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第六十八話 説教

  「グウウウウウ」


 T市で、レベル3のエネミーが発生した。

 そのエネミーはトカゲのようで、口には歯がびっしりと生え揃っている。


 「お、エネミーは久しぶりだな」


 と、アマツはやる気満々だ。

 実は彼、1ヶ月近くクローバー等の人間のみで、エネミーは討伐していなかった。

 久々のエネミー退治ということもあって、アマツはわくわくしている。

 アマツはエネミーに近づくと、脚に炎を宿し、襲ってくるエネミーの顎を蹴りあげた。


 「ブグッ」


 顔は空を向き、歯の一部も砕け散る。



 「レベル3なんぞ敵じゃねえ!」


 アマツは脚の炎を消しながら叫ぶ。

 そしてその炎を腕に移し、早速止めを刺そうとする。

 すると、アマツを威嚇していたエネミーが突然右にそっぽを向いた。


 「え?」


 何に興味を示したのか。

 彼は気になってエネミーと同じ右を向いた。


 「あ!?」


 そこには、40代程の、呆けた顔をした男性が立っていた。

 彼の髪はボサボサとしていて、その男の顔には希望の()の文字も浮かんでいない。

 目が死んでいる男は、そのエネミーを前に逃げ出すどころか、恐怖する様子すらない。


 「おいおい、このおじさんまさか......」


 この行動で考えられるのは一つしかなかった。


 「グエエエエエ!!」


 エネミーは歯が所々抜けた口を大きく開き、その男を噛み砕こうと四つん這いに走っていく。

 男は棒立ちのまま逃げる様子はない。


 (まずい!)


 このままではあの男の命はない。

 アマツは急いで腕に力を込め、一気に火炎放射を放つ。


 「ファースト・ファイア!!」


 彼の炎は男を噛み千切ろうとしたエネミーを押す。

 エネミーは真っ黒になり、カエルの妖怪が食いついてきそうな丸焼きになった。


 「おい、おじさん!」


 彼は急いで男のもとへ駆けつけるが、彼は喜ぶどころか、落胆している様子であった。


 ※ ※ ※


 「はい」


 アマツは自動販売機から缶ジュースを2本買い、そのうちの一本を男に差し出す。


 「あ、どうも......」


 公園のベンチ男は気弱な声を発し、そのジュースを手に取る。

 アマツは男の隣に座ると、缶を開けて飲み始める。


 「......死にたかったんですか?」


 彼はさりげなく聞く。

 彼はしばらく間を置いた後、口をゆっくり開く。


 「......生きる意味を、失ったんだ......」


 男はしょぼくれながら言う。


 「生きる意味......?」

 「俺には、妻と一人の息子がいた。少し小さめの一軒家で暮らしていた。いたって普通だ、跳び抜けて良いことや悪いことがあったわけじゃない。だけど、俺は幸せだった......」


 男はジュースを少し飲むと、溜息をつく。

 

 「だがある日、エネミーにが現れた。そいつは俺たちの街を破壊し、家族も襲った。俺は運よく生き残れたが、妻や子供は......」


 そういい終えたところで、男からは嗚咽が漏れた。


 「あ......(なんか、悪いことしちゃったな......)」


 彼は内心悔やむ。

 気になってつい聞いてしまったのだ。


 「......ああ、すまんな、気を悪くしてしまったな」

 「いえいえ、こちらこそすみません」


 男は涙を拭う。


 「......おじさん」

 「?」


 男はアマツのほうを振り向く。

 

 「俺の友人も、同じように家族を失ったんですよ」


 アマツは十郎の話を持ちかけてきた。

 アマツは彼の電話によって救われたのだ。

 そのおじさんにもその話をしたら、きっと思い直してくれるだろうとおもったのだ。

 

 「それは......気の毒だったな......」

 「まあ、言っても彼の祖父だけなんですけどね、おじいちゃん子だったんすよ。で、その話を聞いたのは、俺がディフェンサーズの中で尊敬していた先輩が殉職した翌日だったんですよ」

 「殉職......やっぱり、するんだな。はっ、俺がディフェンサーズに入ったら3日も持たないぜ......」


 と、自分自身を馬鹿にするように笑う。


 「僕が友人にその事を話したら、友人も彼の祖父のことを話したんです。その時に友人がいった言葉が『大切な人が死んだときは誰でも悲しいものだ。大事なのは、その悲しみを引っ張らないこと.....だな!いつまでも嘆いていたら、お前のその『大切な人』が呆れると思うぞ? 『なにいつまで俯いているんだよ』ってな』と言って、僕を励ましてくれたんですよ」

 「!」


 と、十郎の言葉を言ったら、心なしか、男の目に輝きが見えたように見えた。


 「そんな、自殺なんてしたら、空にいる家族たちは悲しむでしょうね。そうじゃなくて、その家族の分まで頑張って生きていきましょうよ」

 「......」


 男は黙りこんだ後、微笑した。


 「情けないな、若者に説教させられるなんてな......」


 と、男は立ち上がった。


 「俺はどうかしてたよ。ありがとな」

 「いえいえ、良かったです」


 男はアマツから奢ってもらったジュースを飲み干すと、立ち上がって歩き去った。


 (まさか、あれが人助けになるなんて思ってなかったなぁ。ありがたや......)


 と、十郎に感謝する。

 『第二次クローバー殲滅作戦』実行の4日前の出来事である。

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