第百三三話 敵討ち
あの争いから3日経過した、ディフェンサーズ本部の会長室。
椅子にもたれかかりながら、感傷に浸っていた。
(まさかあの作戦の時に、あそこまで大規模な攻撃がが起こるなど......)
完全な失態であった。
地下シェルターを攻撃された組織、......アイラ曰く「アービター」と言われる組織は、のある程度の反撃は予想はしていた。
今回のも、規模だけなら想定内であった。
だが見誤ったのが襲撃の時間だ。
こちらの作戦と同日、孝二の発言に限って言うなら偶然にも重なったという......。
地下シェルター内にいるエネミーの殲滅という目的は達成されたが、あの規模からみるに、致命的なものでもないだろう。
一方、ディフェンサーズは大損害であった。
元ナンバーズのサラ、ナンバーズの安倍泰昌や笠置姉妹の負傷、ミカ・レヴェリッジが行方不明、その他の戦士も死傷者が予想を超えて発生している。
そして、自らの弟も......。
「孝二......クソっ!!」
寿之は怒りのぶつけどころとして、自分の机を思いっきり叩く。
電灯スタンドや書類が新道で一瞬浮き上がる。
ちょうどその時、会長室の扉が開いて、一人の少女が現れた。
柊琳こと、月詠玲琳だ。
「会長さん、遊びに来ました!」
自分が悩んでいるのを知ってか知らずか、ニコニコと子供のように陽気な口調で語りかける。
「玲琳か......」
「会長には似つかわしくないですね。やはり、この前の作戦ですか?」
玲琳はトントンと机の目の前まで近寄ると、机上の書類を余所に退かしてそこ躊躇いもなく尻を付ける。
一応同じ血が混ざっているとはいえ無礼が過ぎるとは思うが、自由気ままな彼女にそれを言っても無駄なことは前々から知っている。
というか、今はそれを言う元気もない。
「......俺は、弟を失った」
「孝二さんですか」
「知ってるだろうがあいつは......俺の兄弟だった。時に対立はしていたが、それでも兄弟には変わりなかったし、信頼もしていた。奴がエネミーになったことは信じたくなかった......」
「それでも、彼と会った時はかなり冷たかったですね」
「奴はもはや月詠孝二ではない! エネミーだ、孝二の皮を被ったエネミー......!」
怒りと悔しさで顔を下に向けて机を睨む。
孝二をあのようにさせ、亡くした責任は重大なのは承知している。
自分が情けなくて仕方がない。
「ああ、あいつがこんなにも苦労し、私を恨んでいるとは知らなかったんだ。クソ、何故止めれなかったのだ......」
「そうですか......なら、孝二さんの敵を取ればいいんじゃないですかね?」
「何?」
「私、直接の兄弟とか姉妹とかいないから分からないですけど、そうなったら、その弟さんのために敵を取るのがいいんじゃないかと、私は思います」
玲琳は寿之が顔を上げてきたところをニコッと笑って見せる。
たしかに言われてみればそうだ、単純な考えである。
だがそれが何故か思い浮かばなかったのは、自分に責任があると思い込んでたからなのか。
「......そうだな、だがこちらも痛手を負っている。それに孝二の言っていた「本拠地」と言うのも特定は出来ていない――」
「できてますよ」
「なんだと?」
「ほら、この手紙です」
と玲琳が言って寿之に渡した一枚の茶封筒。
その中身を開けてみると、中には紙があり、そこには......。
『ディフェンサーズ。我々は『アービター』である。この前は貴様らの地上をちょっと荒らしてやったが、気分はどうだ? それはさておき、我々は現在そっちのNO.2と言われているミカ・レヴェィッジを捕虜にしている。もしこいつを助けたければ、我々の本拠地を攻撃してみるといい。3日待ってやる、それまでにS市北部で待っている。それまでに来なかったらどうなるかは分かっているはずだ』
「ミカが!?」
思わず声を出して驚く。
罠の可能性もあるが、仮に自分らを誘い出すために生かしているとなれば、不幸中の幸いであろう。
「はぁ......はぁ......そこにいましたか!」
栄太が息をゼイゼイさせながら部屋の中に入る。
「お、栄太」
「何ですか隊長!? いきなり封筒を盗ったと思ったら迷彩装置で姿を消して、何のつもりですか!?」
「ちょっと悪戯しただけですよ」
「迷彩装置はそんなことに使うもんじゃないんですよ! それに会長の机の上に座らないでください! なんであなたはそう子供っぽいことを......!」
栄太が髪を乱したまま玲琳を必死に説教している。
その玲琳は反省する気ゼロのようだが。
このままだと終わりが見えないので、寿之が止める。
「もういい栄太。この手紙は読ませてもらった。場所も分かった。どうやら連中はミカを人質に私たちの戦いを強いているようだ」
「ええしかし、それは防衛の戦力を割く罠の可能性もありますが......」
「大きな戦力を失ったとはいえ、こっちにはまだ人数的には余裕がある。少数精鋭で奴らを叩き潰し、他を防御に回すのが適切だろう。すぐに会議を開こう」
寿之が栄太のその指示をすると、「はい!」と言って忙しく走っていった。
玲琳も机からようやく降りたと思えば、くるっと寿之の方を向く。
「らしさが戻りましたね、会長。あそうだ、もう迷彩装置は人前でも使っていいですよね? 表にはあまり出して北ないとは言ってましたが......」
「......ああ、お前は前線に出てるしな」
「そうですか、ではでは」
と言った後、部屋を出て行った。
寿之は、机の後ろの窓を何となく眺める。
「......孝二、お前の敵は討つぞ」
と誓うと、会議のために部屋を後にした。