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第百八話 蟻の巣作戦 その3

 室内で雨が降り注ぐ。

 観客から一変、『参加者』となったエネミー達は、その場から世の中の終わりのように逃げ惑う。


 「ウワーッ!!」


 エネミーの悲鳴と、それを切り刻む音が混じっている。

 皆、分厚い扉の方へ手を伸ばしに行くが、大抵はそのハンドルに触れることすらできず息絶える。


 「ハハハハハハハハハハ!! いい気味だ! さっきまで威勢よく私たちを見下していた奴らが、窮地に立たされた途端この様だ!」


 それを見物して半狂ったように笑うアイラ。

 今の今までアイラ達にでかい態度で誹謗罵声を浴びせてきたエネミー達が、立場が逆転した途端に悲鳴や命乞いを上げている。

 この無様な姿を見るのが、アイラにとってはたまらないのだ。


 「ん!?」


 左横から何かがうねるようにして飛んでくるのを感じ、顔を横に向け、体を逸らすようにして避ける。

 それは彼女の左頬をかすった後、ぐにゃっと波状に曲がる。

 革のムチだ。

 親指でかすったところを触ると、血が付着しているのが分かった。


 「......ああ、もう3分経ったのか」


 その出所は、さっきまで刃物で足を封じられ身動きがとれなくなっていた司会者エネミー。

 そのムチが届かない範囲にアイラはいたのだが、3分が経過したのか、止めていた刃物が消滅して、それが届く距離にまで詰められていた。


 「あなたはもしかして......いや、もしかしなくても、ディフェンサーズのアイラか」

 「大当たり」

 

 彼はムチが宙に浮いているうちにそれを一気に手前に引き寄せる。

 その向こうの席を見てみると、扉が開いている。

 恐らく、アイラが怯んでいた隙に、いつの間にか運よく生き残った下等エネミーの残党が、扉から外へと逃げ込んでいったのか。


 (ああ......まあいいや、あの二人が処理してくれるか)


 彼女はほかの二人に任せると決めると、このショーを仕切っていたエネミーと対峙することにする。


 「にしても悔やまれますね、あの時バッサリとあやめておけばこんなことには......」

 「そうだな、貴様が私のあの異常なほどの冷静さを見抜けなかったのがな、あの時は悟られたかと思ったよ」


 アイラはそのエネミーと話している間に、彼の背後にひっそりと一つのナイフを作る。

 不意打ち狙いだが、この一刺しで勝負を決めようとは思っていない。

 飽くまでも挨拶代わりにである。


 「いやしかし、さっき仕掛けたときのあの馬鹿どもの呆けた姿は見物だったな。相手を欺くというのは面白いと思わないか?」

 「外道ですね」

 「貴様もな、あの弱者の心を追い込むような演出はなかなか残酷だったな、私は違うけどなっ!」


 そういった途端に彼女は後ろに構えていたナイフを、エネミーの背中に向かわせた。

 だがエネミーは一切振り向く様子もなく、ムチを後ろにしならせる。

 ドンピシャでナイフを跳ね飛ばし、ナイフは肉塊の一つに突き刺さる。

 まるでその行動を最初から分かっていたかのようにである。


 「わお」


 弾き飛ばすのはさすがに想定していなかったアイラは感嘆する。


 「そんな程度の欺きは通用しませんよ、私には後部にも目があるんですから」


 つまり彼に背後からの不意打ちは出来ないということになる。

 これは少々面倒くさいが、早めに相手の特徴を知れたのは良かったか。


 「ほう、それは厄介厄介......まあそんな事よりだ、貴様にいくつか質問したいんだが」

 「何です」

 「まず、貴様の名前はなんだ?」


 アイラは右手から小さいナイフを出すと、手遊びにそのナイフを回し始める。


 「『ウォルト』です。以後、お見知りおきを」

 「ウォルトか。じゃあもう一つ、貴様らはなんて組織なんだ?」

 「組織ですか......」


 そのエネミー、ウォルトはムチを両腕で引っ張りながら、こう一言。


 「『アービター』」

 「アービター......」

 「『裁断者』という意味です」

 「......なるほどな、名づけた理由が想像できる」


 するとアイラは突然、右手で回していたナイフを横投げで、わざとウォルトに当たらないようにして飛ばす。

 綺麗に一直線を描くナイフはウォルトの顔の横ギリギリを通り過ぎ、後ろの壁に綺麗に入ったところで止まった。

 ウォルトはそこから一切動いていない。


 「じゃあもっと聞くぞ。そのアービターのトップは誰だ? 拠点はどこにある? 組織の規模は?」

 「それはすべて口にはできません」

 「あっそ」


 すべての質問を拒否されたアイラは、さっき向こうに飛ばしたナイフを、念力のように何も触らず引っこ抜くと、すぐさま刃先の方向を転換させて再びウォルトへ。

 だが案の定、ウォルトは後ろを振り向かずムチでナイフを弾いた。


 「舐めた真似はしてほしくないですね」

 「なあに、偶然じゃないかどうかの確認だよ。......さて、そろそろ本気で手合せと行こうじゃないか。腐敗した臭いを嗅ぐのは勘弁だからな」


 アイラは一気に戦闘モードへと頭を切り替える。

 頭の中でイメージを浮かべると、たちまち周囲にありとあらゆる武器が現れる。

 その矛先は、すべてウォルトに向けられている。


 「殺るぞ」


 アイラはウォルトに向かってバッと右手を勢いよく出すと、すべての武器は彼に向かって動き始めた。

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