11話
ある日の夕食時に父さんが突然、温泉旅行に行くと言いだす。
母さんと愛が拍手をして喜びその提案は可決される。こうして俺達川嶋家は次の大型連休に温泉旅行へ行く事となった。
「温泉旅行か~ うん。悪く無いな」
旅行が決まり俺が行き先の旅館の情報を携帯で見ているとフラウとユズハも携帯を覗き込んでくる。
俺の両腕には携帯を覗きこむ為に2人が胸が密着させてグイグイと押しつけていた。
前回の戦闘から2人のスキンシップが少々激しくなっている気がする。
「温泉? テレビで何度か見たけど、大きなお風呂に入る所でしょ?」
「ユズハそれは違いますわ。私の情報によりますと温泉には身体を癒す効果があるみたいですの。なので静養したい人やリラックスしたい人が訪れるみたいですわ」
「へ~ フラウは良く知っているじゃないか」
俺が感心するとフラウは嬉しそうに笑い、逆にユズハは唇を細めて拗ねていた。
「温泉って言うのはゆっくりお風呂につかって身体の疲れを癒す所でそして料理が旨い」
俺は風呂も好きだが、料理が楽しみであった。母さんの料理は美味しいのだが、やはりその地域特有の材料を使った郷土料理はまた格別に美味しい事だろう。
「今日、学校の帰りに温泉の事が書かれている旅行雑誌でも買ってくるから、それを見て勉強しておくように。くれぐれも異世界の常識を持ち込んで派目を外さない事」
この2人の暴走を止める事も俺の仕事だと思っている。異世界に居た時は共に命を預け合った大切な仲間だ。この程度のおせっかいは焼かせてもらおう。
放課後になると3人で駅前の大型書店に向かい。約束通り温泉の専用雑誌を買ってあげた。
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旅行当日、朝早く家を出た俺達は温泉地まで電車で移動する。車は渋滞する恐れもあるので事前に父さんが指定席を購入していた様だ。
初めて乗る電車にユズハもフラウも興奮気味である。
「これが電車。凄く速いですね」
「本当。馬の何倍位速いのかしら」
「う~ん。ちょっと待ってて調べてやるよ」
俺は携帯を取り出して馬の速さと電車の速さを比較してみた。馬は時速50km位で特急電車は時速130km位だと解る。
「大体3倍位速いかな? だけど馬は途中で休ませないと動かなくなるだろ? 電車はずっと同じ速度で走り続けるから到着時間で言えば更に差は広がると思う」
「まぁ3倍ですか! そして速度でこれ程までの巨体を動かせる技術が素晴らしいですわ。さすがは大和様のいる世界と言う事なのでしょう」
フラウは電車がお気に入りとなったみたいだ。
「俺が偉い訳じゃないんだけどな」
世間話をしながら電車に2時間程度揺られる。その間は愛も含めて4人でトランプゲームをやって楽しんだ。
意外な事にトランプはどのゲームをやってもフラウが一番強く、ユズハが一番弱かった。
心理戦でフラウに勝てる者は居ないんじゃないのか?
逆にユズハお前は顔に出過ぎだぞ……
罰ゲームでお菓子お預けの刑を受けたユズハは泣き顔になっていた。
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数本の電車を乗り継ぎ、昼前には最寄り駅にたどり着く。午前中はずっと電車で座りっぱなしだったのでホームに降りた途端に大きく背伸びをし固まった身体をほぐす。
ひと息つき周囲を見渡すとそこは既に温泉地ならでわの雰囲気がある景色が広がっていた。
駅から出ると温泉街特有の木造家屋のお店が建ち並び、歩く人々の中には浴衣姿の人達も見て取れる。ここは既に温泉地だと肌で実感し、興奮気味に俺は街の中へと飛び出した。
家族旅行は何年振りだろう。俺の記憶には異世界に飛ばされる迄の16年間と異世界で過ごした10年間が存在する。なので家族の旅行は最低でも10年を超えている事になるだろう。
先頭を進む父さんの後を付いて行き、15分程度歩くと大きな木造家屋の旅館にたどり着いた。ビルも多い温泉宿だが、そこをあえて木造宿を選んだ父さんのチョイスは俺を満足させるものだ。
ロビーで受け付けをすると部屋に案内された。全員が同じ部屋で大人5人が十分に寝れる程に部屋は広い。窓から見える景色は街の情緒を十分に感じられる絶景だった。
「それじゃ、夕食まで時間があるからみんな温泉に入ろうか」
父さんに言われて、男女別れた風呂へと向かう。異世界人の2人は温泉の入り方を解っているのだろうか? 俺は密かに心配しているのだが女風呂へ入る訳にも行かないので、後は天に運命を任せる事にする。
服を着替えて浴室に入る。まずは出入口付近に作られている掛け湯場で掛け湯を掛けて身体の汚れを落とす。
次に俺の場合だと最初に身体を洗うんだが、別にそのまま湯船に浸かっても大丈夫だった筈だ。
身体を洗った後に外湯に向かい、温泉に浸かる。湯の花と呼ばれる白い物体が温泉の中を漂っていた。初めてこの物体を見た時は気持ち悪いと感じたが、今となっては特に何も思わない。
ゆっくりと温泉に浸かっていると、身体の芯から温かくなって行くのが解る。身体が火照ってくれば一度湯からあがり、近くにあるベンチに座って火照りを冷ました後にもう一度温泉に浸かる。
それを何度か繰り返すと、身体中がポカポカになっていた。
浴室から出てベンチに座って待っていると、桜色に肌を染めたユズハ達が一緒に出てきた。フラウもユズハも髪はポニーテール状に括り、束ねた毛先を頭上に上げて留めていた。
普段は長い髪で見え隠れしていた、うなじや首筋が露わに出されて色っぽく見える。ドキリと心臓が高鳴るのを感じたが、感づかれる前に違う所へ視線を移す。
それに2人とも浴衣が似合っている。バランスの取れたプロポーションを持つユズハとダイナマイトボディーを持つフラウ。
こんな美女に好かれていると考えると少し嬉しく思う。