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第五十九話 収容所防衛戦その6:リザレクション

 その光景はまさに狂気であった。

 ある奴にはハンマーで潰し、ある奴には巨大な剣で切り裂き、またある奴には無数の針で貫き......。

 彼女は翠の目を見せがら蹂躙している。

 アマツや、ほかの戦士、エネミーの尋問(という名の拷問)を行っている収容所の尋問官でさえ、彼女の無双ぶりを呆然と眺めていた。


 「ふわわぁ~......」


 大量のエネミーの肉をよそ目にスリニアは大きなあくびをした。


 「な、なんなんだ、あの能力は......」


 あの禍々しい物体を振るいながら戦う姿は、エネミーを恐怖のどん底に陥れるに相応しかった。

 質感や色が天人の持つ天獣手に似ていることから、『天獣尾』と呼ばれている。

 天獣尾はスリニアの思った通りに変形させることができる。

 4階の討伐されたエネミーのほとんどが、彼女のその能力によって無惨にも駆逐されていった。


 「エネミー、皆片付けれましたねぇ」


 スリニアは語尾を伸ばしながら言う。

 彼女の見た目とのギャップが余りにも激しいため、アマツは未だに動揺していた。


 (なんて恐ろしい能力だったんだ......)


 と思いつつも、4階の全てのエネミーを確保、討伐できた事に喜び、緊張を解いた。

 しかし、それはまだ早かった。


 「ぐわぁ!!」


 突如、向こうで叫び声がした。

 

 (まさか、またエネミーか!?)


 アマツが嫌な予感をさせていると、案の定、戦士の大腿を尻尾で刺してそのまま高々と上げているエネミーがいた。


 「だが、階のエネミーはもう全て終わらせたはず......まさか!」


 そのまさかであった。

 ある職員が叫ぶ。


 「気を付けろ! そのエネミーはレベル6だ!!」


 その声がこのフロアに響き渡った瞬間、再び混乱が起きた。

 多くの戦士は逃げ惑い、勇敢にも立ち向かう戦士も、エネミーの切れ味のよい複数の尾によって行動不能に陥っている。


 (5階も脱獄したのか......!)


 最悪の事態である。

 レベル6のエネミーが来ようものなら、おおくの死傷者が出るだろう。


 「クローバーの仕業か!!」


 アマツは憤怒した。

 あの1~4階の一斉脱獄もクローバーなのだろうと推測しつつ、早くこのエネミーを対処しなければと思い、炎をエネミーにぶちまけようとする。

 しかし、そこにはすでにスリニアがいた。

 

 「危ないですよぉ」


 と、スリニアは周りの人々に注意する。

 すると、彼女は天獣尾を複数の刃に形を変え、エネミーに斬撃を与えようとするも、蛇のエネミーは素早く、スルスルと避けていく。

 

 (速い!)


 さすがレベル6とも言うべきか。

 さっきまで一方的にエネミーを虐殺していたスリニアの攻撃を交わしていく。

 

 「おお、強いですねぇ~」


 と、スリニアはそれでも余裕そうな発言をする。

 しかしその直後、エネミーの尾がスリニアの心臓のある位置を貫いた。


 「あ......!」


 アマツは思わず声を漏らした。

 その後も全ての尾をスリニアに刺し、彼女の体は見るも無惨な姿になってしまった。

 彼女は呆気なく死んだと、アマツは確信する。


 「シュルル......」


 とエネミーは舌をなめずり、今度はアマツ達を襲うのかと思いきや、そんなことはなく、さっさと螺旋階段を上ろうとした。

 エネミーは脱獄を第一に考えているように思えた。

 アマツはそれを許そうと言う気は更々無かったが、スリニアさんを倒したエネミーに、太刀打ちできる訳がないと、諦めていた。


 (黒幕さんとかに任せればいいか......)


 と、屈辱的ではあったが、そのエネミーを見逃そうとした。

 その時、どす黒い物体がエネミーの体を掴んだ。


 「シュ......!?」

 「え?」


 見覚えのあるものだった。

 それも、さっき見たばかりの......。

 振り向くと、蜂の巣になったスリニアから天獣尾が伸びていた。

 しかも見ると、創傷から黒い霧の様なものが発生している。


 「な、なんで生きてるの......?」


 信じられない光景である。

 あの傷でまだ生きていられるのが衝撃的であった。

 それだけでは無い、黒い霧によって覆われた創傷が、治っている。


 「痛いです」


 スリニアの語尾が伸びていない。

 彼女はゆっくりと起き上がり、空中に浮遊した。

 彼女のエメラルドを見たアマツは、背筋が凍り付いた。


 (なんだ、この恐怖は......)


 そのシリアスな雰囲気は、もはや別人である。

 スリニアは天獣尾で掴んでいるエネミーを地面に叩きつけると、仕返しと言わんばかりに無数の棘を突き刺した。

 エネミーはなすすべもなく力尽きた。

 一瞬の出来事であった。

 

 「......」


 フロアは沈黙していた。

 皆、生き残れた喜びよりもスリニアに対しての驚きや戦慄が勝ったのだろう。

 少なくともアマツはそうだ。

 アマツは、スリニアが凶悪と言われる由縁がようやく分かった。


 (どっちが化け物か分かったもんじゃねぇ......)


 スリニアは、周りの雰囲気を不審に思ったのか、語尾を伸ばして言った。


 「なんで、皆喜ばないんですかぁ......?」


 こうして、収容所防衛戦は終結した。

 死者数は、上級7名、下級11名、職員9名である。

 研究材料として収容していたエネミーの半数を失い、収容所は損害を受けた。

 また、この襲撃の首謀者であるクローバーのハロルド・ローレンツは5階で祐司率いる職員の手によって死亡し、数名のメンバーを捕虜とした。

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