第十一話 青髪の剣士は男です その2
「お、遅かった......」
あと少しで終わるはずだった。
だが、ほんの少し、遅かった。
エネミーの成長が始まったのだ。
その背中が裂け始めた。
「ああ、そんな......」
アマツは嘆いた。
ただでさえ強い幼虫なのに、ここから成長するとなると、とんでもないことになるだろう。
何故か出ている光を漏らしながら、どんどんその背中の裂け目を広げていく。
そしてその裂け目から、羽根が出てきた。
その羽根は、アゲハのように美しい模様をしていた。
「く、来る......」
ついに成虫らしき物が出てきた。
全貌は光でシークレットしか見えないが、思ったよりもかなり小さい。
しかも人の形をしている。
「ま、まさか、成虫はあんな小さいやつだと言うのか!?」
サラは驚いた。
が、その直後、更に驚かされることになる。
謎の光が消えたとき、そこに現れたのは......おじさんだ。
髪が頭の側面にしかなく、服はパンツ一丁の、一見中年のおじさんのような容姿をしている。
「へ?」
これには一同、拍子抜けである。
こんなのがあのエネミーの成虫だとは、誰もが想像していなかっただろう。
「う、う~~ん??」
サラは腕を組んでエネミーを凝視した。
さすがに彼女も、こんな姿は想像していなかっただろう。
すると、エネミーがサラに近づいてきた。
彼女の目の前に近づくと、2つあった腕が、背中から更に2本でて来て、4本になった。
「!?」
サラは組んでいた腕をほどき、戦闘の姿勢に移った。
その直後、エネミーは右の2本の腕で彼女を殴った。
彼女は腕で防御したが、その威力は高く、飛ばされ、建物に激突した。
「サラさん!!」
アリアスは叫んだ。
「おいおい、見かけに寄らないとはよく言うが......これはどうなんだよ......」
アマツはそのエネミーのギャップに驚かずにはいられなかった。
すると、エネミーがこっちを向いた。
「こ、これはやばい.....」
アマツは死すら覚悟した。
その時、建物の破片が落ちる音がした。
サラが、はまった壁から抜け出した。
「おい、痛いじゃないか......」
サラは頭から血を流し、目を鋭くして言った。
アマツは彼女の殺気を感じ取った。
「あの人、本気だ......」
エネミーは再びサラに視線を向け、指を鳴らした。
そしてサラは、膝を少し曲げ、左手を地につけた。
その直後、エネミーに向かって飛んでいった。
「はぁっ!!」
彼女は右手で殴りかかろうとすると、エネミーに右手で防御された。
だが彼女はスピードの反動で右足を蹴りあげ、それはエネミーの顔に命中した。
エネミーはのけ反ったが、すぐに顔を起こすと、左手で彼女に殴りかかった。
それを彼女は避けた。
その後彼らは避けては殴るの勝負になった。
(な、なんだこの高レベルな戦いは......!)
