第百三話 捜索 その1
「......なあ、俺らって何の話をされるんだ」
ディフェンサーズ本部、他と変わらず金属類で固められた小さめの会議室に座らされたアマツ、アリアス、琳の3人。
暫く静寂が続いていたが、アマツがそれを破り、口を開く。
「分かるわけないじゃんそんなの。私も琳も、特に内容を知らされずに来させられたんだもん」
アリアスっは椅子にもたれて首を上にあげる。
どうやらアマツ含めて三人とも、『大事な作戦を遂行してほしい』としか伝えられていないようだ。
どれだけ大事なのか分からないが、それを聞いているアマツは少々緊張している。
「......てあれ、琳」
2人が話し出してもなんか微妙に静かだと思っていたら、さっきからアリアス越しにいる琳の声を全く聞いていない。
アマツが身体を曲げて琳を見ると、琳が机に突っ伏している。
そして、僅かに寝息が聞こえる。
「......ああ、寝てるわね」
「リラックスしすぎだろ!」
琳の能天気さに驚かされる。
すると彼らの前の自動スライドドアが開く。
アマツは待っていた音を聞きつけ、顔を前に向ける。
「ほら、琳起きて」
アリアスが琳を起こそうと肩を数回たたく。
「んぁ......?」
琳は目が半開きの顔を上げる。
スライドドアから現れたのは、スーツ姿の、メガネを掛けた若めの男性。
今回の話に必要だと思われる紙や、なにやら黒い布を持っている。
「ど、どうも、浅田林太です。来てくれて光栄です、アマツさん、アリアスさん、れ......琳さん」
林太は軽く礼すると、資料を3人に手渡しでせわしなさそうに配っていく。
(なんか頼りなさそーな人......)
アマツはそう思いながら配られた資料に目をやる。
そこに書かれていた見出しは、『23区地下シェルター捜索について』と書かれていた。
「では、説明をします。えー、23区において、私達が生息可能な地域と、汚染地域との境界付近に、地下シェルターが存在します。そこは境界付近なだけに、人はほぼ通りません。一応汚染はされていませんが。そして、......あーいや、その前に......」
こういう説明には慣れてないのか、緊張してか話の進め方が雑だ。
これはアマツも苦笑いせざるを得ない。
琳なんか、「あ、あはは......」とかなり頑張った愛想笑いを浮かべている。
「す、すみません、えー、23区や22区、9区等の周辺地域で、最近人さらいが起きているのは、ご存知ですよね?」
「ああ、そうだが......」
「その人さらいを行っている組織がそのシェルターを拠点にしているという情報を掴んだのです」
林太は原稿と思われる用紙を棒読みしている。
彼の説明はお世辞にも良いとは言えないが、この後の流れは予想できる。
「おーつまり、私たちが22区のシェルターを調べ、その組織の実態に迫る、的な感じですね!」
「はい、そういうことです!」
琳の先読みに林太は安心した様子で数回頷く。
「えーとですね、その偵察の仕方なんですが......」
「ちょっといいかしら」
林太が今から作戦を彼らに授けようとしたところにに水を差したのが、アリアス。
彼女は神妙な面持ちで機械化された手を上げる。
「は、はい......」
「どうやってそれを突き止めたの?」
「え? いや、それは目撃者がいたんですよ......」
「へぇ、あんたさっき、『人はほぼ通りません』っていったよね?」
「え......?」
林太はアリアスの指摘に明らかに動揺している。
確かに、さっき人気がない場所なのに目撃者がいたのは不自然だ、アマツもその指摘に納得する。
彼女は訝しげな表情でさらに責め立てる。
「そこに行く人って、随分と暇を持て余していたようね」
「いや、目撃者って戦士ですよ?」
「その戦士がそこに行く用があったの?」
「いや......その......人さらいの現場を見た戦士がその後を追ってったんですよ......」
「......」
林太は必死に説明するも、アリアスはまだ信じる様子はなく、彼を睨みつける。
「まあ、アリアス、ここで疑っても仕方がないですよ。あの人が嘘ついている証拠はないんですし」
この緊迫した状況が耐えられなかったのか、彼女の追及を琳が止めに入る。
「......そうね」
彼女は渋々それを受け入れると、前に乗り出すようにしていた上半身を引く。
だがアマツは......恐らくアリアスや琳もだろうが、林太の腹の内を怪しんでいる。
口ごもるような話し方がその興味を更に引き立たせる。
(その組織と繋がっていたりして......まさか)
アマツはそう考えておきながら無いだろうとかき消そうとするが、本当にそんな気がして不安になる。
実際、林太が組織と情報を交わしているといった事は無いのだが......。
「え、えー、で、その潜入の方法ですが......」
と、林太はテーブルの上に、今まで腕に掛けていた黒い布を置く。
「フード......?」
「はい、彼らの特長は、顔を隠すためか、このような黒いフードを来着ています。なので、クローバーの残党という説を唱える人もいますが......取り敢えず、お取りください」
林太が噴き出た汗をハンカチで拭っている間にアマツ達がそのフードを手に取る。
安物なのか、触り心地は良いとは言えない。
試しにそれを羽織ってみる。
「うーん......」
「質が悪いもので、すみません」
通気性が悪く、ずっと被っていたらすぐに蒸し暑くなりそうだが、だからと言って動きが鈍るようなことはないだろう。
運動能力に支障が出るのならまだしも、この程度のものなら仕方ないかと割り切る。
「で、そのフードを着て、まあ、そのシェルターに侵入してもらいます」
「入口ってどこ?」
「はい、設計図によりますと、この丘に入り口があります」
そういって林太はその巨大シェルターの設計図をだし、アマツ達に見せる。
「うわ、広いですね」
琳が身を乗り出しながら興味を持ってみる。
断面図を見ると、万単位の人たちも入りそうな広大な設計が書かれている。
林太はその扉の絵を指さす。
「で、これがその扉」
真ん中にハンドルが設けられている扉は分厚い金属で覆われていて、開けるのに苦労しそうだ。
「その扉を開けて、後はあなた達で頑張ってください。取りあえず説明はこれだけです」
「えっなんか雑くないですか!?」
「すみません、中の情報はありませんので......」
林太は謝りの態度として礼をする。
仕方ないとはいえ、これだけでスパイを行えっていうのは中々厳しい課題である。
そして林太が実行の日時を言った後、
「あ、後、自らが身の危険に晒されたとき等以外は、なるべく戦闘は避けてください。あくまでも潜入捜査なので。で、では、これで以上です。頑張ってください!」
と深くお辞儀をした。
(はぁ、人さらいするって、一体どんな組織なのか......)
アマツはその誘拐する組織の力を想像してみる。
しかし、それはアマツの想定しているものより遥かに強大で、そして危険なものだった。




