12話
全員が浴室から出てきて集まったので揃って部屋にもどる。
部屋に戻る途中に俺はゲームコーナーを見つけ父さんに声を掛けると「みんなで遊んで来なさい」とお金を渡してくれた。
ありがたく俺達は4人でゲームコーナーに入っていく。
浴場もそうだったのだが、今日の客層は老人が多く子供連れは殆ど見かけなかった。
だからだろうかゲームコーナーにいるのも今は俺達だけだ。
「結構あるじゃないか。クレーンゲームにコインゲーム…… おっ卓球台まであるぞ。どうだやってみるか?」
「卓球ですか? やった事はないけど、学校の体育館で見た事ありますね」
ユズハやフラウも学校にある卓球部の練習の様子を見た事があるので、その事を言っているのだろう。全員が了承したので、さっそくラケットとボールを借りてチーム戦をする。
チーム分けは川嶋本家組VS居候組と決めた。未経験同士を組ませて少々可哀相だが、どちらかと組んだ場合に組めなかった方が拗ねる事が恐ろしい。ここは公平に俺が愛とチームを組む。
「お~し、それじゃ、初めてだからゆっくりとやって慣れる事から始めようか。このボールを相手の陣地に叩き込んで相手が返せなかったら点が入る。簡単だろ?」
相対する2人はラケットを適当に持って変な構えを取って居た。あんな持ち方で打てるのだろうか?
「まぁ、楽しければいいし…… それじゃいくぞ~」
俺がゆっくりと振り抜き大きく玉が跳ねる感じでサーブしてやると、ユズハの瞳がカッと開くのが解った。
「貰った~!!」
ユズハは大きくラケットを引きつけた後、ゆっくりと跳ねる玉にラケットを叩きつける。玉は弾丸の様に返され、俺と愛の間をすり抜けた。もちろん俺は一歩も動く事が出来ない。
だが俺はユズハがピンポン玉を撃ち抜く瞬間は見えていた。ユズハのラケットが光り輝いている事を……
(こいつラケットに魔力を通して打ちやがった!!)
「おにぃ、私こんな速い玉取れないよ~」
ちらりと愛に視線を向けると、愛は既に泣き顔になっている。実際俺も取れる気がしない。
「私、卓球は辞めておくね。後は3人で楽しんで……」
愛は冷や汗を浮かべ、手を振りながらそそくさと部屋へと帰っていく。
「しょうがない。3人じゃ卓球は出来ないから…… シングルに変えるか! それじゃ今度はフラウが打ってみろよ」
今度は大丈夫だろうと、ユズハの時と同じ様に最初はゆっくりとサーブを打ちだす。
だがフラウはピンポン玉と大分離れた場所でラケットを振り抜いていた。そんな所でラケットを振っても当たる訳が無い。
「あはは、ちゃんとボールを見ないと」
俺がそう言おうとした瞬間、玉にラケットは当たっていないのに空中で反転し鋭い球が返ってくる。
「んなっ!!」
突然の事で反応出来ずに玉を見送るしかできなかった。
「フラウ、今何をやったんだ?」
怪しい…… ギロリと見つめて問いただす。
「私はただ、こんな小さなラケットでは打ち返せないので、ラケットの周囲に障壁を張ったまでですわ」
要するにフラウは魔法で張った障壁で打ち返したと言う事だ。こんな規格外の奴等とは戦えない。敵前逃亡を決めた俺は見学する方へとまわる。
「はぁ~ 俺じゃお前達の相手は無理だわ。それじゃ2人でやってみろよ。どっちが勝つか見ていてやるから」
俺の提案を受けて2人が向かい合う。
「ふふふ、前回は途中で止められましたから。今回は戦いでは無くスポーツですの。この勝負で勝った方が!」
「そうだね。勝った方が!」
2人の瞳にはメラメラと炎が燃え上がっている様に見えた。放っとくかと思い突っ込まずにそままにしているとユズハのサーブで勝負は始まる。
最初は魔力を通したラケットからスマッシュに近い速度の玉が繰り出された。
その球をフラウ動く事無く打ち返す。勿論ラケットに玉は当たっていない。
打ち返された玉を先程よりも強い力でユズハは打ち返す。
「喰らえ! エレメンタルショット!!」
(卓球やった事がないのに何故、必殺ショットを持っているんだ?)
「甘いですわ。ガイアウォール」
すると、ネット際にガラスの壁が作り出される。この魔法は本来ならば敵の攻撃を防ぐ魔法のはずなんだが……
(フラウは最早ラケットすら振っていないじゃないか!)
2人の戦いはおかしな光景だ。なんて言えばいいのだろう? 壁打ち? ユズハが物凄いスピードで壁打ちを続けている様にしか見えない。
(最近俺もこんな状況に慣れてきたかもしれない……)
だが2人の表情は真剣だ。風呂に入ったのに汗を書いている。ユズハはガイアウォールの壁が薄い所を探しているのか? 左右にボールを散らしている。だが相手はどんな所でも跳ね返していた。
だがガラスの壁にも所々ヒビが入っているのが解る。
唖然として見ていると激しい動きの所為で、なんとユズハの浴衣が少しづつ肌蹴てきている事に気づく。何故かブラジャーなどはしていないみたいで胸の形がどんどんと露わになっている。
ゴクリ……
俺は試合そっちのけで、ユズハに注意を向けた。
(もう少し、もう少しで山頂が見える)
俺が視線を一点に注いでいる間にも2人はますますヒートアップしていく。
「流石はフラウ。でも次で決めるよ」
ユズハは動き回って玉を拾い続けていたが体力もそろそろ限界の様だ。
「それはこっちのセリフですわ。叩き潰してあげます」
同じくフラウの方は魔力の消費が激しく、今も肩で息をしている。
「邪魔な防御壁はこの一撃で叩き壊す。くらえぇぇぇ 全開エレメンタルショット!!」
ユズハの渾身の一撃がフラウを襲う。ピンポン玉が楕円形に変形する程の高スピードで相手コートへ喰らい付く。
「させませんわ。魔力全開ガイアウォール」
フラウも見えない壁に全力の魔力を注ぎボールをはじき返そうとしていた。俺は俺でユズハの胸を凝視する。
「おぉぉぉ、もう少しで見えっ」
パーン!!
大きな破裂音と共に俺の額にピンポン玉が飛んでくる。当たった痛みで目の前は真っ白になり、念願の山頂を見る事は出来なかった。
「あいたた」
自身の前に落ちたピンポン玉を拾い上げ、卓球台の上で力尽きて果てている2人に告げた。
「この勝負引き分け!!」
拾ったボールは二つに分かれていた。どうやら衝撃に玉の方が耐えられなかったみたいだ。
「これで卓球は終わりだ。もう少しでご飯の時間だから部屋に帰ろう。ご飯を食べたら2人はもう一度温泉で汗をながしとけよ」
果てている2人を残して俺はラケットを返して玉は割れてしまったと伝える。お店の人も驚いていたが特に咎められる事なく部屋へと戻った。
チラリズムの力は恐ろしいく、俺の頭の中ではユズハの見えそうで見えなかった胸のイメージが焼き付いて離れずに、なかなか寝付けなかった。