アマツは彼らの立ち回りを目で追うのがやっとであった。
「ご、互角......?」
「いや、サラさんたちの戦いは一見互角に見えるけど、所々でサラさんがダメージを与えてるわ」
確かに、サラの傷は頭からの出血だけの一方、エネミーは殴られたり蹴られたりされている跡がある。
そう、この戦いは、サラが有利のはずだった......。
暫くすると、エネミーが地面に落ちてきた。
そこに、サラがよってきた。
この殴り合いは、サラに軍配があがった。
「はぁ、はぁ......今度こそ私の勝ちだ......!」
サラも相当疲弊している。
「や、やっと決まるのか......」
アマツはそういった。
そして、サラはとどめを刺そうとした。
「......ぐ、あが!?」
突然サラがもがき始めた。
サラは地面に倒れこみ、痙攣を起こしている。
「ひ......あぁ......!!」
彼女は目を見開いて歯を食いしばっている。
「な、なんでサラさんが苦しんでるの......?」
アマツはこの状況を理解できなかった。
エネミーもどうしてもがいてるのか分かっていない様子だった。
が、これをチャンスと思ったのか、すぐさまサラを掴んで、地面に叩きつけた。
何度もメンコのようにばしばしと......。
アマツたちはこれが見るに耐えなかった。
最後は、ぽいっとアマツたちのところへ投げ捨てた。
「サラさん!!」
アリアスはサラの体を揺さぶった。
サラはこちらを見ている。
「ご......ごめん......」
サラはゼエゼエと息をしながら言った。
アマツは頭に血が上った。
「こ、こいつ......!!」
彼は炎をだし、エネミーに攻撃を仕掛けようとした。
その時であった。
「待った」
誰かが彼の肩を叩いた。
中性的な声の主は、ハンチングを被った青髪のロングヘアーの人だった。
「命を捨てて戦うことは大いに結構だ」
彼はそういうと、マントに隠れていた左の腰に携えている剣の柄を持った。
エネミーは彼のほうに振り向き、殴り掛かった。
「......だが、それをするのは勝機があるときだけだ」
彼がそういって抜刀すると、一瞬にしてその拳は粉々に砕け散った。
エネミーは驚いた表情をした。
「ちょっと、調子に乗りすぎたな、お前」
そういって彼は剣を鞘に戻した。
エネミーは怒ったのか、自棄気味に殴り掛かった。
が、彼はそれをことごとくかわすと、再び抜刀し、腕をすべて切り落とした。
エネミーはその切断された腕をみて、驚愕した。
「つ、強い......!」
さっきまでサラが苦戦してたのが嘘かのように、エネミーを彼は圧倒している。
すると、エネミーが羽を動かし始めた。
「あ、逃げる気だ!」
が、彼は動じない。
逃がすつもりなのかとアマツは思ったが、
「......そんなので飛べるのか?」
彼はそう言った。
アマツは一瞬その言葉の意味がわからなかったが、次の瞬間、エネミーのその羽は塵と化した。
「!?」
エネミーは背中を見て、怯えた様子で彼の方を見た。
「な? 飛べないだろ?」
彼はハンチングから見える蒼い目をエネミーに見せると、エネミーは後ろを向き、走って逃げようとした。
すると、彼は抜刀し、まずは外側に一回切り、そして内側に一回切り込んだ。
「『空蝉 』」
エネミーは上半身と下半身に分けられて、その後に首を跳ねられた。
彼は剣を振って血を払うと、鞘に納めた。
そして彼は、サラの方に近づいた。
「う......ぐ......」
「サラ......また"発作"でも起こしたのか?」
彼は帽子のつばをもった。
「ほ、発作?」
「ああ、こいつ、運動し過ぎると身体が耐えられなくなって激痛を伴う発作が起きるんだ。全く、不幸なやつだよな。これさえなければもっとナンバーが上がってたんだろうに」
サラは未だに苦しそうにしている。
「ま、仕方ないよな。これがお前の運命なんだからな」
そう言って彼は立ち去ろうとした。
「待って!」
「?」
「名前は一体......?」
「僕か? アシュリー・エイリー、NO.6だ」
そういって彼、アシュリーは去って行った。
「あれがNO.6......道理で強いわけだわ」
アリアスは言った。
すると、サラが立ち上がろうとした。
「あ、もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう歩ける」
サラはよろめきながら立った。
「いや~、ばれちゃったか」
サラは元気なく微笑んだ。
「もしかして、俺と勝負を避けたのも......」
「うん、このことを君たちに見せたくなかったからだよ......もっとも、いま見られたから意味はなくなったんだけどね」
サラは体についた汚れを手で払った。
「なんでこんな身体で生まれてきたんだろうなぁ......神様って、いじわるだよね......」
サラは下を向いた。
アマツは今はこれ以上関わらない方がいいと判断した。
血の臭いも相まって、辺りは気まずい雰囲気に包まれた。