14話
誰も居ない家で一人で漫画を読んでいた。誰にも邪魔されずにゆっくりと過ごすのは久しぶりで、何だか幸せを感じている。
ユズハはフラウと2人で買い物に出かけている。今までは買い物の時には必ず俺を引っ張っていたので不思議だと思ったが俺が居ない方が良い時もあるだろう。
前回買い物に付き合った時は、女性物の下着売り場に連れて行かれて、どれが良いとか聞いて来たのは驚いた。周りに他の客も居るので返答に困ったのを思い出す。
「さて今日は邪魔をされる事も無いから、この本を全巻読破するぞ」
俺は古本屋で少しづつ買い集めていた漫画をベッドの上に並べて、一巻から読み始めた。全部で20巻の少年漫画だ。しかしいざ読み始めてみると5巻辺りで読むのを辞めた。時間にして一時間位しか経っていない。
「どうも気が乗らないな…… じゃあゲームでもするか」
次はゲームをやり始める。クリアしていないRPGゲームが途中のままだった事を思い出した。電源を入れてゲームを始める。確か今は中ボスの手前で今のままでは倒せないからLVを上げている最中だった事を思い出す。日頃このゲームを始めると2人が両側に陣取りゲーム所では無くなっていた。
「RPGってこんなに面倒だったっけ? 異世界みたいに機転や連携とかで敵を倒せないっていうのもな……」
自分の中で白けてしまい。俺はセーブもせずに電源を落とす。
「漫画も飽きたしゲームもつまらない。そう考えてみると俺って趣味がない気がする……」
ベッドの上でゴロゴロとしている自分が何だか情けなくなってくる。何故だかわからないが、今2人が何をしているのかが気になる。
「参ったな…… 俺ってこんなに淋しがり屋だったのか?」
思い返せば異世界に飛ばされてからずっと多くの者達と行動を共にしていた。王家に召喚されて2年間は歴戦の冒険者に戦いの基礎を叩き込まれ、異世界の事を勉強した。教育が終わると修行を兼ねて冒険者家業をやりながら魔王を倒す為のメンバーを大陸中を渡り歩いて集めた。
異世界は優しくなく弱者には厳しい。最初の頃は何度も死にかけたが、そんな旅の中でユズハや他のメンバーと出会い。そして仲間になってくれた。
俺が召喚された時は多くの天才が育っていた。その天才達との出会いが俺に大きな力を与えいく。最後にフラウが共に戦うと王家の反対を押し切り俺達の元に飛び込んできたんだ。
「思い返せばユズハとは10年間ずっと一緒だな…… 好意は解っているんだけど、なんだか兄妹としか思えないし……」
だけど目を瞑ると家族やパーティーの仲間より、ユズハの顔が一番最初に思い浮かべてしまう。子供の時から育ててきたのでこれが親心なのか? 別の感情なのかは今は解らないが、大切な人なんだろうとは自覚はしていた。
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思い出に浸っているとウトウトと眠り込んでしまう。目を覚ますとユズハ達は買い物から帰っているみたいだ。2階のトイレに行った時に一階から母さん達と楽しそうに笑う2人の声が聴こえた。
部屋に戻り時計を見ると2~3時間程眠っていたようで、そろそろ夕食が出来る頃だろう。部屋に戻り時間を潰していたが、いつも食事をしている時間を過ぎても母さんの俺を呼ぶ声は聴こえない。そのままゴロゴロとしていたが、暇を持て余し取り敢えず一階へと降りてみた。
だが一階は真っ暗な闇に包まれ何も見えない。
「あれ? 少し前は賑やかな声が聴こえた筈だったけど? もしかして食材でも買いに出かけたとか?」
俺は部屋の電気をつけようと、スイッチがある壁面へと向かい電気をつける。
「「お誕生日おめでとう!!」」
電気が付いた瞬間に大きな声が一斉に聴こえてくる。そこには父さん、母さん、ユズハにフラウが笑顔を浮かべ、妹の愛はキモって顔を見せつつも声を合わす。
まさか家でドッキリを仕掛けられるとは思っておらずに油断し過ぎていた。気配を全く感じることができなかった。だけどそのお陰でサプライズは大成功だろう。嬉しくて驚きを隠せない。
「びっくりした。えっ誕生日?」
壁掛けのカレンダーに目を向けると、確かに今日は俺の誕生日だった。もう何年も誕生日など祝って貰っていないのでスッカリと忘れてしまっていた。
