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Rabbit in the moon  作者: 春日向楓
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地球に落ちたアース姫

一方地球では……

隕石落下を目撃されるが、落下地点が特定されず、ちょっとした騒ぎに……


日曜日の昼少し前、テレビを見ていた京太郎が、キッチンで昼食の準備をしている春海に声をかける。


「春ちゃーん。隕石だって」


「ふーん……そう言えば一昨日だったかしらね〜 裏の竹林辺りで何か光ってたのが見えたのよねー」


「えーでも、落下したらしい地点は、もっと東の方らしいよ!」


「そうなの?でも、気になるし……そろそろ筍取りに行こうかと思ってたから、ついでに見て来ようかしら」


「そんなに言うなら……昼飯食べたら行って見ようか?」


松原京太郎、春海夫婦。

2人共40代前半、2人の間には子供は居なかったが、仲が良く、近所では評判のおしどり夫婦だ。




スヤスヤと眠っている様に瞼を閉じ

静かに大地の音を聞き

アース姫はそこに……

水、空、太陽、草や空気……

虫、魚、動物そして人間。

アース姫は、この星の全ての知識を吸収した。

そして、兎人の代わりを呼び寄せた。




「春ちゃ〜ん! 隕石なんて無さそうだよ」


「みたいね! やっぱり何か違う物だったのね」

諦めて春海は、食べ頃の筍を探し始めた。


「この辺りが良いわね。京ちゃーん!これ……?……」


「どれどれ?」


春海の選んだ筍を採ろうと、京太郎はシャベルを構えると、筍の根元に狙いを定める……


「京太郎!」

春海は声を落とし、しかし、強目にもう一度京太郎を呼び、腕を引っ張った。その為、シャベルは全然違う地面を刺した。


「何⁈ 春ちゃん!」

筍採りに集中していた京太郎は、周りを見ておらず、突然腕を引かれて驚いた。


「しっ!」

構わず春海は、人差し指を唇の前に立て、ある場所を指差した。

指を指す先を見ると、竹林の奥の太い竹の根元が何やら輝いていた。


「…………?」


京太郎にはその物体が良く分からず、もう一度目を凝らして見てみた。

「…………‼︎」


2人はゆっくり近付いた。

「赤ちゃん?」


「可愛い〜い‼︎」

春海はそっと手を伸ばし、赤ん坊を抱き上げた。

夫婦は、幸せそうに赤ん坊をあやした。


「この子、育てたいわね」

「だねー」


「この子育てましょう」

「だねー」


夫婦は赤ん坊を抱えて、帰って行った。



三日月と新月は1足遅れて、アース姫を見送った。


「仕方無いですねー……地球見物でも行きますか?」


「えー!三日月様不味いですよ」


「焦った所でまだ役には立ちませんよ!姫が決めた事です。暫く、見守りましょう」


「役に立た無いなんて……何て事を」


新月は、三日月の言動が王様に聞こえやしないかと、ここの所毎日冷や冷やさせられどうしで……なのに何故この人は、こうも優雅に悪態をつくのだろうと、感心するしか無かった。




夫婦はアース姫を『姫』と名付け大事に育てた。

そして……1年が過ぎた。

アース姫はスクスクと育ち、3歳児程に成長していた。


「春ちゃん!子供の成長とはこんなに早いもんなのかね?」


「いや〜 お姉さん所の男の子は、もうちょっと時間がかかってた様な……」


「ふ〜ん……女の子は成長が早いって言うしな!」


京太郎は嬉しそうに笑いながら、娘の成長に目を細める父親の顔をしていた。

「そうだ……そろそろ幼稚園に入れるんじゃないか?」


「そう……ね……」


(幼稚園⁈……ガキのお守りなんざまっぴらだぞ!)

姫はむずかって泣いた。




「三日月様!良いんですか?そろそろ姫様探さないと!」


「んっ……んーそうですね〜」

三日月は、お土産のお饅頭を頬張りながら、面倒そうに返事をした。


「何で1年も放っておくんですか?姫様に何かあったらどうするんですか‼︎三日月様は地球に、観光に来たかっただけなんじゃないですか‼︎」


「そんなに怒るな新月! ただでさえ困った顔なんだから……元に戻らなくなるぞ!」


「茶化さないで下さい‼︎ だいたい三日月様は、何故姫様を地球に送ったのですか? 正確には放り投げたんですけど……」


「案ずるな新月! 姫は心配無い。

地球には、ファントムには無い空気と言う物があってね、それが姫の力を解放してくれる様なのですよ。理由はまだ説明出来る程、分かってはいないのですが……落ち着いたらもう少し、追求して研究しようと思っています」


