第六十九話 変わり身の術
E村、ペソ城跡。
かつては大魔王ペソの居城となっていたが、ディフェンサーズとの戦いによってペソは逝去、戦場となった城は王室のみが崩れた廃墟と化していた。
現在はクローバーの根城となっており、そこを今まさに、ディフェンサーズが総力を上げて攻め落とそうと歩み寄っている。
だがクローバーは、そんなことは知るよしもないのである。
時は夜。
城の門の前、クローバーの4人の手下達は門番をしている。
「ああ、つまらん」
門番2人はこの仕事の愚痴を言っている。
「こんな真夜中にただ立っているなんて、どうせ何も起こらないだろ、だろ?」
「全くだ」
パーカーを着ている手下達は、この任務を不満に思っているようだ。
「おい、ちゃんとやれよな。いつディフェンサーズが来るかわからないだろ」
もう一人の門番がその2人を咎める。
「あーあ、真面目だな、お前」
「当たり前だ。任務はちゃんとやりきるべきだ」
「何もかも馬鹿真面目に取り組んでたら、身が持たないぞ。なあ?」
と、一人が協調していたもう一人に相槌を求める。
「......」
しかし、何故か反応がない。
彼はじっと立ったまま動かない。
「おい、寝ちまったのか?」
彼は手を振ってみる。
それでも反応なしだ。
「ほらな、俺らは働きすぎなんだよ。なのにボスは無茶なことをしやがるぜ......」
と、彼は動かない手下のパーカーのフードをめくり上げる。
そこから見えたのは、目を開いたまま呆けている顔であった。
「え......」
どう見ても不自然だ。
それは彼にもわかったのだ。
「おい、お前どうし――」
とその時、彼の顔に生温かいものがついた。
それは、動かない手下の首から出ていた。
「は......?」
その肉塊は血を噴き出しながらドサッと倒れる。
「し、死んでいる......!」
そして手下は絶叫し、腰を抜かす。
もう一人の手下もその光景に驚愕する。
「い、いつの間に死んでたんだ......!?」
「あ、あわわ......」
と、二人とも動揺しているなか、その死体の後ろで、一人だけ騒がず、冷静な人物がいた。
「......」
その男は沈黙しながら立っている。
「おい、まさか、お前も......」
余りにも静かだったのか、腰をおろしている手下が震えている手で彼を指差す。
「......いや、死んでいない」
男が口を開く。
「ああそうか、一体どうなってやがんだ」
彼の顔は汗で濡れている。
彼は少しずつ立ち上がる。
「誰がこいつを殺したんだ――」
彼が体を見ながらそう言うと、彼の顔に複数の線が入った。
その前では、静かだった男が赤くなった剣を持っている。
「あ、あろェ......」
男の顔は線を境にして崩れ始める。
そして、全身血まみれになりながら倒れた。
「さあ、誰だろうな」
手下を斬った男は惚ける。
「あ......お、お前......」
その近く、もう一人の手下は怒りの表情を浮かべている。
「お前かああああ!!」
激昂した手下は剣を抜くと、その男に剣を向け、腹部めがけて突き刺そうとする
剣はパーカーを貫通する。
「やった......!!」
しかし、剣に貫かれているのはパーカーだけであった。
そこに男の姿はない。
手下が困惑していると、彼の首もとに刃が向けられた。
「!?」
「どこに向かって突いている」
手下の背後に、口を布でマスキングしている男の姿があった。
男は彼の手首を膝で打ち、剣を落とすと、刀を持っていない左腕で彼の両腕を拘束した。
「あ......」
手下の歯は震え、息遣いも荒くなっている。
「た、確かに剣は腹を......」
「忍法の一つ、『変わり身の術』だ。貴様も知っているだろう」
「お前が成りすました奴はどうした......」
「切り捨てた」
彼は忍者である。
こっそりとクローバーの手下一人に成りすますことも容易い事であった。
「死ぬ前に一つ聞きたいことがある。貴様のボスはこの城にいるのか」
「そ、そんなの、言うわけがない!!」
と、忍者の質問に答えるのを拒否すると、忍者は刀を持っている右腕を一気に引く。
「そうか、いるんだな」
と言うと、手下の両腕の拘束をほどき、脚で手下を突き飛ばす。
そして鉄柵の門の前に立つと、門を固めている鎖を切る。
「寿之め、こんなつまらぬ役割を押し付けやがって......」
男は不満を漏らしながらも、機械を取り出した。
そして、そこにあるボタンを押す。
すると、林が一気に騒々しくなった。
「しかし、この時をどれだけ待っていたことか」
林の中から、ディフェンサーズの戦士達が次々と現れてくる。
「......クローバー、今夜が貴様らの最期だな」




