第二三八話 念力老人 対 狂科学者 その1
洞窟内に入っていくら経過したか。
どこも同じような形状をしている道を通っていたら、段々と頭が困惑していく。
「はて、ここは一度通っただろうか......?」
足羽浩は、白がほとんどを占めるアゴ髭を撫でながら、分かれ道の前で考える。
意図的にそうしたのかは分からないが、本当にどこにいっても同じようなのしか見かけない。
ほとんど敵とあうこともなく、ただ歩いているだけだ。
いくら浩でも80を越えた老人なので、足腰に負担が来る。
「まったく、わしの体も知らないでこんなところを歩かせるとは、組織も鬼じゃのう......」
浩は言ったところでどうにもならないような文句を呟きながら、剣が入った杖を突きながら適当に左の分かれ道を進んでいく。
そしたらまた分かれ道が出てきた。
「え、勘弁してしいわい全く......」
やる気がが一気に切り落とされたようなきぶんでもうげんなりだった。
が、浩の行く先を即座に決定させるような戦いの音を、右の道で聞きつけた。
それもそこそこ規模が大きい。
「やっと何かがおきてるのか......!」
浩はようやく感じた変化に嬉々としながら右に迷わず進んでいくと、やはり戦闘が起こっていた。
戦いの影響なのか、壁がボロボロになったり崩れたりしていて、さっきまでの閉鎖的な通路の割にやたらと大きな空間に仕上がっている。
彼の目で見る限りでは、ベンガル一人に対して、何体ものエネミーが周りを取り囲んでいるという状況だ。
ベンガルは、曰く『スタイルβ《ベータ》』と呼ばれる長い光の剣を振り回しながら抵抗しているが、相手も中々にしぶとく攻撃している。
(マクレンめ、てこずっておるのか......)
不利と見た浩は、ベンガルに手助けしようと懐からヒョロヒョロと細く、しなる刃を垂らすと、念力の力も使いながらそれを前の敵たちに向けて飛ばす。
ムチのようにしならせ、ベンガルだけに当てないようにしつつエネミー達の身体に通すと、彼らは次々とこまぎれになっていく。
「え、え......? あ、足羽さんこんにちは......」
突然敵が木端微塵に粉砕された子にベンガルは動揺しながらも、浩に挨拶をする。
「お主、こんなのに苦戦しとるのか」
「いや違いますよ、斬っても斬っても湧いてくるんですよ!」
最初はくだらない言い訳かと思った。
しかし、いつの間にか彼らの近くにすぐにまた敵がやってきた。
それもまた数対ほど。
「なんと!」
浩は少々驚きながらも、冷静に刃を暴れさせてかれらを瞬く間に一掃してみせる。
それでもまた、エネミーがゴキブリのように次々と湧いて出てくる
「なんじゃこれは!?」
「だから言ってるじゃないですか!」
「まさか、エイリーの言っていた奴か......!」
浩はここでアシュリーの言っていたことを思い出す。
もし彼の言っていることが本当であるならば、きっとこの近くに発生源があるに違いないと確信する。
「なら、あの「卵」とやらを潰せば......!」
そう思いついたや否や、エネミーが歩いてくる方向へ一直線に走っていく。
「あ、足羽さん!?」
ベンガルの音が目にも耳を貸さない。
寄ってくるエネミーには杖に見せかけた刀を抜いて次々と斬り捨てながら、老人とは思えない速さで通りすぎていく。
やがて道と道との間にくぼみがあるのを見つけると、そこからエネミーが這い上がっていくのも確認できた。
「もしやあれが......」
浩は登ってきたエネミーを切り落としつつ中を覗いてみると、不気味に鼓動する物体が見えた。
それが「卵」だというのは、エネミーがそこから浮かび上がるようにして現れてくるので分かった。
ならば、やることはただ一つ。
「フー......」
刀をしまい込み、目を閉じて一回深呼吸すると、カッと目を開けながら両腕に全力で力を入れる。
すると、彼がNo3たる所以である能力、念力が働いた卵は、周りのエネミーもろともグチャグチャに押し潰され、血とみられる赤い液体が全方位に一斉放射される。
だがそれすらも、念力のせいで浩の顔には一切かかることはなかった。
「まったく、手間をかけさせよってからに......」
浩は一息つきながら独り言をつぶやく。
それと共に、彼の鼓動も大きくなっているのを感じ、歳を感じてきた。
「わしがもう少し若けりゃ、この程度のことで心臓が暴れるようなことはなかったんじゃがのぉ......」
これで何回目か分からないくらいに言った言葉をぼやきながら前へ進もうとすると、
「足羽さん、僕もお供してよろしいでしょうか?」
と言うベンガルの声が聞こえたので、浩は後ろを向いて、
「足を引っ張らなければの」
と言い、ベンガルがこちらに走ってくる音を聞きながら、血だまりの上を、さっきのようにゆっくりと歩いて行った。




