第九十三話 フローズフィールド
「『フローズフィールド』」
サナはそう言うと、彼女から広がっていくように地面が白くなっていく。
それと共に、カチコチと言う音が鳴り、固まっていく。
「なんだ......?」
カルマンはその様子をなすすべもなく見ていると、
「足元に注意ね」
というサナが忠告する。
カルマンは足元を見ると、自らの足もその半透明の物体に覆われているのに気付く。
「何......!」
不意を突かれたように動揺した彼はすぐに足を引っ張り、地面から離そうとするも、この侵略してくる白い氷は分解される様子もなく、それどころか膝の辺りまで急速に支配を拡大させていった。
「こうなったら......!!」
するとカルマンは両太ももに手を一気に差し込んで、ある程度断裂した足を切り離すと言う強引な手に打って出た。
「ぬ......!!」
彼は脆くなった足を片方ずつ引っ張り、ちぎりつつも何とか拘束からは解放される。
がしかし、彼が手で着地を試みようとしたところ、手を滑らせて尻餅をつく。
「あらら、ボスらしくない失態ね......」
サナは苦笑いを見せる。
「何だこれは......」
「滑りやすく、かつ破壊されにくい物質を発生させて、地面やそれに接しているものに拡大していくのよ。」
彼女は笑みを浮かべながら説明する。
「浸食されたものや生物は私が解かない限り行動不能になり、回避しても滑るから機動力は著しく落ちる。いわば、溶けない氷ね」
彼女は右人差し指をピンと立てる。
カルマンは完全に再生された両足を使ってぎこちなく立ち上がる。
「なるほど、溶けない氷か......だが、その程度の小細工かっ!」
カルマンはそう言うとスケートリンクと化した地面を踏み込む。
割れにくい筈の氷が音を立ててひびが入る。
「お」
サナが短く声を漏らす間に、パリンっと割れる音がしたのとほぼ同時に彼女の左横にカルマンがスピードを落とすように滑りながら現れる。
少なからずフローズフィールドの効果は表れているようだ。
「はあああ......!!!」
カルマンは弾を出し、それを掴みながらサナに向かっていく。
彼は弾を押し込むように放とうとするが、サナの闇手が彼の腕を払いのけた。
外れた弾はそのまま空中へと飛んでいき、少しあとに爆発音が響く。
「甘いわね」
「ぬぬぬ......!!」
カルマンは悔しさで歯を噛み締めると、フリーだった足で闇手をなぎ払い、闇手をちぎり飛ばした後、もう片方の足で体を捻るようにしてサナの顔面目掛けて蹴る。
瞬きよりも速い蹴りだったが、サナは咄嗟に首を傾げて回避する。
それでも蹴りは頬をかすり、頬を覆っていた黒い網は一部砕け、更に血も滲み出てくる。
「ん......」
「このっ!!」
サナがそれに対して痛がる暇もなく、今度は腹部に一発、強い殴りが入る。
「うぐっ......!!」
サナは声を漏らし、口からも血を撒き散らす。
カルマンは更に攻撃を仕掛けようとしたが、それは闇手が許さなかった。
闇手は一本の木の幹のような大きさになり、カルマンを大きく突き飛ばす。
カルマンは巨大な木を数本破壊しながら飛ばされ、数十メートル先でようやく止まった。
彼が飛ばされた後には、道が出来上がっている。
「はぁ......」
サナは痛みを和らげるためか、大きく行きを吐く。
頬の傷はいつの間にか治っている。
「チッ......」
所々傷ついているカルマンは小さく舌打ちすると、即座に修復させ、立ち上がる。
「貴様は......我が絶対に倒して見せる!!」
彼は叫びながらある木を踏み台にしてサナに向かって飛ぶようにして突っ込んでいく。
そして赤い拳でサナを殴ろうとしたときだ。
「スカルチャック」
サナはそれを呟くと、直後に複数の色がマーブリングされたようなビームがその拳に当たる。
拳や腕のの肉は瞬時に吹き飛び、残ったのは白い骨のみとなった。
「何......!?」
カルマンが怯んでいる隙に、彼女は両手から普通のビーム砲を放ち、再び彼を遠ざける。
滑る地面だったが、彼は何とか足だけで踏ん張る。
「まだそんな技があるとは......」
彼はそう言いながらも、直ぐに骨の周りに肉をつける。
「......あなた、分かってるんでしょ?」
「何をだ」
「この勝負の結果を」
凛々しく立っているサナはカルマンに問う。
「......ああ、勿論だ」
彼はニヤッと笑う。
「我が勝つのだ、我が!!」
彼は自信を込めた様子で叫ぶ。
「......」
「『貴様が勝つ』と言うような返事が欲しかったようだな。だが我のプライドは貴様が思うほど柔らかくは無いのだ!!」
カルマンが叫んだ途端、地響きが起こり始める。
地面には徐々にヒビが入る。
「我は貴様に勝てる程の力がある、絶対に貴様を我の手で葬ってやる!! 我のプライドにかけても!!!」
彼の口からは光が見え始め、その光が大きくなる度に、白い地面は割れ、木々は揺れる。
「......プライドねぇ」
世界の終末のようなムードにも関わらず、サナは笑みを浮かべる。
彼女は一回深呼吸をすると、右腕に力を入れる。
すると右手からは、蒼いエネルギー弾を出す。
それは大きく光を放っており、彼女の全力の技だと言うことが明らかに分かる。
「ここまでプライドの高いエネミー、初めてだわ」
カルマンが口から特大のビームと同時に、彼女はその高エネルギー弾を投げた。