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青春恋愛短編集~小さな切なさを~

永遠の続き

 10年ぶりに、昔通っていた高校に足を運んでみた。校舎の横から見える、屋上からの景色。あの頃とあまり変わらないなと思いながら。この景色につまっている思い出は、大学時代の賑やかさと、社会人生活との厳しさとで、しばらく忘れていたものだった。

 高校時代。家庭と、学校と。そればかりの世界だった。他に世界があると信じていなかった。何の取り柄もなかったなと、今でも思う。遠くへ出かけたいと思いながら、小さな場所でヒソヒソしていた。

 トキメキってなんだろうな、と最近思う。自分の心臓がどこにあるのかわからなくなるほど、毎日が毎日すぎて。平和かといえば、そうでもないくらい、毎日慌ただしいけど、ただそれだけで。何処に忘れたんだろうと思いながら、屋上の片隅に歩いていくと、何となくあの日の感情が沸々とよみがえる。

 空が晴れていたはずなのに、ポツリポツリと降り出した。地面がゆっくりと暗い色に染まっていく。傘を忘れていた。いつもなら、傘がないことを罵りたくなる性格だったが、湧いてきた思い出に目眩がしてきた。

 あの日のキス。雨の中、ずぶ濡れの髪。目が合った瞬間、今しかないと思った。体を引き寄せて、抱きしめた。キスをした、この屋上の片隅で。切なかった。焼けるような心と、燃えるような感情。あの一瞬は、高校時代の全てだったなと思う。世界が全て、夢に包まれて、自分の鼓動と相手の鼓動だけが、確かにここにあった。

 永遠は、こんなにも儚くもろいものなのか。冷めないものだと信じていた夢。

 いつの間に、計算できるようになったのか。したくもない打算で生きている。

 雨が、今、この髪をずぶ濡れにして。あぁ、トキメキはまだここにあった、この場所に置き忘れていた。あのキスは、この長い道の一瞬だったけど、永遠に狂おしい夢だった。

 あぁ、ここにいる、自分は今、ここにいる。

 髪から滴がしたたり落ちて。もともと器用なんかじゃないのに、器用なフリをしていた。何でも知っているような顔してる、自分を鏡で見てきた。情熱って、そんなもんじゃないだろう?

 だけど、このまま永遠を持ち帰っていいのか?計算高い理性が邪魔をして。だって、トキメキって痛いだろう?

 すっかり色が変わった、足元のコンクリート。迷いながら、戸惑って、立ち尽くしていた。わかっているんだ、痛いのは、もうこれで最後にしたくて、心の奥にしまっていたこと。

 だけど、隠し通せるようなもの、情熱なんて呼ばないだろ?

 永遠が、音を立てて降ってくる。夢が、風のようにからみついてくる。あの痛みと向かい合う時がきたんだ。

 屋上から帰る時。確かに自分の胸には、来た時とは違うものがそこにはあった。

 もう大丈夫、忘れ物はちゃんと受け取った。何処へでも行けるし、何かになることもできる。

 雨がやんで、再び晴れ間がのぞいた。もうここに来なくても大丈夫なんだなと思いながら、少し目をつむる。永遠の続きを描けそうな気がした。

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