第四十三話 VS吸血鬼 その2
ディフェンサーズ戦士は沈黙している。
室内はノーラの笑い声と、『餌』を食べる音のみが響いている。
彼女は肩から出ているどす黒い棘で上級戦士の3人を串刺しにし、その内の一人の戦士の肉を噛みちぎっている。
「モグモグ......アハハッ!」
ノーラは真っ赤に染まった口角を上げる。
アマツには、それが自分達を蔑んでいるようにも、『餌』がまだあることに喜んでいるようにも見えた。
(ノーラ......こんなやつが人間なはずがねぇ!)
彼はノーラの食事風景を見て、虫唾が走る。
人間が人間を食べるなんて、聞いたことがない。
(いや、こいつは人間じゃない......エネミーだ)
「はぁ......」
ノーラは飽きたのか、棘を振って戦士を放り投げた。
それと同時に、恭介が動き出した。
「お前ら、やるぞ」
と、彼は生き残っている戦士に指示を出した。
アマツは一瞬拒絶反応が出たが、やらなきゃどうせ喰われるだろうと思い、立ち上がった。
「んん?」
ノーラはアマツ達の動きに、唇を水平にし、彼らの様子を伺っている。
すると突然、恭介が床を蹴り、ノーラへ飛び込んでいくと、右腕で殴ろうとする。
ノーラは黒い棘2本を体の前に出し、それをガードする。
「俺の仲間の味はどうだったか?」
「ええ、とても美味しかったわよ......でも、あなたのほうが上手そうねぇ」
と、赤い歯を見せると、その棘は棒状に変形させ、恭介を振り払う。
「あはは、すごいでしょ? 血鋼って言うのよ!」
ノーラは相変わらず不敵な笑みを浮かべて、両肩からでる血鋼を再び棘状に変形させて、恭介に突き刺そうとする。
しかし、恭介は空中で上手く体を動かし、回避した。
アマツ、アリアス、ジュール等もその戦いに参加する。
アマツは掌に火の玉を出し、ファースト・ファイアを打つ準備をする。
打つ方向にノーラ以外誰もいないことを確認すると、彼女に向かって放つ。
「喰らえ!」
しかし、彼の炎はノーラの右肩の血鋼によって阻まれてしまった。
「くそっ!」
と、アマツが悔しがったのも束の間、ノーラが悲鳴を上げた。
「ああああ!?」
ノーラは、疎かになっていた左肩の血鋼を恭介によって折られたのだ。
「隙を作ってしまったな」
恭介糸目から黒目を出し、ノーラを睨むようにして見る。
「ううう......!」
ノーラは血鋼が折られた左肩を押さえ、苦しむそぶりを見せる。
「......ぐうう......!!」
しかし、血鋼が折られた部分から新しく血鋼が生えてきた。
「い、痛いわあああ......!」
彼女は痛みを堪えているのか、言葉を伸ばし、恭介やアマツ達を睨む。
「なるほど、回復するのか......」
恭介は他の戦士とは比較的に冷静に言った。
そして、その直った血鋼を恭介に向かって飛ばした。
「餌の分際でええええ!!」
ノーラはそう叫びながらアマツ達にも攻撃をする。
アマツ達はそれを回避する。
「ご飯が欲しい、欲しい!!」
彼女は恭介を両肩の血鋼を枝分かれさせ、先を鋭くして攻撃をする。
恭介はそれを回避しようとするも、棘のひとつが恭介の左腕に刺さった。
「恭介さん!」
アマツが恭介を心配して叫ぶ。
しかし恭介は、少し顔を歪めただけで、大して痛いと言う反応はアマツ達には見せなかった。
そして恭介は、腕に刺さった血鋼を抜くと、腕からは血が滲み出てきた。
「喰わせろおお!!」
ノーラは右の血鋼を手のような形に変形させて、恭介の右腕を掴む。
「その腕をちょーだい♪」
これを見たアマツ、恭介が危ないと思い、右腕に炎を宿し、手の形をしたその血鋼を破壊する。
「ぐああ!」
ノーラが苦しむ。
そして恭介は、右腕にまだくっついている血鋼を振り払うと、即座に右の血鋼を根本まで破壊し、更に右腕を彼女の体から切り離した。
「きゃあああああああ!!?」
ノーラは金切り声で絶叫する。
「ナイスだ、アマツ」
「ありがとうございます!」
アマツは恭介の感謝の言葉を光栄に思う。
「アマツ、恭介さん、まだくるわよ......」
アリアスは無機質な腕でノーラを指差す。
そこには、上半身を後ろに反らせながら、右腕や右肩の血鋼を再生させている。
「おいおい、腕も治るのかよ......」
恭介も流石に驚きを隠せない。
「あはは、痛い、あああああ、ご飯をくれぇ......!」
ノーラの顔は怒りや、痛み等が混じっているかのような歪んだ顔をしている。
とうとう気が狂ったのかとアマツが思っていると、アマツ達の方を睨む。
「食べたいいい!!」
ノーラは血鋼をさっきよりも枝分かれさせて、アマツ達に絶え間なく攻撃をする。
「くそっ、なんて攻撃の密度だ!」
アマツは次々と襲ってくる血鋼を避け、その内の一本を破壊する。
しかし、ノーラは苦しむ様子はない。
「アハハハ!!」
ノーラは笑いながらまだアマツ達を攻撃する。
「これじゃ、俺の体が穴だらけになるのも時間の問題だ......!」
と、アマツがこの状況を嘆くと、彼はふと、ジュールの方を見た。
「あ」
その瞬間、アマツは頭が真っ白になった。
彼がが見たのは、腹が血鋼によって突き破られている、ジュールの姿だった......。




