第百四話 捜索 その2
「これ、か......?」
例の場所、あの地下シェルターの分厚い扉の前に、アマツら3人は黒い布を羽織りながら来ていた。
草原ばかりが茂っている丘の間にトンネルをあけ、それをレンガで補強されており、そこに取り付けられたような形となっている。
丘は案外緩やかで、遊び目的のために人工的に土盛りをしたかのような感じである。
「ええ、設計図通りなら」
アリアスはシェルターの設計図のコピーと実物を見比べ、これをそうだと断定。
「ほぇー、こんな所にシェルターがあるんですね。しかもあの向こうはいっちゃダメなとこ.....」
琳はいつの間にかその丘の上に登っている。
そして向こうを指差す。
「おいおい、少しは緊張感持てって」
「はーい」
アマツが彼女の行動を咎めると、彼女は丘を素直に降りてくる。
その後、アマツを先頭にしてその穴の中に入り、彼は扉のハンドルを握る。
(この中に何がいるのか......)
彼は緊張を感じながらも、後ろにいる二人を見る。
彼女らはアマツに任せたっといった感じで揃えて首を縦に振る。
「すぅ......」
一回深呼吸すると、アマツは腕にぐっと力を入れ、鉄のハンドルを左に回転させる。
ギギギという誰もが聞いたことのある不快音が拡散しつつも、順調に回っていく。
2,3回転程させた頃、「ガチャッ」という音がし、開いたと確信。
「よし」
すぐにハンドルを持った腕を手前に引き、ドアを開ける。
開けた直後、その向こうの空間から柔らかく、涼しい風が吹き込む。
「おお」
そこには地下シェルターへと続く階段が見えた。
四方はコンクリートで覆われており、今の時代では使われている場所は少ない蛍光灯が天井に設けられている。
風が吹く音は、人がいないかの如く寂れている。
設計図だは感じとれなかった迫力に一同は感嘆し、アマツは冒険心を掻き立てられる。
「さて、任務開始だな、琳、メモは頼む」
「はいはいー」
3人はシェルターに足を踏み入れると、そのまま捜索を始める。
下へ降りていくたびに太陽の温かい光は遠ざかっていきく。
その太陽の代わりに頼みの綱となっている蛍光灯は薄暗く、ホラーゲームの画面に入ったような感覚だ。
「なんか、気味悪いわね......」
「ああ、そうだな......」
アマツもアリアスも、この環境を気味悪く思っている。
今からでも、正面、あるいは壁を突き破ってエネミーが現れてきそうな気がしてならず、アマツは常時身構え、軽快しながら進む。
「ザラザラ~」
だがそんな中、その緊張を立とうとしている少女が、一人。
やはり琳だ、彼女はコンクリートの壁を、手を伸ばして擦りながら降りている。
「いや琳、もう少し警戒心持ったた方が......」
「大丈夫ですよ、私にはこの短剣がありますから!」
琳は背中に携えてある剣を指して楽天的に言うと、壁を擦った手を見て、「うわっ白い」と驚く。
彼女だけ、遠足に行くような感覚なのか。
いくら戦闘慣れしていても、個人差はあったとしても、この緊張感と恐怖心は絶対に慣れることはない。
......はずなのだが、琳はそれが明らかに欠如していた。
(大丈夫かなぁ......?)
一番先に死ぬとしたら、絶対に琳だと心の中で断言するアマツ。
その後、暫くアリアスに設計図を見てもらい、怪しそうな場所を探してみたが、特にそういったものは無かった。
人の気配もせず、ただこの空間の無機質さと妙に涼しいのが不気味に思えるだけである。
そのせいでもう一つ、浅田林太のしどろもどろとした話し方から、ハメられてるのではという不安が浮く。
「ああ、全然いないなぁ......どうなってるんだ。やっぱ俺たち騙されてるのか?」
アマツはそのことをどうしても言いたくて、さりげなく言う。
「そんなこと言わないでよ......ほら、まだもう一つ有力な場所があるし」
アリアスは設計図をアマツの前にだし、その場所を指さす。
それは一番地下に位置し、このシェルターで一番大きな空間であった。
「それで何もなかったら?」
「まだ調べていない箇所があるから、そこも調べるけど......それでもなかったら引き上げるしかないわよね」
「よし、じゃあそこにレッツゴー!」
このシリアスな雰囲気の中、一人だけテンションが突き抜けた琳は拳を高々と上げる。
※ ※ ※
一行は今、そのシェルターの一室の、ドアの前に着いた。
「ここか、一番大きい部屋っていうのは」
「ええ」
ドアは地上の入り口と同じ分厚いドアと、どの部屋もそうなのだが、かなり厳重である。
今のところは変化がないが、組織の生活音もこのドアに遮断されているのだろうと考え、緊張と期待の鼓動が高鳴っていく。
「さあ、当たりかハズレか......!」
アマツはハンドルを力図よく回転させると、入り口と同じような音を立てて、ロックが解除される。
それを少し開けた途端、お祭り騒ぎのようなけたたましい声がドアから飛び出してきた。
「え......!?」
これほど大きな音は流石に予想しておらず、ビクッと体が跳ねる。
しかも、その中には人間の悲鳴が混じっているようにも思える。
「どうなってるんだ、これ明らかに人間の声じゃ......まさか」
「とりあえず開けてみて」
アマツは嫌な予感をしつつ、アリアスに促されてそのドアをゆっくりと開けてみる。
「は......?」
その巨大な声の群集の正体は、あまりにも衝撃的な光景だった。




