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第百四九話 鬼人を止めろ! その3

ドルが今まさにララの脳天を突き刺そうとしたとき、突然、彼の右腕が銃と共に空中で舞い踊った。

 ララは跪いた姿勢で、刀を持っている左腕を天井に突き上げている。

 彼女の顔からは、垂れた髪越しにほのかに赤くひかっている。


 「ラ、ララ......」


 ようやく少しずつ麻痺が解けてきて、辛うじて発声出来るようになったアシュリーの第一声。

 そのアシュリーが恐れていたことが、起きてしまった。

 それが、彼女の鬼人化。


 ララの鬼人化は、常人離れした身体能力と回復力を手にいれることができる。

その代わりに強力な興奮と破壊衝動が彼女を襲い、時間が経てば自我を忘れ、動くものであれば何であるかに関わらず感情のままに暴れるという。


 「ちっ、来やがったか、鬼人化が......!」


 それに気付いたドルは、宙に浮いている銃を残った左手で握りしめ、すぐさまララに銃口を向けて、片手だけで引き金を引いて発砲。

 光線は確かにララのいる場所に撃った、だがそこにララは居ない。

 彼女はドルの背後に一瞬で回り込んでいた。

 赤い残像が、ドルの周りに半円を描いている。


 「な......!?」


 さっきとは明らかに別人の速さ。

 ドルは困惑しながらも、ララの方を振り向いて、今度は実弾を発砲。

 弾はララの横を通っていった。

 恐らくはさっきの、「返ってくる弾」であろう。


 「ぐ......早く、早く止めないと......ララが......」


 一刻も早く止めないと、彼女は自我を失う。

 アシュリーはそう焦り、涎を垂らした身体を動かそうとする。

 体をイモムシのように這いずり回る程度ならできるが、未だに上体を起こすことすらままならない。

 暫くはララに頼るしかない、いつブレーキが壊れるか分からない彼女に......。


 「いくらお前でも人間だ、頭を狙い撃ちにすればイチコロよ」


 あの弾が返ってきた。

 ドルの言葉通り、ララの頭を打ち抜くような軌道になっている。

 あと少しでたどり着くという時に、ララは再生された右手で落ちていたもう一つの刀を拾い上げ、その勢いのまま腕を後ろに振り、小さな弾丸を弾き飛ばした。

 しかもその状態は、正面をドルと向かい合う形で......弾丸と反対方向で、一切見ることなくである。


 「んなっ、どうやって――!?」


 ドルが驚いているその一瞬のすきに、ララはドルの両足を斬り落とし、彼はそのまま地に崩れ落ちる。

 アシュリーから見えたララの顔は、大きく口を割かせて笑っている。


 「......おしまい」


 ララがとどめの一撃を刺しに構えた時、ドルの光線一発が油断したララの顔めがけて放たれた。

 それはララの額を貫通し、ララは撃たれた勢いで頭を思いっきり上向けた。


 「ララ!」


 ようやくアシュリーの体のしびれが大体とれ、体を起こし剣を持って動くことができた矢先のことである。

 彼は絶望で脱力する。

 死んだ、ララは脳天を貫かれて即死だ。

 

 「はぁ、はぁ、......へっ、俺はお前に負けるわけにはいかねぇんでね、セントのためにもな。ざまぁ見やが――」


 だが、アシュリーは忘れていた、そしてドルは知らなかった。

 彼女の、鬼人化中の回復力の恐ろしさを。


 「は、馬鹿な......ありえん......!」


 怯んでいるドルの目先には、穴をあけた額から血を垂らしているのにも関わらず、平然とドルの真ん前を向き、目を大きく開けて笑い睨んでいるララであった。


 (そ、そうだ、ララの鬼人化は、脳を傷つけられても修復できるんだった......!)


 そうとなれば、アシュリーは一転して素早く立ち上がり、ララとドルの前に立って、ドルが反撃しないうちに居合で彼の腕を斬り捨てる。


 「ぐはっ......!」

 「死ね化け物め!」


 アシュリーはそう言い捨てて、今度は胴体を、コートごと横に真っ二つに切り捨てた。

 ドルの状態が倒れているのを見ながら、アシュリーは剣を振って、緑の血を振り払う。


 「......ララ、大丈――」


 背後にいるララを心配しようと振り向いたとき、刀がよぎり、アシュリーは反射的に顔を後ろにひっこめる。

 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 振り向いた目の前に、ララがこちらを、赤い目のまま、鋭くにらんでいた。


 「ララ......まさか......」


 まさか、とは思った。

 だが信じたく無いアシュリーは、ララに問いかける。


 「ララ、僕だよ、アシュリー――」

 「殺す」

 「!?」


 その時の顔は、完全に、『敵』を斬り倒すという殺意で固まっていた。

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