第百四十話 念力老人 対 狂科学者 その3
エネミーの背から出ている何かから、血が滴っていた。
スリニアの天獣尾が彼を襲い始めるのと同時にでて来たと思えば、瞬きもせずに勝敗が決してた。
スリニアの体もろとも、エネミーの鼻の先まで到達していた天獣尾ですら細切れにされ、破片が飛び散る。
「エ、エアハート......」
浩がかすれた声で名前を漏らす。
完全に油断していた。
勝てるというのは完全に根拠のない考えだということを思い知らされた。
しかもあのスリニアを瞬殺した。
不死の身なのでこれで再起不能になることはないだろうが、身体の再構築には総統の時間がかかるはずだ。
いずれにせよ、断言できるのは......。
(こやつ、あの動揺は演技じゃな......!)
そう思った瞬間に屈辱が湧いて出てくる。
彼にまんまとハメられたような気がしてならい。
とにかく、エドナとベンガルでは二人掛かりでも勝ち筋が見えない。
ここは自分が体にムチを打ってでも倒さなければいけない。
最悪倒せなくても動きさえ止めれば大丈夫だ。
「......よくもスリニアさんを!」
ベンガルのその怒りの声と共に突き出された青白い光の剣を見てゾクッとした。
復讐心にでも駆られてるのか分からないが、勝ち目がないのに感情的になっている。
それだけではない、エドナまで翼を大きく広げている。
「待て、お主らには無理じゃ! スリニアのを見たじゃろ!?」
「大丈夫大丈夫、すぐ倒せるから!」
エドナはそう言ってニカッと笑う。
まさに愚か極まるとしか言いようがない。
なぜ若者と言うのは冷静になれないのだ。
ベンガルは単純にスリニアの敵討ち。
エドナはNO.4であることのプライド、或いは倒されたのが自らより格下であるからか......。
いずれにしろ、彼らは明らかにエネミーの力量を見誤っている。
「行こう!」
エドナの合図とともに、二人は同時に動き出す。
何とか止めたいが、彼らを縛るほどの力は残っていない。
「死ねっ!」
ベンガル、エドナは不動のエネミーに飛び掛かるが、エネミーは見事に2人の間をすり抜けるようにしてかわした。
(やはりか、あやつらには無理じゃったか......)
ここはもはや想定内で、これに驚きはしなかった。
しかし見ると、エネミーの頭上に物体が、二体ほどうごめいていた。
それらはエネミーの首のあたりに接続されていて、何かを争うようにしてムシャムシャと噛み潰している。
あれは脚と、腕と、羽......?
「うわあああ!!」」
ベンガルの悲痛な叫びが聞こえてきたのでそっちを振り向いたとき、驚愕で言葉が出なかった。
......エドナの右腕、右足、そして右の翼がもぎ取られている。
「ぐ......!」
一瞬片足立ちの状態だったエドナは口から血を吐きながら倒れる。
かわしたのと同時にエドナの体を噛み千切ったというのか。
「よしよし、たんと食べな。おいしいだろ? なんたって天人の体なんだからねぇ」
化け物二体を手なずけているエネミーの口元は、明らかに笑っていた。
「......まあ、天人だからその程度で死にはしないだろう。どうせいつか生えてくる。そして私の実験材料になってもらう。スリニアエアハート、その体は正にぴったりだ! ぜひとも老いて死ぬまで実験材料となってほしい!」
これこそ正真正銘のマッドサイエンティストとも言うべきだ。
人からしてみれば、これほどまでにも残虐非道な存在があっただろうか。
浩は悔しさで歯を食いしばる。
しかし暫くは、体力がある程度回復するまではそれしかできない。
「く......くそおお!!」
自棄になったベンガルがもう一度エネミーに対して刃を振る。
それをまたしてもかわされると、まず剣を持っている右手をエネミーの手で拘束され、もう片方でベンガルの首をわしづかみにする。
「ベンガル・マクレン......そうだな、お前はその機械を頂こうか。体はいらない」
「ぐぐ......が......!!」
首を締められ、体を持ち上げられて足をじたばたさせているベンガルは見るに耐えなかった。
浩は何とかベンガルを助けようと、瓦礫の破片を念力でエネミーの手首に飛ばす。
即座に気づいたエネミーはベンガルを放して手をひっこめる。
ベンガルはその場に落ちる。
「ふん、流石にまだ力はあるか......」
「お主は......わしが倒す......!」
もうこうなったら闘うしか道は残されていない。
逃げることなど不可能だろうし、仮にそれで奇跡的に生き延びたとしても、仲間を見殺すことになってしまう。
それは出来るはずもなかった。
少しは体力も回復して、短時間なら戦えるはずだ。
浩はここで骨を埋めることすら覚悟した中、エネミーは余裕そうに名乗る。
「冥土の土産に教えてやろう、私の名はゼフだ! 足羽浩、ここで死んでもらうぞ!!」