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第九十四話 決着

 二つのエネルギーはぶつかった途端にとてつもない光と突風と爆音を放出する。

 月夜の光だけが照らしていた暗い地上は、太陽の光よりもはるかに眩しく照らされる。

 爆発音とともに次々とガラスが割れる音がするのは、あまりの強大な力にフローズフィールドの耐久力が限界を超えたのだろう。


 「......」


 サナは裾で目を隠している。

 爆風で着物が後ろへ大きく煽られるも、彼女自身はほとんど動かない。


 暫くして、耳がつぶれてしまいそうなくらいの音は止み、光は消えていった。

 再び姿を現した、城の高さに劣らない高さを誇る森林は、軽く200メートルを超すほどの焼野原と化していた。

 木は吹き飛ばされ、残ったのは根元の幹だけ。

 しかし一方、サナの背後に位置していた王室は、多少の崩れは起きているものの、原型はとどめている。

 その後ろの施設に至っては、さっきの攻撃によるダメージはほぼ無しである。

 彼女は後ろを向いてそのことに気づき、


 「ああ、良かった」


 と一安心。

 そして再び変わり果てた森林に目を向ける。

 サナが展開していたフローズフィールドを持ってしても耐えきることはできず、彼女の周りのはバラバラに砕け散っている。

 だがかなり遠くの地面や木々にまで侵食していたため、それが火の発生を防ぎ、燃え盛るような事態はならなかったものの、ほとんどの木はその『割れにくい氷』と共に跡形もなく消し飛んでいる。


 「結構な惨事ねぇ......」


 サナはそれを他人事のように言うと、指をパチンと鳴らし、遠くの森林を覆っているフローズフィールドや、その破片を解く。

 白い物体は溶けていくように消えていった。

 そしてサナは今度は、カルマンを探し始める。

 すぐに見つかった、赤い化け物が幹の根元のみが残った気にもたれている。


 「......」


 無残な姿になった彼は、よく耳を澄まさないと聞こえないぐらいの小さい呼吸をしている。

 四肢が無造作に避けた彼は、サナに初めて顔を見せたときと同じフォルムに戻っている。

 どうも傷だらけであり、赤の上から赤が全身へと塗られている。


 「......回復はしないの?」


 サナはゆっくりと彼に声をかける。

 同時に、黒い枝は彼女の頬や手から引いていく。


 「......もはや、その力すら......」


 残っていないと言いたかったのだろうが、彼は自分自身の血でむせる。


 「すごく強かったわ、あなた、いい勝負だったわよ」

 「......嫌味、か......」


 彼は途切れ途切れながらもサナに言葉を投げる。


 「勝負に、なってなかった、だろう......くそ、我は、勝てない勝負に、挑んでしまったようだな......」


 カルマンは力を振り絞るように口を笑わせる。


 「じゃあ、勝てるといったのは......」

 「プライドだ......我の辞書に、『敗北』という文字は......無かったのだ.......」

 「へぇ......」


 カルマンはもはや話すことすら限界になっている。

 サナはそれに対して少しの笑みを受かべていない。


 「サナ・アストルだったか......貴様、強いな......とんでもないくらいに......どうのようにしてその力が手に入ったのか......知りたいものだ......」

 「ありがとう......」


 サナはそうしてカルマンに背を向けた直後、「......あ」と、何か思い出したように声を漏らす。


 「そうだカルマン、どうしてこの力が手に入ったか、知りたい?」


 サナはそういうと、再びカルマンの方を向く。

 そして、少し固まる。

 僅かに聞こえていた息遣いは、もはや全く聞こえず、置物のようになっている。


 「............もう、聞いてないか」


 彼女はまたカルマンに黄色の髪の後頭部を見せると、そのまま王室の方向へとゆっくりと歩き去っていった。


 ※ ※ ※


 「さっきからいったいどれだけ暴れてるんだあの人は......」


 アマツは多少の戸惑いを示しながら、アリアスとサラの三人で王室へと向かう。


 「サナはそういうやつだ、許してやれ」


 サラは腕の包帯を巻き直しながら移動している。

 彼らはさっき残党を殲滅し終えたところだが、どうにも地鳴りや爆発音が止まらない。

 その頃、ほとんどの場所で戦闘が終わってたんだというから、サナによるものに違いない。


 「着いたわ。ここが王室ね......」


 とうとう例の場所についていた。


 「すげえ......戦いの跡がこんなに......」


 アマツはその王室に圧倒される。

 王室にはもう先着が複数名おり、皆、この戦いの最高功労者であるサナを迎えいれている。

 アマツたちはそのサナのもとへと向かう。

 今の彼女は明るい彼女だ。


 「サナさん......!」

 「だから、敬語はいいって言ってるじゃん」


 アマツに対する彼女の第一声がこれである。


 「す、すみま......じゃなくてごめん。で、倒したエネミーは......」

 「そこよ」


 と、壁に開いた穴の向こう側を指さす。


 「え」


 周りの森林が吹き飛ばされている光景を見たアマツやアリアスはほぼ同時に声を漏らす。

 

 「まあ、なんと派手にやって......」

 「ていうかどこだよ、エネミーって」

 「赤い生物がそのエネミーよ、まあ頑張って探してちょうだい」


 サナは笑顔でアマツたちに手を振る。


 「え、あ、うん......」


 アマツとアリアスはその穴を潜って、地に入り、めちゃくちゃに破壊されたサナが倒したエネミーを探す。


 「あ」


 赤い物体を見たアマツはピタッと体を止める。


 「いたの?」

 「ああ」


 アリアスがアマツに小走りで向かっている。


 「多分これだろ......」


 カルマンである、彼はやはり動かずにじっとしている。

 いつの間にか、ほかの戦士達も、興味を示しながらカルマンの周りを囲っている。


 「なんて凶悪な顔つきなの......」

 「俺たちじゃとても勝てる相手じゃないだろ」


 と、彼らは屍を観察したのち、「もう帰ろうぜ」といった一人の戦士の声で、続々と王室へと戻っていく。


 「アマツ、いきましょ」

 「ああ」


 アリアスの声に釣られ、アマツは一旦その場を離れようとする。

 だが、アマツはもう一度カルマンを見ると、アマツは不思議に思った。


 「......ん?」


 彼には、何故だかわからないが、真顔なのにカルマンが微笑んでいるように見えたのだった。

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