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第百三一話 無傷での敗北 (時止めと陰陽師 その3)

執筆中に新たなサブタイトル名が思い浮かんだので、考えた挙句こういうサブタイトルに。

もしかしたら前の話の方も変えるかも。

あと話がいつもの2倍近くの長さがあるのでお覚悟を。

 「『解凍メルト』」


 メアリーの合図と共に、時は一斉に動き出す。

 彼女によって投擲されたまま空中で動きが止まっていたナイフは、その瞬間から泰昌の方へ動く。


 「......え!?」


 泰昌が気づいた頃には至近距離にまで刃は接近してた。

 体を捻らせるが避けきれず、体や顔をかする。

 本当なら全部直撃するはずだったが、これは少し予想外であった。

 とはいえ、あのにやけ顔を崩して、初めて焦るような表情をみせたので、とりあえず一発噛ましてやったという気持ちになる。


 「ぐ......!」

 「初見でそこまで対応するとは、流石ナンバーズね」

 「これが君の能力か......聞いてはいたが、()()()()()()()、これ程とはね......ふふ、面白い」


 またにやけた顔に戻ったが、そろそろ強がりの笑みにも見えてきた。

 メアリーはこれで有利な状況に持ち込めたと確信する。

 ここまま短時間で叩き潰す。


 「さあ、ここからよ!」


 メアリーは再び世界凍結をかけ、時を止めると、投げナイフを二ヶ所に分けて配置する。

 解除してナイフを飛ばすと、二度目は彼が張ったバリアで弾かれてしまった。


 「僕も学習はするんでね!」


 その後すかさず泰昌は錫杖を横に振ると、それに沿うように魔法陣も生成されて、メアリーに正面を向けている。

 さらには、メアリーの上空にも魔法陣が張られており、一極集中的に攻撃を浴びせるような形となっている。

 だが、それも怖くはなかった。


 「無駄よ」


 また時止め魔法をかけると、発射寸前の魔法陣の射程範囲を避ける。

 そのまま彼の背後まで走り周りこんだ後に、能力を解除。

 その直後に盛大に爆発音が響く。

 それが見事にスカったことを心中笑いつつ、泰昌の背後で一本のナイフを取り出すと、その柄を持って反動をつける。


 「ここだよ」

 「んな――」


 泰昌が振り向いたところで、丁度そのナイフが彼の肩に刺さる。

 驚いた顔に泰昌の形相が変わる。


 「っ――!!」


 泰昌が痛がってる隙にメアリーは彼を腹を蹴り飛ばす。

 ナイフが刺さった肩を庇いながら無様に転がる。

 気味が良かった。


 「はぁ......さあて、お前のそのうざい顔を拝んであげようか」


 ここまで痛めつけたら、あの顔からは余裕さは完全に抜けているだろうと、そう見込んだ。

 だが、彼がゆっくり立ち上がり、顔をメアリーの方に向けると、未だに笑いを浮かべていた。

 それどころか、笑い声を漏らしながら体に着いたほこりを払う素振りまで見せる。


 「......フフ、想像以上に強いね、君」


 彼はそういって型に刺さっているナイフをゆっくり抜く。

 傷口からはドロっと血が流れる。


 「まだ、そう強がっているの......」


 全くしてやった気にはならない。

 それに気味悪くすら感じてきた。

 どう考えても自分がが有利なはずなのに、逆にこっちが追い詰められているような精神状態になってきた。


 「何故だ、どうしてそんな顔をするんだ、気持ち悪い! お前はもう死ぬんだ、私の手によって!」

 「んん......そうかな?」

 「え......?」

 「闘いはどっちかが負けるまで分からない、それは神のみぞが知る、だろ? それはそうと......もう十分に時間は稼いだよな......?」


 泰昌はにやりとしながらこちらを睨みつける。

 その言葉と表情に、ゾクゾクっと悪寒が走って、そこから逃げたい衝動に駆られて思わず世界凍結を発動する。


 (何、この感覚は......?)