「三日月様は姫様をどうしようと……?」


「わたしの研究によると、アース姫は数百年に1度、我が国に生まれ落ちると言う、伝説のブレイバーなのです」

「ブレイバー?」


「聞いた事は無いですか? 新月さん、勉強不足ですね!」


「すみません……」


「仕方無いですね〜。ブレイバーとは……」


三日月は『コホン!』と咳払いをした。

新月は三日月の顔を見ながら、真剣に聞く体制を整えた。

「ブレイバーとは! 最強の……何かです!」


「何?……か。知らないんですか?」

新月は拍子抜けした。


「仕方無いじゃないですか。ファントムの住人が地球に降り立つ事を嫌った、過去の皇族達や側近達が、その解放の仕方を何処にも記さなかったのですから。その為歴代のブレイバー達は、解放の仕方が分からず、その役目を果たす事無く、伝説のままで終わっていたのです。

ま、平和ボケしているファントムには必要性も無かったのかもしれませんが……」


「そんなんで解放して良いのでしょうか?」


「わたしは見てみたいのですよ! 本物のブレイバーを、数百年のこの時に、生を受けた幸運に……感謝です!」


「三日月様?………それは、姫様納得の事なのでしょうか⁈」


「一応承諾は頂きました……地球に投げられるとは……思っていなかったでしょうけど……」


「三日月様……」


「今回は、絶好のチャンスです!姫様が無事に解放すれば、アメーバなど一網打尽!」


「三日月様は、何故地球が解放の鍵だと分かったのですか?」


「それは……企業秘密ですよ。新月君!

では! 君を納得させる為にも、1度姫様に会っておきますか?」


そう言って三日月は重い腰を上げた。

夜だと言うのにサングラスをかけ、帽子を被り、コートの襟を立て、三日月達は夜道を歩いた。

真夜中0時を過ぎた頃、松原京太郎、春海、姫と表札の有る門の前に立つ。


「ここに……姫様が?……」


門を開き、三日月は玄関のドアノブに手を置く、中から『カチッ!』と音がする。

迷い無く三日月は家の中へと滑り込む、新月は慌てて三日月の後に続いた。

真っ暗い廊下を進み、階段を上がる。

3つの扉が並ぶ、三日月自身も初めて来た筈なのに、まるで当たり前の様に1番左の扉を開けた。

中には、ベビーベッドに寝かされている、3.4歳児位の女の子が寝息を立てていた。


三日月は思わず『プッ‼︎』と吹き出した。


(姫様……何と!……成長早過ぎですよ。この星の常識を勉強しないと…)

三日月は声に出さずに、アース姫に話掛けた。


(無理も有りませんよ三日月様。ファントムでは1年で成人しますから、ファントムの成人年齢は15歳ですが……成長の加減が難しかったのでしょう)


「三日月! 殺す‼︎」


(しっ! 声に出してはいけません。家の者に気付かれてしまいます)


(三日月‼︎よくもわたしを地球に放り投げたな‼︎)


(とんでも御座いません! あの時は本当に手が滑って、わたくしの不注意です。姫様には大変申し訳無い事を……)

三日月は目頭をハンカチで押さえた。


(しおらしい事を!)


(姫様……何か感じが随分とお代わりに……)


( 新月! 久しぶり)


(はい! 姫様!)



(それで……地球人には不審がられてはいないのですか?)


(大丈夫!)


(姫様が、地球人に連れて行かれてしまった時は……本当に焦りました)


(それも計算のうちですよ!新月君)


(そうだったのですか⁈)


(解放には、まだ時間がかかる様なのですよ。今少しの辛抱を……今日は帰ります。では、また姫様……バーブー!)

三日月はアース姫に向い、無表情に手を振った。


(三日月様……お子様をあやす時はもっと笑顔ですよ……)


(ぶっ殺す‼︎)


三日月はゆっくり一礼をし、

(これからは、いつでもこうして交信出来ますから……新月君!行きますよ)


(はい……姫様また……!)




その頃ファントム国では……


「三日月からの報告はまだか‼︎」


「は!トゥルース王!前回の『バッチリ』以降は……まだ……」


「何をしておるんだ三日月は!……姫は大丈夫なのだろうな⁈」


「はぁ……多分……」


「多分とは何事か‼︎」

トゥルース王の雷に、小望月は思わず頭を両手で隠した。




「全く三日月様のせいで、王様の矛先が全てこちらに飛んで来る……まるでサンドバッグ状態ですよ!」


「大変だな小望月」


「わたしなどまだ良い方ですよ。気の毒なのは、新月です。あの子も振り回され通しで……今頃、地球で何してる事やら……

王様は何故あの様な自由奔放な方を、頼りになさるのか?」


「満月様とは正反対なタイプですからね〜」

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