第四十四話 VS吸血鬼 その3
赤い血が血鋼を伝ってノーラの方に垂れてくる。
ノーラはその血をペロッと舐める。
「アハハハハハ、美味しい、美味しいわ!!」
彼女は高らかに笑う。
「ジュールさん!!」
アマツは叫んだ。
すると、ジュールは力を振り絞って手を上に動かした。
「ア......アマ......ツ......」
と、掠れたこえでアマツの名を呼ぶ。
しかし、その直後に彼の腕は力が抜け、ブランブランと振り子のように揺れる。
その瞬間、アマツは悟った。
「あ......ああ......」
アマツは膝を着き、泣き崩れる。
「ジ、ジュールさん......」
アリアスはただ呆然とジュールの死にざまを眺めている。
「ああああ、ジュールさあああん!!」
アマツは泣き叫んだ。
彼にとってジュールはディフェンサーズの中でも数少ない憧れの人でもあった。
それに、一緒にエネミーを討伐してきた仲でもあった。
そんな大切な人が、アマツの目の前で生涯を閉じたのだ。
アマツのショックは、計り知れないものであった。
「ウフフ、ハハ、アハハ!」
アマツが仲間の死を悔やんでいる中で、ノーラは嘲笑っている。
「馬鹿みたい......人が死んだぐらいで泣くなんて」
ノーラのその言葉がアマツの耳に入った途端、アマツは涙が止まった。
そして、悲しみの代わりに、炎よりも熱い怒りがこみ上がってきた。
頭痛がするくらいの怒り。
途轍もない殺意が湧いた。
「こ、殺す......」
と、アマツの口から無意識にその言葉が出た。
この人間をやめたやつを放っておいてはいけない。
「なんで外道な奴なんだ」
恭介は拳を握りながら、ノーラを睨む。
それと同時に、アマツは炎を両腕に宿し、ノーラに向かって走っていく。
「外道だってぇ、アハハハハ!」
ノーラは血鋼に刺さっているジュールをポイと投げ捨てると、恭介のほうを不敵な笑みを浮かべながら見る。
「やはり、お前はは駆除されるべきだ」
「やってえええ、みなさいよおおお!!」
ノーラは2本の血鋼を恭介に向けて放つ。
「なめるな」
恭介はその血鋼を避けると、それの根本に近い部分を2本とも掴む。
そして、ぐぐっと手に力を入れると、血鋼は2本とも折られ、握られた部分は粉々に砕け散った。
「ぎゃあああああああ!!」
ノーラが叫ぶ内に、恭介は右こぶしを後ろに引いた。
「終わりだ」
その時、アマツがノーラの目の前に現れた。
「アマツ!」
「!?」
ノーラは突然現れたことに驚き、恭介はアマツの頭部に当たる寸前で拳を止めた。
そして、アマツはその炎の拳をノーラの腹めがけて殴り掛かった。
ノーラはそれを対処できずに、腹に穴が開いた。
「ぐああああ!!」
ノーラは悲鳴を上げる。
そして、彼女が倒れ込むと、アマツ今度は足に炎を宿し、何度も踏みつけ始める。
「外道め、化け物め、お前なんか人間じゃねえ!! 死ね、死ねえええ!!」
アマツは涙を撒き散らしながら文節ごとににノーラの体を強く踏みつけた。
「あ......い......」
彼女は右腕を上げようとするが、アマツそれすらも許さず、足で腕をぐしゃっと踏んだ。
「ああ......!」
気付いたら、彼女は全身血だらけになっていた。
アマツはもう彼女は動くことはないと見切り、踏み付けをやめた。
周りを見渡すと、恭介やアリアスなどの、他の戦士は、自分の行動に驚いているのか、沈黙しているのが分かった。
「う.......お......お腹すいた......」
ノーラは死にかけている赤い目を開く。
「まだ死んでなかったか」
と、アマツはとどめを刺すため、再び足に炎を宿す。
しかし、直後に炎は消え去った。
「パ......パパ......ママ......」
「え?」
ノーラは、彼女の両親を口に出したのだ。
まさかの発言に、アマツは思わず炎を宿すのをやめた。
「お......なかすいたよ......見捨......て......ないで......た......たすけ......て......」
彼女は左腕を上げ、涙をながしながら両親に助けを求めるような言葉を発した。
さっきまで狂ったように笑い、暴れていた彼女だが、今の彼女の顔には、狂気の『き』の文字も無かった。
そして、その言葉を発した後、彼女の左腕はばたっと下がった。
「な......」
アマツは肩に大きなおもりが乗っかったような感覚に襲われ、ガクッと崩れた。
「やっぱお前、人間じゃんか......」
アマツはそう呟いた。
「アマツ......」
アリアス達がアマツのもとに近づく。
「アマツ、よくやった」
恭介は肩をポンと叩いた。
そして、アマツはジュールの方へとゆっくりと歩いていった。
「......ジュールさん」
アマツはジュール名前を呼ぶ。
しかし、彼が反応することは無かった。
「ああ......ジュールさん......」
アマツの涙は再び頬を伝い始める。
「何で死んだんですか......」
アマツがジュールの死を嘆いているとき、恭介達はアマツには何も喋りかけなかった。
この第一金庫室では、暫くアマツの声が聞こえていた。




