10話
フラウがこちらの世界に来てから数週間が経過している。何故だか解らないがフラウまでも俺と同じ学校に通い共に学んでいた。
実年齢は20歳なのだが、透き通った肌には艶があり若々しく美しい。なので何歳だと言っても通用してしまい本人の希望で俺と同じ学年で同じクラスに配属される事となった。
転校生が2名とも一つのクラスに配属される事は普通ではあり得ない。俺はあの2人が粉の力を使っていると予想する。こいつ等は使える物は何でも使う。
そんなある日の事だ。俺が自室で漫画を読んでいる横で2人はキャッキャと楽しそうに話し合っていた。
最初は気にも留めずに漫画に集中していたが、ちょこちょこ聞こえてきた一つのフレーズが気になり、聞き耳を立てる。
「正妻は10年間ずっと一緒に暮らしている私がふさわしいんです。なのでフラウは諦めて第2夫人で辛抱してください」
「いいえ、愛の深さに期間は関係ありませんわ。私と大和様の間に産まれた子供は王族の血を引く事になります。必ず優秀な子が生まれます。大和様もきっとそれを望んでいる筈ですわ。ユズハには悪いけど貴方こそ第2夫人で我慢なさって」
(おいおい、何を話し合っているんだ…… 確かに異世界は重婚OKだったけど)
俺は仲裁に入るべきかを真剣に悩む。中途半端に介入すれば、この下らない言い合いに巻き込まれてしまう。暫く無視をしていたが、2人はどんどんヒートアップしていく。
ため息をつき仕方なく俺は2人の会話に入る事を決めた。
「さっきから聴いていれば、俺を抜きにしてお前達だけで何故結婚の話しをしているんだよ。言って置くがこの日本では重婚は法律で禁止されているからな。だから第2夫人ってのは無理。だからそんな話はやるだけ無駄だ」
まだ17歳で結婚出来る歳でも無いし、結婚する気もない俺は素っ気なく言い放った。
俺の言葉を受けて2人は驚愕の表情をみせる。
「この世界は技術は優れていますのに、有能な血を後世に多く残す事は考えないのでしょうか? もしそうだとすれば何て後進的な文化なのでしょう」
「じゃあ、結婚できるのは一人だけって事?」
フラウはぼやき、ユズハが真理を呟いた。ユズハの言葉をきっかけに2人は突然睨み合い、火花を散らす。2人の気迫に押され俺は何歩か後ずさる。
睨み合う2人は突如立ち上がり部屋から出て行く。何故だか一度ユズハの部屋に入り、次に出てきた時は異世界の装備を装備していた。フラウも自身の道具袋から出した装備を着こんでいる。
そのまま2人は家から飛び出して行く。驚いた俺は2人の後を付いて行くしかなかった。
2人が向かった場所は俺とユズハが模擬戦を行った平地だ。そこで互いに距離を取り構えを取る。
「勝った方が大和様の妻になれる。それでいいわね」
「絶対に負けないから」
2人とも本気の表情だ。
フラウは自前の剣を握り既に魔力を通している。一方フラウは神聖魔術師が一般的によく使うステッキを自身の前に突きだした。
「ユズハ。貴方と本気でやり合うのは初めてね。私が神聖魔術師だからと言って油断していると足元を掬われるわよ」
「フラウが強いのは知っている。だけどこの戦いだけは負けられない」
(おいおい、お前達は親友じゃ無いのか!?)
「喰らいなさい。神に仇なす邪悪な敵へ神の鉄槌を下せ! ホーリーランス!!」
フラウが短い詠唱を紡ぐと自身の周囲に銀色の槍が次々と現れた。その槍の矛先は全てユズハに向けられている。
「邪魔者は消えなさい!」
フラウがそう言い放つと数十もの槍がユズハへ向けて高速で動き出した。ユズハは魔力を通した剣で自身を貫こうとする槍をはじき飛ばす。
周囲の地盤には飛ばされた槍が突き刺さり大きな穴がボコボコと空いていく。
「ヤバイ! ヤバイって! このままじゃ、山がボロボロになってしまうぞ」
俺は命を掛けて2人の戦いの仲裁に飛び込む。
「やめろ! やめてくれ~!!」
俺は何度か死にかけながらも何とか2人の戦いを止める事に成功する。
その後、納得が出来ない2人に対してまだ結婚できる歳にも達していないから、時間はあるから…… と必死で頼み込み何とか鉾を降ろして貰った。
いつの間に俺はこんなにモテる様になっていたんだ? それにしても俺の事を好きになってくれた人達が危険すぎる……
俺は傷だらけの身体を引きずり家路につく。
けれど今回は問題を先送りにしただけで、これからも2人の正妻を掛けた戦いは続きそうだ……




