第九十六話 血の繋がっていない姉妹の入浴 その1
「お嬢様、ナンバーズのNo.がNo.3からNo.2に昇格しました」
「ええ、知ってるわ」
盛り上がった背もたれと座と、魅力的な植物模様と、見るからに高級な椅子に座っているミカは、その若執事の曉と、ナンバーズについて会話をしている。
「お嬢様の実力の向上と、元No.2の足羽様のご年齢を考慮してのこと」
「あの老人、確か82歳だったわよね。それでもまだNo.3の現役なのね......」
「はは、あの方の生命力ははかり知れませんね」
足羽浩の年齢に比例しない強さにたいしてか、曉は苦笑いをする。
「私も82歳でナンバーズの一員......は流石に無理ね。それどころか下級戦士以下かも」
ミカは未来の自分を自虐すると、彼女の隣にある窓に頭をつける。
窓の向こうは手前から庭、正門と石壁、その少し向こうには木々が繁っており、近隣住民はいない、自然のみである。
森林は10メートルあるかないかぐらいだが、ペソ城の異常ともいえる巨大な森林と比べたらかなり小さい。
(あれから三週間か......)
あれから、というのは、デュルとの二度目の戦闘である。
一度目ほどではないにしろ、トラップもあって苦戦を強いられていた。
そのトラップにやられた右足は、まだ治りきっていない。
(もうあんなひどい目には遭いたくないわ......まあ無理だろうけど)
そう思いながら、ミカはふと窓の外を見ると、何か生物の影が門へと迫ってきているのが確認できた。
「あ」
エネミーであった。
ミカの住居は小さな森におおきな家と、目立っているがゆえに、度々エネミーが邸へ接近し、侵入しようとする。
住民が周りに住み着かないのも、恐らくこのせいだろう。
「曉、客が来たわよ」
「かしこまりました」
暁は一礼すると、部屋から立ち去って行った。
こうして、ほとんどの場合は曉に接待を任せている。
「エネミーがここに来る度に思うけど......馬鹿ね」
彼女は向こうで門を壊そうと努力しているエネミーに向かって罵って見せる。
自分と白き嬢との力量を計れずに、そして一片の恐れも抱えず、『彼女を倒す』と言う決意だけに背中を押されて赴いていく......しかもその執事の手によって、彼女に会うことすら叶わず、無念の死を遂げる。
その怖いもの知らずな所だけは褒めるべきか。
「......風呂にはいろ」
このままエネミーが死んでいく様を見るのも詰まらないので、彼女は椅子からゆっくりと立つと、浴室に向かっていった。
その道中、かすれた悲鳴が微かに聞こえた。
※ ※ ※
浴室の前まで来た。
例の怪我は痛むことはなかった。
「さて、中に入ろうか」
彼女はスライドドアを横に引く。
そこには脱衣所である、バスルームはさらにその向こうの扉である。
服を入れる為のカゴが入ったロッカーが壁に密着され、その壁は貴族風の、規則的な模様が描かれている。
だが、そこには先客がいたようで。
「お......」
腕を上げ、上の服をちょうど脱いだところでその少女は静止し、ミカの方を見る。
「......ああ、メアリー、先に入ってていいわよ」
ミカはそれを見るなり、さっさとその場から立ち去ろうとするが、
「ああお姉様待って!」
メアリーは片腕に服を引っ掻け、下着を露出させたまま、去ろうとするミカを引き留める。
腕を掴まれ、彼女が行く方向とは反対に引っ張られ、「うっ」という声を漏らしながら後ろに下がる。
「せっかくここまで来たんだから、一緒に入りましょうよ?」
「え? いや、あれ一応一人用だし」
「え~」
こうやってミカが拒否をすると、メアリーは眉間にしわを作る。
姉に対して甘えん坊な妹である。
「それに一人でゆっくり入りたい派だし......」
彼女はそうやって主張するが、右腕を引っ張ってメアリーはなかなかその右腕を離さない。
その長い抵抗にだんだんとその意志は萎んでいく。
(子供かよ。いや中学二年だから一応子供なんだけどさ.....)
と、心の中で呟いてる間にも、彼女はガッチリとミカをホールドしている。
「......はぁ、分かったわよ」
「やった♪」
もう面倒くさくなったミカは渋々受け入れると、メアリー不満顔は一転、満面の笑みを浮かべる。
甘いのは自分もじゃないか、と思うミカであった。




