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五話 認められるって嬉しいんだ

 一聖くんの姿を見た私は、急いで涙を袖で拭う。泣いてる顔を見られるのは、恥ずかしいしイヤだからだ。


「菊地さんも買い物? まさかクラスメートに会うと思わなかったよ」


 私の前に立ち、笑顔を放つ一聖くん。そんな姿に私は、すさんでいた心が少し軽くなる。偶然だろうけど、私はまた一聖くんに助けられたのだから。



「自分の買い物はしたんだけど、妹に頼まれてる奴をこれから買いに行くとこなんだ。もし菊地さんさえ良かったら、付き合ってもらえないかな? ちょっと男一人で入るのには勇気がいるんだよね……あはは」


 照笑いする一聖くんが可愛くて、思わず見とれてしまう。でも私は重大な一言に気が付いた。



 ――あれ、今買い物に付き合ってもらえないかなって言われたような……。え? 私と?



「……わ、私なんかで……いいの?」


 ドギマギしながら小さく零す。こんなことは滅多にないチャンス。だけど私と一緒でイヤじゃないのかなって思う気持ちもある。


 しかし一聖くんは、そんな私の心配を全然気にしない様子だった。


「もちろん! 一緒に来てもらえたら心強いよ!」



 そんな笑顔で言われたら、断れる人なんかこの地上にはいませんよ。神様ありがとう、やっぱりあなたはいたんですね。信じないなんて言ってごめんなさい。


「……は、はいぃ」


 顔を赤く染め上げながら、私は一言了承したのだった。






 一聖くんと並んで、街中を歩くという異常な事態。それだけでも心臓が破裂しそうで、真っ赤な顔を隠すかのように、私は終始下を向きながらテトテト歩いていた。


 だけど、なんだかクスクスと笑う声が聞こえるので、少しだけ顔を上げてみる。


 通りすぎる街の人達が、私達――いや私を見て笑っている気がする。

 明らかに苦笑を零す人、小さく耳打ちするカップル、何もしてない人でさえ白い目で見られているようにさえ錯覚する。


 それもそのはずだと私は思った。私と一聖くんでは、釣り合うはずがないのだから。


 そう思うと、段々と足取りが重くなっていった。

 最初は隣に位置していたけど、徐々に後ろに下がっていき、今では少し距離を空けて一聖くんの後ろを付いている形になっている。


 まるで、一聖くんと私は赤の他人だと装うかのように。



 そんな時、私のすぐ横で小学生くらいの男の子が転んでしまったようだ。

 膝を怪我したようで、隣にいる母親らしき女性がハンカチを押し当てている。


 私は咄嗟に駆け寄り、リュックを降ろして中身をあさる。


「……少し、しみるよ」


 そう一言男の子に言い放ち、自分のハンカチに消毒液を染み込ませては、その子の膝に当てた。


 ビクッと少し痛そうな表情をしたものの、さすがは男の子か、我慢したみたい。



 それから私は絆創膏を取り出し、怪我をしている所に張ってあげた。


「ありがとうございます」


 その子の母親が丁寧に頭を下げてきたものだから、ちょっぴり恥ずかしかった。

 すると男の子も私を正面に捉えては、頭は下げないものの、お礼を言ってきた。


「ありがとう、地味なお姉ちゃん」


 そう言い放っては、男の子は母親と手を繋いでその場を後にしていった。



 ――可愛いから許すけど、地味は余計だよね。


 私はこめかみに若干筋を浮かべながらも、引きつる笑顔で固まっていた。



「優しいよね、菊地さんって!」


 その声でハッと我に返った私は、横へと顔を向けるとニコニコ笑っている一聖くんと目が合ってしまった。


 速攻で顔を背け、リュックを背負いながら立ち上がる。顔を直視されるのは恥ずかしい事この上ない。


「……そ、そんなことないよ」


 優しいなんてこと言われたのは初めてで、しかも一聖くんに言ってもらえたのが凄く嬉しかった。だけど恥ずかしがる私が顔を出してきて、つい否定の言葉を言ってしまう。


 素直にありがとうって言えればいいのだけれど、恥ずかしさの方が勝ってしまうようだ。



「そうかなぁ? 教室のベランダに飾ってある花、いつも水をあげているの菊地さんだよね。他の人は気が付かないゴミも、菊地さんは拾って捨ててるし、誰かに何かを頼まれたらイヤな顔一つせずに受けてたりもするよね。だから菊地さんは優しい人なんだなぁ~って、僕は思うよ」


 私はその言葉に目を丸くしてしまった。そんなことまで知っていたのかと。


 いや、それよりも一聖くんが、そんな細かい所まで私を”見てくれていた”ことに驚きを隠せなかった。



 誰からもまともに相手にされず、空気のような存在の私。からかれたり、ちょっかい出されたり、パシリにされる以外は、私なんて視界に映ってすらいないのだろうと思っていた。


 だけど一聖くんは違った。私を見てくれてる。

 それは、私の存在を認められたようで、凄く嬉しい事だった。



 ――そっか……。私は、認められたかったんだ。



 凄く嬉しいけど、恥ずかしい私は下を向いてしまう。だけど、ちゃんと私を見てくれていた一聖くんには、きちんとお礼を言わなければいけないと思う。



 だから私は、精一杯の勇気を出して、一言だけ呟くように零した。



「……あ、ありがとう」

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