異世界と日本では暦の数え方が微妙に違い、説明するのも面倒だったので誕生日は言った覚えは無い。
確か1年間で365日より少しだけ多くて、20日前後で月が変わっていく。なので一年間に18ヶ月位は在ったと思う。正確に計算していくと面倒くさい事この上ない。
10年越しの誕生日を何だか恥ずかしく思いながらも、ありがとうと告げて食事が用意された食卓へと着いた。
食事はいつもよりちょっと豪勢な物と食後にはデザートが出された。それは小さなホールケーキで全員の分を均等に切り分けて皆で食べる。
普段は余りケーキを食べないが、今日は誕生日なので食べてみると物凄く美味しく思う。ケーキの後はユズハとフラウがプレゼントをくれた。父さん、母さん、もちろん愛からは無い。
俺がプレゼントを貰って居る時に、愛に視線を向けると調子に乗るな!と叱咤された。
2人のプレゼントはきっと今日買いに行ったのだろう。上下セットを2人で買分けている。
フラウが上着でユズハがパンツをくれた。センスが良い服で、きっとフラウが選んだのだろう。だが俺にはこんな服を着こなす自信は無い。
俺は誕生日を迎えて18歳になる。異世界では14歳で成人と呼ばれて、地域よっては12歳で成人の所もある。そんな世界で過ごしてきた2人にとっては既に俺も成人だと思っている筈だ。
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簡単な誕生日会がおわり順番に風呂に入っていく。最初は父さんが入り次は愛が入る。その後はいつもフラウかユズハが入るのが定番だ。その後に俺が入って最後に母さんが入る。
今日も父さんから順番に風呂にはいって行き、俺は自分の順番が来るまで部屋でゴロゴロしていた。
コン、コン、コン
「大和様、フラウです」
「ん。風呂かな? 俺の順番が来たのか?」
順番が来たので呼びに来てくれたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
フラウは異世界風のパジャマを来てドアから姿を見せた。純白のシンプルなワンピースの服だが寝やすい様に袖などはなく。胸元も大きく空いている。
「いえ、今はユズハが入っていますわ。あの子はいつも長湯なので大和様はもう少し後になります。実は誕生日のプレゼントがもう一つありますの」
そう告げながらフラウは俺の部屋に入る。
「どういう事? あんな良い服を貰ったのにこれ以上は貰えないよ」
「いいえ…… どうしても貰って頂かないと困るんです」
そして俺に接近して目を閉じた。
「何やってるの?」
フラウはそのまま近づいてきた。
「初めての接吻は大和様と決めておりました。ですので今日と言う記念の日に捧げたいと思います。どうぞ遠慮なさらず」
風呂上がりの石鹸の香りと女性特有の甘い香りが混ざり合い、俺の鼻孔を刺激する。それだけでも心拍数は急激に上昇を始める。普段ならここでユズハが乱入してくるのだが、今は風呂に入っているので来る訳がない。
いつも思うがフラウの積極性には舌を巻く。いつも限界ギリギリで理性を保っているのだが、これでは決壊するのも時間の問題だろう。
「いやいやいや、それはおかしいだろ? ちょと待てってストップ!!」
だがジリジリとフラウは距離を詰めてきた。俺もベッドの端まで移動したが、背後は壁でこれ以上は動けない。強烈な魅力に身動きを抑えられ。俺の唇が奪われそうになる。
だがその時、フラウがずっと腕に付けていたブレスレットから突然声が聴こえた。
その声は俺も聞き覚えがある声だ。
「フラウいるのか? お前はいつになったら帰って来るんだ? 後10日後には毎年恒例のサンクワットの儀式があるのはお前も知っているのだろう。あの儀式は王族が全員参加する決まりなんだぞ。早く帰る日時を連絡するんだ」
「……」
「……」
俺もフラウも無言になる。
「おい! 今のは皇太子の声だよな?」
「え~っと…… あっそうですわ。私用事があるのを忘れていました。それでは失礼させていただき……」
「まて、話は終わっていない」
俺から逃亡を図るフラウの襟を掴み、逃亡を阻止する事に成功する。
今からフラウの尋問を始めるが、どうやらフラウは異世界と連絡が取れていて更に帰る方法が在るみたいだ。
勿論…… 容赦するつもりは無い。