 勝てないような獣に睨まれた感覚に包まれている。

 たしかにこの能力は体力を大量に消費するので、できるだけ効率よく使うことが求められているが、今のところそこまで苦しくない。

 それに、この状態からナイフを投げれば、間違いなく泰昌にとどめを刺すことができる。

 ......そう、これは泰昌の作戦だ。

 こうして精神攻撃という手を使って悪あがきでもしているのだと、自分に言い聞かせる。


 「......そうよ、ここからひっくり返すことなんて無理よ、大丈夫」


 メアリーは心を少し着かせた後、地面に落ちている投げナイフを数本手に取った。


 「さよなら、安倍泰昌。待っててください、ミカお姉様......」


 メアリーは投擲の予備動作に入ると、ナイフを持っている手に何か変な感触がした。

 液体が手を伝うような感覚がしたので、自分のその手を見てみると、思わず悲鳴を上げて手を放した。


 「ひっ......!?」


 空中で静止した、投げようとしていたナイフがドロドロに溶けていた。

 メアリーが持っていた跡もくっきりと残るくらいに、ふにゃふにゃに軟化していた。

 しかもそれだけではない、腕や太もものベルトに装着されていたナイフまで、一斉に溶解が始まり、メアリーの肌を沿って水滴が通っていた。


 「いや、なにこれ......!?」


 メアリーが能力を解除すると、落下したナイフの刃はアイスクリームのようにグチャっと潰れた。


 「......お、やっと効いてきたか、『呪術・銀龍の涙』」


 泰昌が上機嫌にしゃべりだす。


 「いやそれ実は失敗作でさ、この効果が効くまでに結構時間かかるんだよ、錫杖取りに行っている間にかけたんだけどね」


 その言葉を聞いて愕然としたのち、そうか、とメアリーは悟る。

 あの余裕は決して強がりでもなかったし、ましてや精神攻撃なんかではなかった。

 最初から勝負は決まっていたようなものだった、自分は今の今まで彼の舞台の上で見事に踊らされていたのだった。


 「で、どうするの? ナイフは無くなったし」

 「この......」


 地面のナイフまで溶けていくのを見ながら、メアリーは歯を食いしばる。

 自分はまだ負けていない、ここで負けるわけにはいかないと、強引に自分に言い聞かせると、


 「き、貴様ああああ!!」


 メアリーは大声を上げながら泰昌に向かっていった。

 ナイフがないなら素手だといわんばかりに、彼女は泰昌に殴り掛かる。


 「おう?」

 「この、このっ!!」


 彼女は泰昌に対して蹴り上げるが、それは泰昌に腕一本で防がれた。


 「パワーがないね。サラだったらちぎり飛ばしてたよ、ハハ」

 「ぐっ......!」


 涙を視界がぼやけていく中、メアリーは脚を下した後にまた一回殴ろうとするが、またしても泰昌に手で受け流されたのち、腹に札を抑えつけた。


 「『呪術・不断鎖ふだんさ』」


 と唱えると、札が光ったのち、青白い鎖がそこから飛び出したくる。

 体を囲むと鎖は地面に固定され、身動きが取れなくなってしまった。

 何とか強引に身体を動かして抜けようとするが、それは叶わなかった。


 「もしあの札がなかったら、間違いなく君に軍配が上がっていただろうね。まさか役に立つとは思ってなかったよ」

 「グゥゥゥゥ、貴様、貴様ぁ......!」

 「こんな少女を獣のように豹変させるとは、余程姉分に対する執着心が強いんだねぇ」

 「なぜそれを......!」

 「君の執事から聞いたのさ」

 「え......」


 狂ったように興奮していた状態から、一気に頭が冷える。

 執事、というのは間違いなく曉である。


 「あの人には、『もうすぐここに、私の主人の妹様があなたを殺しに来るでしょう。どうか、できるだけ無傷で彼女を止めてください』、というような感じで言われてね。大変だったよ、君を無傷で下すのは。ま、僕も少女を痛めつけるよなマニアックな性癖は持ってないし」


 自分は本気で彼を殺しに行ったのにもかかわらず、その彼は一切の傷をつけないようにしていたという。

 それだけのハンデを背負っていたのにもかかわらず、自分を伏せたというのは、実力と経験の雲泥の差を感じさせられた。


 「君も分かってたんじゃないの? こんなことしてもミカを助けられないことぐらい。相手が正々堂々と渡してしてくるとは思えないし。それに彼も言ってたけど、仮に全てうまくいっても、これでほんとにミカは喜ぶのかねぇ」


 曉と同じようなことを言われた。

 確かに気づいていた、だがどうしても信じたくはなかった。

 これ全て、自分が満足すればいいという、ただそれだけのことであったと完全に気づく。


 「わ、私は、どうすれば......」


 涙声になりながらも泰昌に話しかける。


 「ん? 安心して、君が僕を襲ったことは漏らさないから。こっちからはエネミーで負傷したって報告しとくよ。ミカは通信で伝えるなりなんなりするでしょう」


 不断鎖の効果が切れて、鎖が消滅すると、そのまま地面に崩れる。

 悔しさと恥ずかしさが凝縮された涙がこぼれ落ちそうになった時、白い布が目に前に入った。


 「はいハンカチ、これで涙と溶けた鉄でも拭きなよ。あ、涙の後に鉄の方がいいかもね」


 見上げると、相変わらず笑みを出している。

 が、そこには蔑むようなのではなく、優しさが入っていた。

 まるでさっきまで自分を殺しに来た相手に対する態度ではなかった。

 それでとうとうやられ、頬に水があふれてきたので、ハンカチを手に取ってそれを拭く。


 「あ、ありがとう......」

 「どういたしまして」


 泰昌は何気なく返事をした後、このような提案をしてきた。


 「そうだ」

 「え?」

 「僕が決めることじゃないんだけど......もしミカを連れ去ったアジトを攻撃するときには、ミカを助けるために君も参加するという考えが今思い浮かんだんだが......どうよ?」


 泰昌はしゃがみこんでメアリーに問う。

 これを拒否する手段はなかった。


 「......出来るのなら、もちろん」


 涙を拭い、メアリーはそれを承諾したのだった。

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