第百二四話 なぜ、なった その1
エネミーに襲われそうになっている女性が、一人。
目の前にいる脅威に腰を抜かして動けない。
対するエネミーはそれを観賞するかのようににやけ、両手の包丁を擦り会わせている。
「敵さん発見~」
エネミー出現の一報を聞き、ちょうどここに駆け付けたサラは、急いでそこへ走る。
脆い心臓を働かせながら。
「とぉっ!!」
「ビャッ」
疾走の勢いはそのままに、いままさに刃を降り下ろそうとしているエネミーの脇腹に飛び蹴りを食らわす。
不意打ちを受けたエネミーは大きく吹き飛ばされていった。
「サ、サラ、さ......」
「おう、私の背中を目に焼き付けてから逃げるんだぞ!」
「は......はい!」
声に生気が戻ってきた女はサラの言う通りに、走って逃げ出した。
「......さて、彼女には背中を見せたけど、君には拳を見せようかね」
サラはそう言いながら、腰に巻いてあるジャージを再び締める。
蹴られたエネミーがむっくりと起き上がってくる。
オレンジの布のようなものに包まれたエネミーは、そこから出てる真っ白な目をこちらに睨ませてくる。
「痛いだるう......!」
「痛くするのが仕事だからね」
「サラ・マルベールか」
「よく知ってるね、嬉しいよ」
と、適当に返したところでそろそろ戦いに入る。
最初から一切手を抜かず、手早く始末する。
そうでないと体が限界を迎えることになる。
「じゃ、早速始めさせてもらうよ」
サラは真正面にいる、オレンジのエネミーを思いっきり殴りにかかる。
エネミーが咄嗟に出した大きな包丁の側面で防がれるが、その隙から横に回し蹴りを入れる。
今度こそ喰らわすことができたと思ったが、もう一本の包丁がそれを防ぐ。
「なかなかの包丁裁きだね」
「なめるんじゃないぞ!」
エネミーはその包丁で受け止めているサラの脚を弾くと、刃先を向けてすぐに攻勢に出る。
「うお、よっ、と......」
二丁の包丁がサラの身体を突き刺しにかかるが、柔らかい体を駆使してできるだけ最小限の力でかわしていく。
それと共に、カウンターで腹部らしき場所に一発蹴りを入れる。
「ゲッブゥ.....!!」
「隙があるよ!」
その後はサラの攻勢が大いに目立つ展開となった。
がしかし、攻撃が直撃する場面は全くなかった。
それによって、心中で徐々に焦りが出始める。
(持つか、私の体......?)
ずっと攻撃を行っているため、自分の体力が危ぶまれてくる。
「ほら、そっちからも攻めて来いよ!」
と言って挑発にかかったり、攻撃を多少ゆるめたりするも、せいぜい彼女の攻撃の合間に包丁を一振り挟む程度である。
そろそろ息が上がってきたので、彼の包丁を蹴り押して、一旦距離を取って休憩を試みる。
「ハァ、ハァ、......」
心臓が激しく打ち付けるのを感じて、それがサラの不安を煽る。
早くしないと、あの激痛が待ち受けているのは言うまでもない。
だが突然、さっきまで防戦一方だったエネミーがサラの前に飛び込んできた。
「え!?」
油断していたので驚いたものの、咄嗟にしゃがみこんでエネミーの斬撃をかわす。
どうやら休ませる気は無いようであった。
(コイツ、私に戦いをやめさせないつもりか? ......まさかコイツ......)
一瞬、嫌な推測が浮かび上がってきたが、それは振り払い、エネミーに殴りや蹴りを入れる。
だが彼もずっと防御してきた疲労があるのか、段々と刃を盾つける速度が落ちてきた。
そしてついには防御にも隙が見えた。
当然サラがそこを逃すわけがなく、そこに膝蹴りを食らわすと、モロに入った。
「ブッベェ......!!」
声を出して悶えたエネミーは数メートル飛ばされる。
やっとこさの一発であった。
「やっとだ......」
息を上がらせたサラは、空中で体勢を立て直したエネミーへ突っ走る。
止めを刺せるところまで来た、あと一息だ。
(これで、終わり――)
そう思っていた直後だった、悲劇が起こったのは。
突如、心臓から、銃弾を打ち抜かれたかのような激痛を覚える。
「――!!!」
声も出ぬ痛みで、走っていた状態から思いっきり地面を転倒し、床を引きずって止まる。
胴体中を複数の針が荒らしまわるかのような、耐え難い感覚が襲ってくる。
サラはそれにうずくまっているだけである。
「......へ、へへ、やっと起きたぜ......お前が発作もちなのは知ってたんだよ、だからお前に攻めさせた」
さっきまで劣勢だったはずのエネミーが、打って変わって大きな態度でサラの髪を掴む。
なすすべもなく頭を持ち上げられ、遂にはしてやったりという笑いを浮かべたオレンジの顔が見えた。
「惨めだな」
「ぐ......な......」
痛みを堪えながらほとんど息だけの声を振り絞ってしたら、エネミーの包丁が彼女の腹部を横に斬る。
「アァァァァ――!!!」
気絶しそうなくらいの痛みで、顔を仰がせ、今までにないくらいの大きな悲鳴をあげる。
彼女は半分放心状態のまま、エネミーの放り投げられた。
(あぁ......死ぬのかな......)
いたみに耐えられずに出た涙を顔の横に伝わせながら、ふと思う。
発作のせいで死ぬとしたら、まさに自分らしい最期だなと。
(......なんで......ディフェンサーズに入ったんだろう......)
えっと、もしよろしければブクマ、評価をお願い致します!