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第七十五話 相応しい死に方

 「く、鎖......!?」


 それは本棚の一つから飛び出している。

 鎖は本棚の本を突き破ると、ミカの足を貫通して、その槍状となっている先が床に刺さって固定されている。

 それに、他の方向からも鎖が3本飛んできた。

 ミカは痛みを堪えながらもうまくかわす。


 彼女もこの痛みを表に出さずに乗り切ることは出来ず、顔を少し歪め、少量の汗を垂らす。


 (だけど......あの時程ではないわ)


 以前に邸の庭でデュルと戦った時を回想する。

 あれほどの痛みを全身で受けることは初めてであった。

 その時を思えば、この程度のことなんぞ、軽いものである。


 「ヒャヒャヒャ......引っ掛かったな!!」


 デュルはその光景をみて高笑いをする。


 「どうだ、壁の向こうには人を感知すると鎖を発射する機械を設置してあるのだ!!」


 彼は自慢げにそう説明する。


 「やっぱり、何かあると思ったのよね......実に貴方らしい、卑劣な手だわ」


 ミカがそう言った途端、今度は鎖が一気に引っ込んでいった。

 彼女の足に突き抜けた鎖も、強引に引っこ抜けていく。


 「いっ......!!」


 かなりの痛さに声を漏らしてしまう。

 一度できた創傷を再び弄られるというのは、より痛く感じるものである。


 「ウヒヒ、痛そう痛そう」


 それを見世物を見ているかのように楽しむデュル。

 

 「......こんなの、大したことではないわ」


 彼女はそう強がってみるも、右足の負傷は大きかった。


 (右足が痛くて動かせないわ......)


 彼女の右足はまともに動かすことは出来なくなり、彼女の機動力は著しく失うこととなった。


 (バリアを使うという手もあるけど、あれは体力を消費する......)


 彼女の右足が徐々に赤くなっていく中、デュルはニタニタと薄汚い笑みを浮かべる。


 「ウヒョオオオ!! 俺の作戦勝ちだあああ!!」


 彼は自らの策が成功したことを喜びながら、容赦なくミカに飛び掛かる。

 右足が使えない彼女は左足を使ってバックステップで回避する。

 しかし、片足だけで回避するというのは、難しく、着地の時にバランスを崩してしまう。


 (ああもう、なんて不便なの......!)


 片足しか使えないことに心中で不満をぶつけつつ、彼女は手で体を支える。


 「効果は抜群だなぁ!!」


 デュルはそう叫びながら尚もブローを仕掛けてくる。

 ミカはそれを回避、たまにバリアで防いでいく、という攻防を繰り広げていると、突如目の前に鎖が風を切って通って行った。


 「うわっ!?」


 危なかった。

 下手したら自分の胴体は串刺しにされているところだった。


 「気をつけろよ! ほかにも鎖はあるぞ!」


 デュルがからかい口調で言う。

 彼の発言がいちいちミカの気に触れる。


 「うるさいわ!」


 ミカは激高気味に返す。

 そして避けてばかりで入られないと、ビームを放つ。

 しかし、そのビームの威力も低下しているのが明らかだった。

 ビームの一つが本棚にあたり、複数の本が四散。

 本はデュルの頭上を襲う。


 「ぬっ!」


 彼が少し怯んでいる隙にミカは距離を取る。


 (鎖の発射装置の類のものがまだあるとするなら、迂闊には動けないわね)


 と、デュルがまたしてもミカに接近戦を挑んでくる。

 が、真正面ではない、本棚を飛び台にし、それを蹴りながらミカの背後に立つ。


 「喰らえ!!」


 デュルが彼女の顔面にパンチを喰らわそうとした時、トラップの鎖が彼に向かって飛んできた。


 「ウヒッ!?」


 彼は驚きながらも急いで後退する。

 刹那、彼が回避する前の位置に鎖が突き刺さる。


 「ふぃ~、危ねえ」


 彼は大きく息を吐く。


 (......! あいつ、トラップの位置を把握していない?)


 ミカは彼のさっきの行動を分析する。

 しかし、彼女がゆっくりと考える暇を与えず、デュルがブローを仕掛ける。


 (もしそうなら......)


 そして彼女は作戦を考え付く。

 デュルを鎖に巻き込むというものだ。


 (鎖の発射される位置は大方把握しているわ。そこにあいつを誘導し、後はあいつが馬鹿なことを祈るだけ!)


 ミカがそこに誘導する位置はもう決めていた。

 彼女がそのトラップに引っかかった場所だ。

 彼女は右足をうまく庇いながら避け続ける。


 「ウヒョオオウ、どうしたどうした、避けてばかりじゃ話にならんぞおおおお!!」


 デュルはミカの思惑に気づかぬままトラップの位置にまんまと誘導される。

 そして彼女はトラップの位置に着く。



 (私は確実にトラップに気づかれたはず!)


 ミカはすぐにその場を離れ、一方のデュルは彼女を追うためにトラップの位置の目の前までくる。

 と同時に、4本の鎖が一斉に飛び出す。


 「ヒョオオウ!!」


 彼はそれに気づ気すらせずトラップの位置に入った。


 「やっぱり、馬鹿でしたのね」


 鎖がデュルを襲う際、ミカは心を込めて罵る。


 「へ?」


 デュルの間抜けた声の直後、彼の体に4本の鎖が、鈍い音を立てながら突き刺さっていった。


 「あ......あら......?」


 それは右足、右腕、腹部、首に刺さる。


 「策に溺れたわね、デュル」


 彼女は右足を引きずりながらデュルのもとへと近づく。


 「自らが案じた戦術に自らがまる......貴方には一番相応しい死に方じゃないのかしら」

 「は......はひ......助けて......」

 


 彼女はデュルに掌を見せると、そこから光輪を出す。


 「私に二度も傷を負わせたことは称えるわ。それに敬意を表して、最後は私の手で葬る......」


 彼女はそういうと、命乞いをしているデュルをビームで打ち抜いた。

 彼は白目を剥きながらぐったりとする。


 「......惨めな死に様ね。これがあなたの運命よ」


 彼女は動かぬ彼に背を向けて、右足を引きずりながら、床が本で埋まっている書斎の出口を目指した。


 

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