第四十二話 自分は役立たず
東京銀行1階。
サラと数人の下級戦士は、クローバーのメンバーと戦闘を行っていた。
「ひ、ひぃ、助け――」
サラは命乞いをする人物に聞く耳を持つことはなく、容赦なく蹴りを食らわせていく。
「これで取り敢えず今いるメンバーは全員倒せたか、こっちの死傷者は何人だ?」
「7人です」
「結構出たな......」
サラは腕についたメンバーの血を眺める。
すると、生臭い血の臭いがサラの鼻に入ってきた。
(エネミーとはまた違った臭い......)
と、彼女はエネミーと人間の血を比べる。
彼女は人間を倒すのはこの戦闘が初めてだった。
しかし、彼女は大して抵抗はなかった。
それは、彼女はクローバーの人間をエネミーとして認識しているのが理由のひとつである。
実際、本来エネミーに出すはずの『危険レベル』を、クローバーに出しているので、ディフェンサーズ役員もエネミーとして扱っているのも同然である。
「さて、後は他のやつらが幹部を倒すだけだな......ん?」
と、サラが向こうの廊下のほうを見ると、クローバーのメンバーらしき人物が1人、鎌を持って移動しているのが分かった。
「よし、また一人現れたぞ!」
サラがほかの戦士に呼びかけ、いざそいつを倒そうとした時、右顔にビチャっと血が付いたのが分かった。
「?」
サラが右を向くと、隣にいた戦士の顔が無くなっているのが分かった。
そして、サラの後ろに、血で濡れた死神が持つような鎌を肩に乗せているメンバーがいる。
イザベルだ。
サラは彼女が一瞬で戦士を倒したのが分かった。
「君達、逃げろ!!」
サラがそう叫んだがもう遅い。
鎌を持った人物が振り向くと、出口に向かって逃げていく戦士たちを次々と切り裂いていった。
「!!」
下級戦士をすべて殺しきったあと、片方だけ見える蒼い目は、今度はサラのほうに向ける。
「くるか......」
サラが身構えてると、やはり、鎌を振りかぶって襲ってきた。
彼女は刃を避け、柄の部分を両腕で受ける。
(なんて力の強さ!)
サラの腕には骨まで伝わるほどの痛みが走った。
イザベルは女であるが、それとは思えないくらいに鎌の一撃は重かった。
「よくも私の同胞をっ!」
サラはそう言い。鎌を払いのけると、足を彼女めがけて上に蹴り上げた。
刹那蹴りだ。
イザベルは刃で蹴りを防御するも、威力に押されて数メートル飛ばされた。
「君......幹部か」
「そうだ」
と答えると、鎌の刃を下に降ろし、再びサラに襲いかかってきた。
そしてイザベルはサラの顔目掛けて鎌を振り上げた。
「うっ!」
致命傷にはならなかったが、左頬が切れ、そこから血が漏れてきた。
サラはその血を拭うと、少し見たあと、その血を舐める。
「やってくれるじゃないか」
と言うと、反撃とばかりに、イザベルに対して殴りと蹴りのラッシュを浴びせていく。
しかし、イザベルはそれを回避したり鎌で受け止め、中々攻撃が当たらない。
(はよ当たらんかっ!!)
と、心中苛つき始めたとき、やっとサラの蹴りが当たった。
「うっ」
イザベルは痛みで声を出し、そのまま飛ばされていった。
そして、上手く床に着地し、体勢を立て直した。
「よしっ」
サラはやっと当たったことに喜んだが、すぐに不安が襲ってきた。
(もうそろそろ限界が......)
と、発作が起こることを心配する。
ここで発作が起きようものなら、自分が激痛で動けないうちに頭をとられてしまう。
だからと言ってここで逃げたら、他の戦士の被害が増えてしまう。
「どうしたものか......」
と、呟いているうちに、イザベルは痛みが治まったのか、また鎌を持って攻撃を仕掛けてくる。
「いや、あと5分はもつ......速攻で倒してやるか」
と、決意して構える。
そして、イザベルが鎌後ろに回し、反動をつける動作をしたとき、別の人物がサラの前に現れた。
そして、素早く鞘から剣を出すと、鎌を受け止めた。
「!」
イザベルの前に立ちはだかったのは、2階担当のNo.6、アシュリーだ。
イザベルは攻撃を防がれると、一回床に足をつけ、その後、後ろに退いた。
「アシュリー!?」
「2階の掃除は終わった」
と、ゆっくりと鞘に収めるアシュリー。
「......まだゴミが残っているようだな」
と、さっき戻したばかりの剣に手をかけた途端、イザベルは不利と判断したのか、その場から逃げた。
「まて!」
と、アシュリーがイザベルを追おうとする。
(アシュリーにとられてたまるかっ!)
その幹部は自分で倒したい、 そう思ったサラはアシュリーを止める。
「待って、それは私が――」
「お前はもう無理だろ?」
アシュリーの発した無情な一言が大理石でできた床や壁にこだまする。
「いや、私はまだ戦えるって......」
「また発作を起こすのか? そうなったら迷惑だよ」
アシュリーの視線がサラに突き刺さっていく。
「......というわけだ。あいつは僕が倒す」
と、アシュリーはイザベルが去って行った方向に向かっていく。
サラはその場に立ち尽くしている
「......まただ」
彼女はそう呟く。
(また、他人に助けられた)
するとサラは、今までの自分が助けられた時の事が頭に次々と浮かんできた。
(前もそうだった。あの時、イモムシみたいなエネミーの時だ。その前もだ。その前も、その前も、前も、その前も、その前、その前、前、前、前、前前前前前前前前......)
「ああああああああああああああああああ!!!!」
サラはその回想を振り払うかのように絶叫する。
「ああ、いやだ、助けられた時のこのたとえようもないくらいの罪悪感が嫌だ! この度に、自分は役立たずだというような気がして......いや」
――自分は、役立たずなんだ。