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第百十話 鬼人ララ その2

 「あ、ははぁ、あはははっ」


 気持ちが昂る。

 そして果てしない力が湧いてくるような感じがした。

 とうとう鬼人化したのだ。

 ララはその興奮を噛みしめるように、明るくではなく、不気味に笑う。


 「な、なんだお前、目が赤いぞ!?」


 にやけ顔だったセントは顔を冷ました。

 『鬼人ララ』の真っ赤に輝く目を見て、思いっきり驚いていた。


 「とうとうしちゃった! すごい笑えるよこれ! 今ならこの状況からお前にも勝てるぞ!」


 ララの性格は豹変していた。

 今の彼女はもはや狂気としか表現できない。

 みるみると湧き上がってくる力が、破壊を求めている。

 その矛先が向けられたのがセントだ。

 

 「これはやばいやつだ!」


 この危険を察知したセントは即座にララの頭上から青竜刀を振り下ろしにかかる。

 だが今の彼女にはそれはさっきと比べてスローモーションにみえる。


 「もう遅いってのぉ!!」


 ララは自分の首を掴んでいるセントの手首に強烈な膝蹴りを浴びせる。


 「ぬわっ!?」


 セントは痛みと驚愕が混じったような声を上げながら、彼女の蹴りに負けて首を離す。

 離された瞬間、彼女は手元に落ちていた一本の刀を拾い上げる。

 さっきよりも格段に速いスピードでセントへその刃を振り回す。


 「ぐっ! なんだこいつ、急にスピードがっ!」

 「あははははは!」


 さっきの戦闘から立場は完全に逆転していた。

 彼女の普段出すことの無い潜在能力が覚醒し、通常よりも格段にスピード、攻撃力、動体視力等の能力が上昇している。

 セントはそれに打って変わって悪戦苦闘している。


 「なんだよお前、狂っちまったか! どうしてそんな目になっちまったんだ!?」

 「私が本気出したってことよぉ!!」


 セントのにやけ顔は完全に消え、代わりに焦りと必死の表情が顔に出ていた。

 ララはただただ衝動に背中を押されてセントに斬撃を浴びせようとする。


 「こいつまるで、体の中に二人いるみてえだぜ......!」


 違う、彼女は心身共に一人である。

 記憶は共有されているし、ただ彼女の感情が攻撃的になっただけで決して二重人格などではない。

 それに攻撃的なったからと言って見境なく生物を斬りつける訳でもなく、敵味方の区別がつく等一応意識はある。

 ......現状のままなら。


 「うがっ!」


 ずっとあの猛攻を凌げるわけもなく、とうとうセントの腹をララの刀が突き抜ける。

 満足感と快感がララの体全体にみていく。


 「あははっ!」

 「ぐ......ここは距離を......!」


 セントは体勢を立て直すために油断しているララの刀を強引に引き抜く。

 傷口から血を撒きながらも後ろ向きで直ぐに退こうとする。


 「はっはあ、ダメじゃん逃げちゃあ」


 だるそうな口調でララがそういうと、刀を逆手に持ち、右腕で担ぐような姿勢を取る。

 そして刀を後ろに引いて、やり投げの感覚でセントめがけて投げた。


 「はぁっ!!」


 ララの鉄の槍は弾丸の如き速さでセントへと急接近。

 ステップで後退していたセントはその時運悪く跳んでいる最中であり、なすすべもなく左側の頭蓋骨を、その中にはまっていた目を潰して砕いた。


 「が......!!!」


 セントは刀の勢いで首を九十度後ろに曲げ、そのまま墜落する。

 一方で武器を失ったララは、都合のいいところにもう一本の刀があるのを見つける


 「あったぁ......」


 ララはそれを拾い上げると、おぼつかない足取りでセントのところへゆっくり歩いていく。

 よほどの大ダメージだったか、セントは刀が刺さったままぐったりと横になっている。

 彼女が近づいてくると、それを感知して体を起こす。


 「な......なんだよ......」

 「もうおしまいなの......? もう、もうしまい......しまいだぁ......あはっ」


 ララは完全に酩酊したような状態であり、喋り方もおかしくなっている。

 セントはもはや怯えており、腰を抜かしながらも手で体を後ろに動かす。


 「な、やめろ、このキチガイめ......!」

 「え、えへへぇ......」


 ララはセントの言葉は一切気にせず、赤い目で刀を振り上げる。


 「あ.......た、助けてくれ......」


 ララは泣き言を吐いているセントを気にすることなく思いっきり振り下ろす。


 「がぁ!! や、やめてくれ、あああ!! あ、兄貴......!!」


 ララは何度も刀を振り下ろしたり、突き刺したりする。

 ざくざくと感触が伝わるたびに、彼女は刺激を全身で感じる。

 そしてセントが力尽きたとき、やっと彼女の目は赤から茶色に戻り、鬼人ララは影をひそめる。


 「はぁ......はぁ......」


 さっき暴れた疲れが一気に襲ってくる。

 これも代償の一つだが、本当に恐ろしいのは彼女が鬼人化の時間が長くなりすぎた時である。

 こうなれば自我はなくなり、もう自分自身では止めることは出来なくなるが、今回はそれまでに自分で解くことができた。


 「なんとか......暴走は抑えられた......けど」


 もう一度セントを見てみると、多数の切り傷があり、無残な姿に成り果てていた。


 「......ごめんなさいね」


 ララは彼に聞こえるはずもない謝罪をすると、骸骨を串刺しにしている刀を引っこ抜く。

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