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第四十六話 半日だけの憂鬱

 『えー、次のニュースです。昨日、東京銀行がクローバーと言う組織に襲撃され――』


 メガネのニュースキャスターが、無表情で紙を淡々と読み上げている。

しかしアマツはそのテレビに目を向けることはなく、ビールを飲み続けている。


 「......くそ」


 彼はいまだに昨日のショックを引きずっている。

 ジュールの殉職、ノーラのあの死に際の言葉......。

 彼はいろいろな負の感情をアルコールで消そうとしていたのだ。


 「ああ、なんでだよぉ......」


 彼は缶ビールを机に置き、頭を抱える。

 すでに酔いは回っているが、頭の中で蠢いている感情は一向に収まらなかった。


「ああ......ジュールさん......」


 アマツはジュールを助けられなかったことに罪悪感を感じる。


 (大切な人が死ぬって、こんなに辛かったのかよ......)


 アマツは、大切な人の死を初めて目の当たりにしたときの悲しみを、初めて知った。

 それまで、そう言う経験は全くと言っていいほど無かった。

 強いて言うなら、彼の祖父が死んだことぐらいか。

 しかし、その時アマツは9歳、まだ人の死を理解しきってなかったのだ。


 そうして彼が憂鬱になっていると、プルルと、電話の音が鳴る。

 アマツは重い足取りで電話機に向かい、受話器を取った。

 その受話器から聞こえてきたのは、アマツの空気を読まない、チャラい口調......十郎だ。


 「よおアマツ!」

 「おお......」


 アマツは鬱陶しさすら感じながら、小さく返事をした。


 「おい、疲れてるのか? そんなの俺が吹っ飛ばしてやるからさ、今からお前んちいってもいいか?」

 「断る。そんな気分じゃない」

 「え、おいアマ――」


 と、十郎が喋っている途中なのにも関わらず、受話器を置いた。


 「はぁ......」


 アマツは溜め息をついて、再び缶ビールがある机に向かおうとすると、再び電話機が鳴り出した。

 アマツは「ちっ」と舌打ちをしながら一瞬迷いながらも受話器を取った。


 「んだよ......」

 「アマツ、何人が話してる途中で切ってるんだよ」

 「ああ、すまん、ちょっと機嫌が悪くてな」

 「もしかして、誰か死んだのか?」

 「え」


 十郎にいきなり本心を読まれて、アマツは動揺してしまった。


 「あ、ああ、そうだよ......」

 「やっぱりな!」


 受話器から指をパチンとならす音が小さく聞こえた。


 「俺もそういう時期があった」

 「そうなのか......」


 アマツはあまり興味がなかったが、とりあえず聞いてみる。


 「俺、昔ジジイ亡くしたんだよ」

 「とても大切だと思っているような言い方じゃないよな......」


 アマツは彼の祖父に対しての呼び方をとがめる。


 「これが俺の呼び方だったんだ、気にしないでくれ」

 「はぁ......(その爺さんも苦労してたんだろうな......)」


 アマツは十郎の祖父がどれだけ彼の世話に寿命を使ったのかが容易に想像できた。


 「でさ、ジジイと一緒に暮らしてたんだけど、いい人でさ、まだ俺が『おじいちゃん』って読んでいた小さいころは毎日のようにジジイと遊んでいたな。明るい人で、たまに俺を喜ばすために無茶しては、ぎっくり腰になったりしてたっけな」


 十郎は彼の祖父の思い出話を始めた。


 「中学生の時ぐらいになってさ、反抗期だった俺はこのころから『ジジイ』っていう言葉を使ったんだけどな、あの人、怒るどころかワハハと年寄らしい笑い方で爆笑していたな」

 「はは、そうなのか......」


 と、アマツは笑みを浮かばせた。

 最初は十郎の話に興味はなかったアマツも、段々と聞き入っていった。


 「ジジイが死んだのはその反抗期真っ盛りの15歳だったな。肝臓がんだった。最後は家族みんなに見届けられて、幸せそうに眠っていったよ。あの時のショックはもう二度と体験したくないね。ジジイは自分の両親よりも親切に、そして大切にしてくれたと俺は思っているよ」

 

 そして、少し間を置いた後、


 「あーでな、何が言いたいかというとな、大切な人が死んだときは誰でも悲しいものだ。大事なのは、その悲しみを引っ張らないこと.....だな! いつまでも嘆いていたら、お前のその『大切な人』が呆れると思うぞ? 『なにいつまで俯いているんだよ』ってな」

 「悲しみを引っ張らないこと......」


 アマツはジュウロウの言葉をなぞる。


 「そうだ、だからさ、『大切な人』の分まで頑張って生きろよ!」

 「うん......ありがとう」

 「おう、じゃあな!」


 そういって十郎は電話を切った。


 「......そうだな」


 彼は十郎の言っていることは正しいと思った。

 

 (確かに、いつまでもジュールさんが死んだことを嘆いていてもジュールさんは戻ってこない)


 すると、肩に乗っていたおもりが取れたような気がした。


 「そうだ、俺はジュールさんの分まで活躍しないといけないんだ!」


 アマツはそういって開き直った。

 

 「そして、ジュールさんのためにも、クローバーのやつらを倒す! たとえそれがノーラのような哀れな人生を送ってきたやつでも容赦はしない!」


 と、アマツは決意した。


 ――ジュールさん、俺、頑張ります!!

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