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第百二二話 姉が迷惑な件 その1

「退屈」


 アシュリーはそのデスクの上に腕をつけて、ぼーっと何もない斜め上を眺めている。

 アシュリーの自室はいたって平凡で、木製のデスクに飾り気のないベッド、それにクローゼットが備えられている。

 今日は出動もなし、感情が大きく動かされる出来事もなく、気が付けば正午を回っていた。


 (ララはシェルターに入り込んでるのか......)


 ふと、ララのことが思い起こされる。

 今頃はエネミーを狩りまくっているのか。

 もしや追い詰められて鬼人化でもしているのだろうか......。


 「うう......」


 顔が熱く感じて、それが恥ずかしくなってうめき声を漏らす。

 心臓の鼓動が早く打っている。

 初めて対面したのは去年かおととしか、それは偶然ディフェンサーズの施設の廊下をすれ違ったという程度だった。

 その時はそんな感情は持っていなかった。


 だが、ある任務で初めてララと組んだとき。

 彼女が「一緒に頑張ろう!」という意気込みと共にアシュリーに向けられた、天真爛漫な笑顔。

 それがが徐々にアシュリーの思いを引き寄せて行って......気が付いたら彼女の虜になっていた。

 そこから彼女との会話は意識して少々ぎこちなくなったりしている。

 どういう理由か分からないが、アイラに無理やり引っ付け合わされたときは、心臓が血圧で破けてしまうのでは無いかと思ったほどだった。


 (ララにバレてるのかな、これ......)


 アシュリーの行動が露骨なので、アイラみたいなララやアシュリーとよく面合っている人物にはすでに見透かされている。

 だがララは単純だ、喋り方に違和感があったくらいでは、変に思ってたとしても、まさか自分に思いを寄せているなんて言う考えは出来ないだろう。

 あのデートも、アイラの思惑は汲み取れていないだろう。

 だがあそこまであからさまだと、悟っている可能性も否めないが......。

 そうしてララの事を考えていたら、両肩を思いっきりバンッと叩かれる。


 「ひぅっ!?」


 突然の衝撃で心臓と体が跳ね上がる。

 その拍子に膝を机に全力でぶつけてしまう。

 地味に痛い。

 その膝を庇いながら後ろを向くと、片目を青髪で隠した女がにっこりとしているのが分かった。


 「どうしたの、そんな深刻そうな?」


 姉のイザベルだ。

 イザベルはアシュリーをからかうような口調で話しかける。

 呆けてる間に物音を立てずにここまで近づいていたのか。


 「な、なんだよ。勝手に入らないでよお姉ちゃん」

 「なんか気になってさぁ、弟の考え事を見過ごすわけにはいかないでしょ」

 「いや見過ごせよ。それも一種の気遣いだ」

 「そういわずにさ、お姉ちゃんに聞かせてほしいなぁ」


 イザベルは椅子越しでアシュリーを両腕で囲ってくる。

 何かと引っ付いてきてはスキンシップを求めてきたりと、姉の溺愛っぷりに振り回されているアシュリー。

 このブラコンは治ることは無いのだろうか......。


 「聞かなくて結構」

 「あ、そうだ、お姉ちゃんが当ててあげる。......ずばり、恋の悩み!!」

 「えぇ......」


 ドンピシャで当てられて背筋がゾクっとする。

 思わず大声も出そうになったが、なんとか最小限に抑える。

 姉弟関係とはいえそこまで一緒にいたわけでもないのに、それを見事に当てられたことに恐怖すら感じる。


 「な、なんでそうなるのさ」

 「アシュリーって照れたりすると素直に顔に出ちゃうんだよね、現に顔真っ赤だし」

 「違うってば......」


 そろそろ心拍の上がりすぎで目が回ってきそうだ。

 顔中がムワムワと熱気を感じるから紅潮しているのは本当の様だ。


 「お姉ちゃんには分かるぞ? さ、だれが好きなのか言ってみてよ」

 「ねえだからそういうのやめようってば......」

 「もうそんな意地張っちゃって、かわいいんだから!」

 「ああっ!!」


 この状況に耐えきれなくなったアシュリーはイザベルの腕を離してさっと立ち上がると、逃げるように部屋を去ろうとする。

 その間際、「やっぱり図星だったかな?」とちょっかいを掛けられるが、一切無視。

 アシュリーは一種の恐怖から逃げるようにドアを突き飛ばすように開けて出ると、靴下を履いた後に玄関へ向かう。


 「どこ行くの?」

 「外」


 熱気を纏った身体を涼ませるためだ。

 頭を白くさせながらシューズを履いてドアのロックに手を伸ばした時だ。


 「え?」


 扉の向こうから何かが聞こえてきて、それで一気に冷静になれた。

 ドアに耳を当てると、何やら不気味な声が聞こえてくる。

 それも複数いるように感じた。


 (まさか......)


 少なからず人間ではないと確信したアシュリーは、ロックから手を離して、近くに掛けてあった剣を手に取る。


 「何で剣なんか......あ」


 玄関前まで追っていたイザベルも、その状況をなんとなく察したのか、途中で言葉を切った。

 アシュリーは再び、ゆっくりとロックを掴む。


 「死にに来たか......」


 彼はそう呟きながら右手で鍵を右に回すと同時に、剣を持っている左手でドアノブを回す。

 そして胴体で扉を前に押して開く。


 「斬り捨てる!!」


 アシュリーは開けたと同時に剣を下から抜刀し、目の前にいた化け物を斬り上げた。

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