第百四七話 鬼人を止めろ! その1
「うう、アシュリー、足疲れた......」
ララがさっきから弱音を吐いて中々前に進んでくれない。
そんな彼女をアシュリーは少々うんざりしていた。
「さっきからずっと同じこと言ってるし」
「だって、どんだけ広いのここ、この中身が分からない洞窟歩かされるなんて......!」
「まあ、それはごもっともだけど......」
アシュリーはララ同様のことを考えていた。
正直、アジトの全体図も良く分からない状態で作戦を遂行するのは狂っている。
さすがに帰りは、行った道を戻るようにちゃんと通信機で指示してくれるというが。
無論、このアービターを仕切っているトップがどこにいるのかなど分かるはずもない。
......ただ、一人を除いては。
「サナだけだよ、まともに道が分かる奴と言えば」
いわゆる千里眼というものだ。
サナは何故かそのボスが誰なのかも分かるらしい。
彼女はそのボスの討伐、一方でアシュリーやララ等の他のメンバーは、アービター構成員の逃亡防止を兼ての殲滅。
おまけに近い感じである。
「サナって絶対人間じゃないよね、チートすぎる」
「チートねぇ......」
チート、最強、凶悪、論外......。
どの言葉をとってもふさわしいのがサナ・アストルだ。
自分もそのくらい強くなりたいと、思わずにはいられない。
と、右腕を掴まれてグイッと体を引っ張られる。
不意だったので少しドキッとして後ろを見ると、ララが懇願するような顔でこちらを見つめていた。
「アシュリー、私もう無理だよぉ」
ララが必死にこちらの歩みを止めようとする。
その時の顔がまた可愛らしく、別の意味でドキッとする。
「し、仕方ないだろ任務なんだし」
「ねぇぇぇ止まってってばぁぁぁ」
ララは頑なに拒否し、アシュリーの腕をよじ登る。
その際にアシュリーの腕が彼女の胸にがっつりと触れて、その瞬間に顔が急速に熱をこもっていく。
「ま、待て待て、分かった、分かったし!」
その羞恥心から逃れるために、根負けしてララの言うことに応える。
その言葉を放ったとたん、ララは腕を離して、ふぅと息を吐いて、地べたに座り込む。
「全然いないね、エネミー」
「他の人たちが片付けたんでしょ」
「じゃあ帰ろう!」
「まだ終わってないし、いたらどうするの」
ララはスカートなのにも関わらずあぐらをかいて座る。その
少し疲れたような彼女の顔を見て、アシュリーはおっとりとする。
癒されるような気分になる。
「……どしたの?」
気づいたララが微笑みながらこっちを向いてきた。
アシュリーは思わず目をそらす。
「あ、いやなんでも……」
「スカート覗こうとしたでしょ?」
「違うし」
ララは意地悪そうにこっちを見てる。
疑っているのか。
『目をそらす』という、それっぽい反応をしてしまったから無理もない。
それとも、ただ単にからかっているのか。
「ふーん...まあいいや、もうそろそろ休憩はいいや」
ララが立ち上がろうとした時、アシュリーの目には、彼女の背後からなにかが迫っているのが見えた。
衣服と帽子をはためかせながら、先には鋭い刃物を突きだしながら、こちらに迫ってくるのをみて、アシュリーは寒気がした。
「立つなララ!!」
「え、何で?」
彼女の疑問に答える暇などなく、アシュリーは立ち上がろうとするララの頭上を飛び越え、剣を抜いて迫り来るものを断ち切ろうとする。
それはガードにあたるであろう部分でで止められたが、相手の剣はそれにしてはだいぶ異質な形をしていた。
刃はナイフを柄にくっ付けた感じで、ガードは穴が開いており、柄の奥先は少し曲げたような形になっている。
(銃!?)
アシュリーがまさかと思えば、ガードだと思っていた、アシュリーに向けられた銃口から光が見えた。
紛れもなく光線だった。
「やばっ――」
アシュリーは大股で銃の使い手に詰め寄り、銃口を上に向けると、銃は発砲されて天井にあたり、爆発音とともに破片が上から飛び散った。
その時の煙で視界が遮られるまでにアシュリーが見た使い手の顔は、緑肌で、顔の右半分が骨で、人間ではないことは確かであった。
「ちっ、邪魔が入った......」
使い手はスッと後ろに下がる。
やっと状況に気付いたララは「わっ」と小さく驚く。
「......ララというのは、どいつだ?」
「はい」
ララが手を上げた先に、黒衣に黒い帽子をかぶったは銃口を素早く向ける。
それに気づいたアシュリーはすぐさまララの前に立つ。
「さっきから何だお前は、さっさとどけや」
「それはこっちのセリフだ。なんでララだけを狙う?」
「お前には関係ねぇ」
そう言い捨てると、エネミーは黄色く光る弾を一発は鳴ってきた。
アシュリーがそれを防ぐと、その瞬間、体の全身に激しい電流が身体を駆け巡った。
「っ!!?」
一瞬意識が飛んだかと思えば、全身がマヒした感覚に襲われ、全身に力を入れることができず、剣を落として倒れる。
「アシュリー!!」
ララの悲鳴が聞こえる。
どこにも力を入れることができず、呼吸するのも必死なぐらいだ。
「そこでしばらく寝てるんだな。まずはこの女を始末してやる」
エネミーの目は、完全に殺意の塊で彼女を見ている。
「......あなたはなんで私をそんなに狙うの?」
「俺はドルっていうんだ......敵を討ちに来たものだ」