1話
オリアルシル大陸の最奥に建てられた巨大な魔王城で、今まさに長きに渡る戦いに決着がつこうとしていた。
漆黒の法衣に身を包み異形の顔を持つ魔王と黒髪で白い鎧を纏った勇者が激闘を繰り広げている。
魔王の周りには倒された側近、兵士の屍が見受けられ、後は魔王ただ一人。
既に勇者と魔王の攻防も数時間に達し相応に疲れが見えていた。
「次の攻撃で最後だ。フラウ、支援魔法を頼む。ソフィーが遠距離攻撃を仕掛けた後に俺が斬り込むからユズハとエルザは後に続いてくれ」
素早く指示を出し剣を構える。頭上の空間から突如降り注ぐ光の粉は支援魔法のエフェクトだ。その後も赤い光や青い光が降り注ぐ、この光を受けると防御力や攻撃力が向上する。
フラウはオリアルシル国の王女で世界を救う為に勇者である俺のパーティーに自ら志願して入っていた。
長い金髪の髪と均等の取れた躯体を持ち神聖魔法使い手だ。
フラウの横で遠距離攻撃の詠唱を行っているのは、大陸一の攻撃魔法の使い手のソフィーである。メンバーの中で一番幼いが怒らすと一番手が付けられない。
ソフィーの詠唱が終わり手に持つステッキから巨大な火球の弾が現れる。最大の攻撃力を誇るテラファイアーの魔法。
「いきますよ~ 燃え尽きろテラファイアー!!」
テラファイアーは前衛に立つ俺達の頭上を越えて対峙する魔王へと突っ込んでいった。魔王は両手を自身の正面に突き出し防御壁を作りだして魔法を防ぐ。
テラファイアーの魔法と防御壁が押し合いをしている今が勝機と俺はいち早く駆け出した」
「今だ! 行くぞ」
魔王の体は大きく俺の2倍は超える。その懐まで潜り込むと俺は胴体に横払いの一撃を加えた。
魔法の押し合いをしていた魔王はバランスを崩しテラファイアーの爆炎に巻き込まれる。
次に攻撃を繰り出したのが、大陸一の格闘家であるエルザ。全身を纏うは動きが阻害されない様に考えられた軽装の神具で拳にはガントレット、足にはレッグアーマーが装備されている。
爆炎の中から飛び出し魔王へ神速の50連撃を叩き込んだ。
流石の魔王も3度に渡る攻撃にバランスを崩していた。
「貰った~!!」
続く攻撃は魔法剣士のユズハ。彼女は孤児で魔王軍に滅ぼされた村で俺が保護した女性だ。当時6歳で今は16歳になる。
この世界で生きる為に剣術を教えていたら、魔法が使える事も判明した。その後もメキメキと実力を付けて行き、いつの間にか俺と共に魔王を倒す事になっていた。
魔法剣士の魔法の一つであるエレメンタルソードは自身の武器に属性を付属させ敵に莫大なダメージを与える。
ユズハは赤く輝く剣でジャンプで大きく飛び上がり、魔王の肩から腰に掛けて切り裂いた。
魔王は青い血を撒き散らす。だが何歩か後退したが不屈の闘志で踏み止まっていた。
「最後は俺が決める」
俺は魔王が繰り出す必死の攻撃を潜り抜け、心臓に勇者の剣を突き刺す。
「ぐぅぅぅ」
魔王は呻き声を上げながら、足元から灰になって行き最後は塵となって消え去った。
異世界に召喚されてから既に10年が経過していた。だが遂に俺は魔王軍との戦いに勝利し、オリアルシル大陸を平和へと導いたのである。
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凱旋した俺達は大陸中の人達に崇められ英雄となった。
それから1カ月後、俺が元の世界に帰る日を迎える。世界を救うために俺を召喚したこの国の王は当初の約束を守ってくれたのだが、もう異世界に来て10年が経過している。
本音を言うと向こうに帰ってどうなってしまうのか解らないだけに不安も大きい。
だけどこの10年間の間ずっと帰りたいと願っていたのだ。その想いだけで俺は帰還用に用意された魔法陣の中央に立つ。
魔法陣の周囲にはパーティーのメンバーや王家の人々など世話になった人達が最後の別れの為に集まっている。そんな人達と俺は最後の別れを惜しんで行く。
もっとも辛かったのはやはりメンバー達との別れ。俺のパーティーはいわゆるハーレムパーティーだと言えた。メンバーが全て女性でしかもどの子も俺に好意を持ってくれていたのは俺自身も知っていた。
だけど、元の世界に帰りたいと願う俺はその気持ちを気付かぬ素振りで避けていたのだ。
誰もが大粒の涙を浮かべて泣き叫ぶ、王女であるフラウだけは凛とした姿勢で「この国を救ってくれてありがとうございました」と言ってくれた。
最後に言葉を交わすユズハは俺が育てた子供と言っても過言ではない。親として兄としてずっと接して来た。そのお陰で何処へ嫁に出しても恥ずかしくない程に綺麗で強く育ってくれた。
「ヤマト~ 行かないでぇぇぇ」
他の者達は俺の気持ちを汲んで言わなかった言葉をユズハは涙を流しながら懇願して来た。そのダメージは強力で心が揺らぎそうになる。
だけど俺はユズハの頭を撫でながら笑顔を見せた。実際はそれしか出来なかった訳だが……。
ユズハは俺の笑顔を見て、説得が無理だと悟り膝から崩れ落ち泣きながら動かなくなっていた。
俺はフラウに頷き返し儀式を開始して貰う。大勢の魔法使いが詠唱を始め魔力が魔法陣に注ぎこまれる。魔法陣から光の粉が浮き上がり俺を包み込んだ。
「これでやっと帰れる……」
この10年間の長い戦いを思い返し、呟く様に吐露していた。
「だめぇぇぇ 私を一人にしないでぇぇぇ」
俺の吐露を聞いた、ユズハが突然立ちあがり俺の体にしがみつく。
「えぇぇぇ!?」
光はそのまま発光を強め、俺とユズハを光の渦へと飲み込んでいった。
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気付けば視界には懐かしい景色が広がる。勉強机や壁にはアイドルのカレンダー、寝心地が良いベットは俺のお気に入りだった。薄れていた記憶がドンドンと溢れ出してくる。
「間違いない…… 俺は日本に帰って来たんだ」
達成感が体中を駆け巡り大きく息をすう。机の上に置かれている鏡が俺を映しだしており、その姿は10年前の姿をしていた。
「召喚された時に戻れたのか、今思えば何か長い夢でも見ていた気分だな……」
感慨深くそう感想を述べていると、俺は在る事に気付く。
「ユズハ…… まさかお前まで付いて来てしまうとは、一体どうすればいいんだよ?」
俺の視線の先にはスヤスヤと眠りに付くユズハの姿。服装は普段着ている鎧を装備しており、見えている太ももや腕などは赤ちゃんの肌の様にきめ細かく白い。髪は長く美しい金髪が窓から注ぐ日の光を受けて煌めいていた。コスプレ会場に行けば一瞬で人気者になる事間違いないだろう。
普通の高校生に戻った俺にはこの状況を打破する事は不可能に近い。両手で頭を掴み悩み苦しんでいた。