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第百七話 蟻の巣作戦 その2

 会場に晒し出されたアイラ達の前に現れたのは、様々な形状をした大量のエネミーである。

 舞台内には10体程が、今か今かと待ち構えている。

 その舞台の上、観客席にあたる場所にも、数える気も失せるほどのエネミーで埋まっている。

 どれもレベル3程の強さだと推測する。


 「今日の『ショー』のゲストはこの人間達です」


 そのショーの司会を勤めていると見られるエネミーは、タキシード姿をしている人型で、手には鞭を握っている。

 口はマスクを被っており、おおよそレベル5、6といったところ。

 アイラ以外の、縛られた人たちは、当然ながら酷く怯えている。


 (まあ、これはさすがにしゃあないか)


 アイラはそう思いながらも、奇襲を仕掛けるタイミングを伺う。


 「では、このゲストたちの今の気持ちを言ってもらいましょう」


 司会者はそういうと、一番右から言って回り始めた。

 ここで今の心境を言ってもらうという精神攻撃か。

 あるいは単なるショーの一環か。


 「まずはそこのあなた」


 司会者はその端にいた女性の前に立つ。


 「な......な......」

 「ん、聞こえないですね」

 「こ......怖い......」

 「そうですか。でもその恐怖心もつかの間、直ぐに楽になりますよ」


 女性が精一杯の声で今の気持ちを素直に答えたが、彼はさらっと恐ろしいことを言って返す。


 (うわぁ、なかなかすごいことをしよる)


 アイラもこれには苦笑してしまうが、この司会者には少しながら親近感を感じる。


 「では、次はあなた」


 あっという間に彼女へと出番が回った。

 とりあえず、今自分が思っていることを言えばいいかと、そのまま素直にあの質問に答えた。


 「んー、服装と口調の割には随分と趣味の悪いことをやるんだな」

 「ほう、なかなか威勢がいいじゃないですか......ほかの人間よりも遥かに肝が据わってる」


 彼は怪しむようにアイラを睨みつける。

 怖がっている雰囲気を一切出さなかったせいで、彼女がディフェンサーズだということが悟られたか。


 「......まあ、その威勢もいつまで続くか、ですね」


 だが彼はその場で首をはねるような行動はとらず、そのまま次の捕虜のもとへと歩いて行った。


 (どうにか、気づきはしなかったな)


 いざとなったらすぐに戦闘は出来るのだが、それでは面白くない。

 彼が油断してる時に、無防備な背後に刃を入れるような、そんな感覚を味わいたいのだ。


 司会者はすべての人にインタビューを言って回った。


 「では、そろそろショーの開始と行きましょうか」


 司会者は鞭を床に叩きつけると同時に、地面が揺れるような歓声がどっと沸き上がる。

 舞台の中にいる、アイラ達人間を食い荒らそうとしている、エネミーも同様にである。

 間もなく開演だ。


 「さあ、まだですよ、私がカウントダウンします」


 タキシード姿の司会者エネミーは宣言通りカウントダウンを始める。


 (これも恐怖心を煽るためか? まあそんなの私には関係ないけど)


 当然アイラにそんな負の感情は発生しておらず、駆除のタイミングを計っている。


 「10,9,......」


 司会者が数字を一つずつ言っていく。

 アイラはこの時に攻撃のタイミングを考え付いていた。


 (『1』の時だな)


 「3,2」


 司会者が数字を言っていくたびに、どんどんと観客席の声は大きくなっていく。

 それに合わせてアイラの拍数も上がっていく。

 当然、ほかの人たちとは違う意味で。


 「1」


 この数字が聞こえた途端に、彼女はにやりと笑う。

 そして頭の中でイメージさせる。

 どの場所に、どのような形状の鉄、つまり武器を発生させるか、瞬時に形成させる。

 場所は舞台内にいる全エネミーと司会者、武器は刀、斧、鉈など、いろいろな刃物、そしてそれを高速で落とす、と。

 それはすぐに現実のものとさせる。


 「ゼ――」


 司会者が0と言いかけた時、上空からは大量の物体が出現した。

 刀、斧、鉈など、いろいろな武器だ。

 その武器が見下ろす先は、司会者と、飛び掛かろうと身構えていたエネミー達。


 「刺殺」


 彼女が出した武器は、ひとりでに地面に向かって降り注いでくる。

 このことを予知していなかったエネミー達は、そのまま雨の餌食になる。

 静まり返った歓声の代わりに、グシャグシャ、ザクザクいう鈍い音のオンパレードが響き渡る。

 その量は明らかに死体蹴りになっているが、容赦はしない。


 「......」


 その音が止んでも、駆除済みのエネミーはもちろん、客席のエネミー達も、捕虜となっている人たちも固まったままである。

 一方の司会者は、二か所ほど刺さっており、そのうちの一本は脚を貫通させて地面に着地。

 3分間は動けないはずだ。


 「ク、クハハハハ......」


 アイラ自身でも下衆だと思うような笑いが込み上げてきた後、一本のナイフを発現させ、縛っている縄を切りほどく。


 「ああ、これだ、この見事に欺いた後にくる興奮と、高揚と、優越感と......」


 彼女はウィッグを取ると、その場に投げ捨てる。


 「......ん? どした? おいおい、まさかこの事態を想定していなかったとでも? 伏兵が紛れてるくらいの想定はしないといけないだろ」


 アイラがからかい調子そういってみるが、返事が一切来ない。

 よほど驚いたのか、ほとんどが口をぽかんと開けたまま呆けている。


 「......そんな驚いたか。まあいい、とりあえずこのショーは今から私が取り仕切ることにする。前の司会者は『クビ』で。まず今捕まっている奴らはたった今私の権限をもって開放する」


 アイラはそういうと、捕まっている人たちを縛っている縄をナイフで一斉にほどき、周りに鉄の盾で囲う。


 「それは3分間しか持たない。早く何とかして脱出するんだな。脱出経路は自分で見つけろ」


 アイラがこの場から去るように促すと、盾に守られた人らは一目散に門をくぐって逃げて行った。


 「......さてと、次にこのショーは今から観客参加型だ。おめでとう! そこの貴様らも見てるだけじゃないんだぞ!」


 アイラはさっきの余韻に浸りながら、テンション良く話す。


 「じゃあ、そうだな、このショーを見に来てくれた貴様ら全員には.......」


 彼女はそういうと、笑顔で彼らを迎え入れる。

 そしてまたイメージさせる、『鉄の雨』の構想図を。


 「もれなく地獄に墜ちてもらおうか。あ、拒否権はねえから」

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