第十話 青髪の剣士は男です その1
「それでさ、フリッズとか言う女が俺の家に入ってきたってさ」
アマツは自分の家でビールを片手に十郎に自慢気に話した。
「で、その後はどうしたんだ?」
「缶ビール一個盗んだ」
「えーマジかー、愉快な女だな!」
十郎は大きく声をあげて笑った。
「笑い事じゃなねえよ! まったく、俺はそんな金持ちじゃねえし」
アマツはビールを左右に振りながら言った。
ビールの中からチャポチャポと音を立てていた。
「......で、アマツはビール飲んでもいいのか?」
「え、何で?」
「だってぇ、それ飲んで酔っ払った状態でエネミーと戦うことになったらどうすんだよ?」
十郎は赤い顔で言った。
「いやいや、俺避けに強いから缶ビール一個じゃ酔っ払わないよ」
と、アマツはにやっとして言った。
突然、机が震えた。
震えの正体はアマツの携帯のバイブだった。
「お、ディフェンサーズの役員からか?」
アマツはその携帯を手に取った。
「はい、もしもし、アマツです」
「アマツ君か!今すぐ現場に向かってくれ!」
その声の主は焦っている様子だった。
「え?」
「これは T 市に住んでいる戦士全員に出した命令だ! その怪物は、レベル4だ!!」
「そ、そんなの全員に出すようなことでは無いのでは?」
「早く討伐せねばならんのだ!! やつが成長するまでに!!」
役員の切羽詰まった様な声に、アマツも動揺を隠しきれなかった。
「詳しい話をしている場合じゃない!! 出来るだけ早く来てくれ!!」
「は、はい!」
アマツは急いで支度をした。
「お、仕事か? だから言ったのによ~、ビールなんぞ飲むなって」
「良いからお前は早く出ていけ! 俺も外に出るし」
「お、おお......」
アマツに対して十郎は少し引いた。
アマツは戦闘用のスーツを着た。
「一体、どんな大物なんだ......?」
※ ※ ※
彼が現場に着くと、そこは紛争でも起きたのかと思うくらいの激戦となっていた。
周りの建物はどれも全壊されていた。
周りには血まみれで倒れている戦士が複数人いて、そして、この戦士達を倒したであろうエネミーがいた。
そのエネミーは芋虫の様で、二本の腕が生えている。
その腕は、血で塗られている。
「な、なんなんだこれは......」
予想以上の惨状に、アマツは少し固まった。
「おい、アマツ!」
誰かが彼を呼んだ。
アリアスだ。
「アリアス! どうなってるんだ!?」
「見ての通りだ! 何人かはもう戦闘不能だ!!」
アリアスは焦った様子で言った。
すると、エネミーの腕がアマツ達に突っ込んでいった。
「避けろ!」
二人はその攻撃を避けた。
「インシネレーション!」
すかさずアリアスが光線を放った。
その光線はエネミーに命中したが、怯む様子はなかった。
「な、なんでだ......なぜ効かない......?」
するとその直後、エネミーはさっきの攻撃を返すように、口からビームを出した。
その対象であるアリアスはかわしたが、左手の一部が触れてしまい、溶けてしまった。
「!?」
そして光線が当たったコンクリートの地面も、ドロドロに溶けた。
「う、うりゃあああ!!」
ほかの戦士が自棄になって突撃してきた。
「おい、やめろ!」
その戦士にエネミーの拳が降ってきた。
その拳が当たった戦士は地面に体を強く打って、そのまま動かなくなってしまった。
「え? し、死んだ......?」
アマツは言った。
「ああ、恐らくな......」
アリアスは少し怯えた様子で言った。
アマツも今の出来事を恐ろしく思った。
が、そこまでではなかった。
(これも、エネミーの死をみてきたからなのかな......)
アマツがそう思っていると、エネミーがアマツ達の方に振り向いてきた。
「く、私たちじゃ勝ち目が......」
その時、エネミーはいきなり地面に叩きつけられた。
地面に亀裂が入るほどに。
「!?」
二人は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
が、それはエネミーの上にある黒いジャージを見たことによって理解できた。
「お! 大丈夫だったか?」
彼女は右手を挙げて、ニコッとしていった。
「サ、サラさん!!」
「これが例のエネミーか? ならさっさとやっつけないとな」
サラはそういって指を鳴らした。
「あ、あれがサラ......?」
「は、初めて見た......?」
周りの戦士はサラを見て動揺した。
と、エネミーが起き上がった。
すぐにサラはエネミーの体から降りた。
「ディフェンサーズの役員は、おそらく、こいつが"幼虫"から"成虫"になるのを恐れたからだろうね」
「幼虫から成虫?」
「うん、こういう虫のエネミーはいきなり成長するときもある。今はまだ幼虫だろう、だが早く討伐しないと、成虫になって、より強力になるかもしれない」
サラはエネミーのほうに向いた。
「さて、倒させてもらうよ......!」
サラがエネミーのほうに歩いたかと思えば、いきなり高速で走り出した。
そしてサラは、エネミーの頭部めがけて蹴り、その蹴りは命中した。
エネミーは体をうねらせる。
どうやら効いたようだった。
すると、エネミーがサラにめがけてパンチをした。
それをサラが避けると、今度は彼女が連続パンチを浴びせた。
エネミーはのけぞり、建物の瓦礫に突っ込んだ。
サラは容赦することなくエネミーに蹴りやパンチを入れた。
そのエネミーは、もはや巨大なサンドバックと化している。
「な、なんであんなに強いんだ......?」
さっきまでほかの戦士を蹂躙していた怪物が、今度は蹂躙される側に回っている。
この光景にアマツは、『上には上がいる』ということを感じざるを得なかった。
「さあ、とどめだ......」
サラは最後の一撃を入れようとした。
みんなこれで決まると思っていた。
......が、違った。
起こってしまったのだ。
役員が恐れていた事が、起きてしまったのだ......。