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第百十八話 若執事が忙しい その2

 「これで最後の一人!」


 不気味さを出している手が最後の黒服の腹を貫く。

 最期まで一言も発することなく、そのまま霧と化していった。


 「これで終わり......ではないですよね」


 まだ一つ、やるべき仕事が残っている。

 正門の前に一体のエネミーが佇んでいる。

 曉が駆逐作業を行っている間、やる気がなさそうな半開きのエネミーは本当の岩になりきったかのように完全に影をひそめていて、そのおかげで忘れかけていた。


 「グゥ......」


 エネミーは小さく呻り声を鳴らすと、図太い四足を前に動かし、時々ギザギザ尻尾を地面に叩く。

 その度に僅かに地響きがして、歩くと言う行動すら一苦労しているように見える。

 かなり遅いので、曉も前に出て距離を近づける。


 「......あなたも、私に倒されに?」

 「......」


 このエネミーも一言も喋らないタイプなのか、さっきの呻り声以外ひとつも聞いていない。

 黙々と曉の前へと歩み続ける。


 「さて、私はまだ仕事があるので、早く勝負を――」

 「ブァッ!!」


 曉が構えた直後に、エネミーが突然鈍足だった動きから一転して、虎のような、いやそれ以上の俊敏な動きで曉に駆け寄っていく。

 半目のまま大きな口を開け、鋭い牙を剥き出しにして噛みついてきた。


 「え!?」


 さっきまでとのギャップで驚きつつも、横にすれすれで回避し、エネミーの牙は空を切る。

 すかさずその隙を狙ったカウンターで白い気砲を発射し、エネミーに命中させる。

 だがそれによって立ち込めていた煙が晴れると、厳格さも持ち合わせている外皮は一切として傷がついていないのが分かった。

 背を向けていたエネミーがこちらを向くと、表情は大して変わってないが殺意が溢れているのは感じとることが出来た。


 「見た目通りの、ですか」


 曉はより強力な気砲を浴びせに掛かる。

 それに比例して命中時の煙も盛大に巻きあがる。

 それでもエネミーはそれに怯むことはなく黒い雲を突破すると、身体に張り付いてきた煙で直線を描きながら曉に襲いかかる。

 見た目に反した怒涛の突進は迫力がある。


 「はいっ!」


 曉は翼を思いっきり下に振って舞い上がり、エネミーの攻撃を避ける。

 もっと全力を出して気砲を放ちたいところだが、それでは邸にまで被害が及んでしまう可能性がある。


 「取り敢えず他の攻撃を試してみましょう」


 空中に浮いている状態から一気に急降下し、エネミーのごつい背中に乗っかる。

 そして両手の天獣手の鋭い指先を用いた攻撃を見舞う。

 指先を立てて、両手で一回ずつ引っ掻いてみるが、見事に弾かれてしまう。

 ダイヤモンドを掻いている様だった。


 「なんて固さ......」


 近接攻撃をしてみてエネミーの固さを確認したところで、右横に細長い像がチラッと見える。

 恐らくあの鋭利な尻尾だ。

 直ぐに両腕を揃えて防御姿勢に入ると、その腕に衝撃が重くのし掛かり、そのまま背中から投げ出される。

 なんとか翼で崩された体勢を立て直す。


 「うーん、これはまともな攻撃の仕方では無理ですね......」


 ここから馬鹿みたいに同じ攻撃を繰り返しても無駄だということを悟った曉は、ある部分に目を付けることにした。


 (あの大きな口......!)


 エネミーの、全開にしたら顔の半分の面積は取りそうな大きな口に、気砲をぶち込もうというのだ。

 そもそも外の殻が固いのは攻撃から身を守るためであって、内側も同じく固いなんてことはあり得ないはず。

 なら、外部が駄目なら内部を直接破壊すればいいという考えだ。


 「そうと決まれば......!」


 曉はエネミーの攻撃をかわしつつ、隙を見計らう。

 都合よく、エネミーが口を開いて長い舌を暁に向かわせていった。

 当然その好機は見逃さない。


 「今だ!」


 飛行してエネミーのベロ攻撃をかわしながら、そのまま急接近。

 あっと言う間に距離を詰めると、急いで舌をしまいこんで閉じようとするエネミーの口を、上側の歯を左手で、下側の歯を足で食い止める。


 「ガアア、ガアアア!!」


 エネミーはこの先に怒ることが分かっているのか、大声を上げながら必死に曉を噛み潰そうとするが、曉がそれを上回って、こじ開ける。


 「さあもっと恐怖を感じなさい、これがお嬢様に挑もうとした代償です!」


 曉は空いている右手からエネルギーを溜めこむと、それをエネミーの口めがけて放つ。

 その刹那もしないうちに悲鳴を掻き消すような炸裂音が響き、煙を吐き出し、全身に生暖かいものを受けた。

 即死か、上下から身体を押すような力は働いていないと見ると、牙から足を外す。


 「血生臭い......」


 顔にも、手にも、服にも、体の前面に血が盛大に塗られている。


 「......それでは、一回体を洗ってからまたさっさと掃除を終わらせましょうか。この死体の処分はまた後ほど」


 曉は元に戻った手をハンカチで拭いながら、邸の中へ姿を消した。

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