップル。グループで遊びに来ている者達。遊園地は人でごった返している。
長い列を並び入場してみると、人の数が更に増えている気がする。パッと見てもどのアトラクションも長蛇の列が見て取れた。
これはユズハも残念がっているだろうと、ユズハの方をみてみるとキョロキョロと周囲を見渡し凄く楽しそうに見える。
「人が多くて悪いな。これじゃ色々乗れないかもしれない」
「ううん。私凄く楽しいよ」
「まだ、何にも乗って無いだろ。何言ってんだ?」
「2人で遊びに来れただけで、私は楽しいの!」
ユズハはいつもそうだ。何処に行く時だって着いて来ていたのを思い出す。
「とりあえず、余り並ばなくて入れる所は……」
俺が歩きながらアトラクションを探していると、ある建物を見つけた。これはどうかと思ったが何もしないよりかはマシかと考えて提案してみる。
「ユズハ、お化け屋敷でもいいか?」
「お化け屋敷? 何でもいいよ」
ここは怖いと有名なお化け屋敷な為に家族連れやカップルに敬遠されている。洋風のゾンビなどが出て来るタイプで一定の距離を開けてお客が順次入ってく。俺達も列に並び中へと入った。
建物の中は真っ暗だがブラックライトや演出で視界は少しだけある。迷路の様な曲がりくねった一本道を歩く。曲がり角ではゾンビが突然飛び出してお客を驚かせていく。
「まっこうなるわな……」
俺もユズハも微塵も恐怖を感じる事は無くスタスタと通路を進む。異世界で異形の魔王軍と数えきれない程戦ってきて異形に対する耐性はマックスだ。こんな程度では驚きたくても驚けない。
だが周囲からは女性が絶叫する声が響く。その時にユズハが口を両手で多い驚いている事に気付いた。
(何だ? ユズハがこれだけ驚く化け物でもいたのか?)
俺がユズハが視線を向けている方を見て見ると、ゾンビに驚かされ彼氏にしがみ付く女性の姿だった。
「キャー! 怖いよぉ」
そしてユズハは女性の真似をして俺に抱きつく。
「嘘つけ! 棒読みすぎるぞ」
「うぅ~ もっと事前に遊園地の事を勉強しておけば良かった」
ユズハのおデコにピンタをお見舞いするとおデコを押さえてうずくまる。
お化け屋敷を出た後は、軽トラックを改造して作られた移動型店舗でホットドックを買い昼食代わりにたべた。
その後も何個かアトラクションを乗る事が出来た。楽しい時間は経過するのが速く気付けば既に夕方で次のアトラクションで最後にする事に決める。
今日、タイミングが合えば俺はユズハに異世界へ帰るように言おうと決めていた。だが目をキラキラとさせて楽しそうにはしゃいでいるユズハを見ると言いだす事が出来なかった。
言いづらい事は先延ばしにしてしまうのが俺の悪い癖で弱い所でもある。その為に困った事も多くあるがどうにも言いだし辛い。最後はフラウが帰って来てからでも良いかとヘタレ根性を丸出しにしていた。
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だがフラウが帰ってくる2週間が経過してもフラウは帰って来なかった。どうした?と心配になっていたがこちらから連絡を取る方法はない。
ユズハと相談しても打開する方法は見つからないまま時間だけが過ぎた。
ある日の夜。俺が眠っていると部屋の中で強烈な光が発生する。余りの眩しさに俺は目を覚ます。その光は忘れない召喚時に発生する光だった。
「フラウ…… やっと帰ってきたのか!!」
ベッドから飛び上がり安堵していると光から現れたのは豪華な衣装に身を包んだ男性で俺も何度も会った事がある人物。
「勇者殿、突然訪れて申し訳ない。ふむ、無事若返っている様だね」
彼は皇太子グロリアだった。俺と皇太子の中は悪くない。異世界でも剣術稽古を共に行ったりもしていた。先ほど無事に若返っていると言っていたのを聞くと召喚には色々と秘密がありそうだ。
だが今はフラウでは無く皇太子が何故来たのかが気になる。
「久しぶりです皇太子様、意外と簡単にこの世界にこれるのですね? フラウが戻って来たと思っていたんですが……」
「簡単と言う訳では無いさ、儀式は貴重な貢物と大勢の優れた魔術師が揃わないと出来ない。おいそれと出来る事じゃないよ。
今回は英雄ユズハに話があってきたんだ。急用なので今すぐ合わせてくれないか?」
「ユズハに? どういう事なんですか、もしかしてフラウに何かあったんですか!?」
「勇者殿には正直に話しをさせてもらうが、実はフラウが魔王軍の残党と手を組んだ者に攫われた。助け出すために英雄の力を借りたい。勇者殿には大陸を助けてもらった大恩がある。これ以上我々のいざこざで迷惑を掛ける訳にも行かない。なので今回はユズハ殿にフラウを助ける為に協力を願いに来た」
「攫われた!? フラウが生きているって保障は?」
「勇者殿もコレについては知っているだろう?」左腕をあげてブレスレットを強調した。
「これは持ちぬしの魔力が無ければ発動しない。捕まっている場所は解っていると言う事は生きていると言う事だ。だが失敗は許されない。なので大陸最強の戦力で助け出すつもりだ」
状況を把握した俺は家族を起こさない様に、ユズハの部屋に入り声を掛けた。
「えっ! 大和!! えっまさか…… 夜這い」
深夜に部屋に入ってきた俺の行動を勘違いしていたが、今は冗談を言っている時では無い。
簡単に説明し部屋へと連れて行く。皇太子はユズハに俺と同じ説明をした後に協力を要請する。
「ユズハ、行くんだろ?」
俺の問いにユズハは当然と頷く。ここで行かないと言っていれば本気で怒っていた所だ。
「ひとつ聞かせてくれ。魔王軍はフラウを攫って、今もフラウ殺していないって事だよな? と言う事は何か要求しているのか?」
俺の質問にグロリアは大きく息を吐く。
「流石、勇者殿だ。このまま黙っていようと思っていたが…… そう魔王軍はフラウの命と引き換えに勇者である貴方の身柄を要求している。
心配しなくても、替え玉を用意して注意を引くので勇者殿はこのままこの世界に居るといい」
俺の身代わりにフラウが殺される訳には行かない。俺は間を置かずにグロリアに告げた。
「俺も行かせてくれ。身代わりがバレればフラウが危険だ。本人が行ってやるよ。必ずフラウは俺が助けてやる!!」
こうして俺は再び異世界へと向かう事を決めた。