幻の国ファントム
地球から約38万㎞離れた月。
この月のほんの一部分に、まだ誰にも知られてい無い、誰にも知る事の出来ない、幻の国ファントムがあった。
空、陸、海とが存在し、規模は小さいが地球とそっくりな自然豊かな国……ただ、空気は存在してい無い。
この国自体が発する不思議な力に寄って、花を咲かせ作物を育てる。
幻のヴェールに包まれ、この国以外の者には全く見る事すら出来ず、その為、発見される事も無い。
ファントム国を束ねているのは、ヒートヘイズ城のトルース王。
この国では、6つの種族が暮らしている。
まず人型と言って、地球人と変わらない姿形。
王家や位の高い者に多い。
次に軍隊。
空=鳥人、背中に翼を持ち自由に空を飛ぶ。
陸=獣人、顔は獣、力が強く戦闘に1番適している。
海=魚人、鱗と鰭を持ち、水中での動きは陸のそれとは比では無い。
この3種類の種族の3割程が軍隊として城に支え、いつか来るやもしれない異星からの侵略に備えている。が、だいたい見えないのだから、その日は遠い。
1割程が警察の様な仕事をし、国の安全維持に勤めている。
基本普段は二足歩行で、皆、陸で生活をしている。
そして、城の中で働く兎人と呼ばれる者。
姿は人型にもっとも近いが、真っ白い肌と赤い目が、兎の様に見える為、兎人と呼ばれている。
兎人には性別が無く、鳥人・獣人・魚人の間から稀に産まれて来る。産まれた子はすぐ城に預けられ、城で育てられる。
とても賢く、城の一切を任され国の研究にも携わって来た。
最後にアメーバ系の種族。
アメーバ系とは、普段はジメジメとした場所を棲家とし、分裂したり増殖したりを繰り返している。時々他人に化けては悪さをする輩が多く、他の種族からの嫌われ者。殆どの者は刑務所に収容され、幽閉されている。
この日、このアメーバ系が起こしたある問題に、ヒートヘイズ城に有る第1会議室に、国を司どる者達、トルース王とその側近、兎人の三日月、各種族の代表者、獣人剛拳、鳥人イーグル、魚人白鯨とその部下達が集結し、臨時会議を開いていた。
「アメーバがあのスタボンネスを脱走したと言うのは本当なのか?」
「はい!王様。アメーバ系の輩が6体スタボンネス刑務所を脱走した模様です」
「なんという事か、あれだけ最先端の技術を費やし脱走不可能と謳われた刑務所が……」
「人間に化け地球に逃亡の噂も……」
「なんと‼︎ それは厄介な……地球人に我々の存在が知られてしまったら一大事だ。なんとかせねば……」
「全力で阻止せねばなりません。トルース王!」
「しかし、地球に入られては私達獣人、魚人、鳥人には手は出せませんよ。私達が地球に降り立った瞬間、それこそ地球が大パニックになり兼ねない」
「それは確かだが……それではどうすれば……」
「しかし、以前に何度か、地球からの侵入があったのでは……その時はどうだったの?」
「我々の姿や国そのものを、異星人には見る事は出来無い。この地事態が他の生き物を拒んでいるからな!」
「それなら……そんなに案ずる事無いんじゃないの?」
「何を呑気な事をイーグル‼︎ 今回はアメーバが絡んでいるんだぞ! 今迄とは訳が違う」
「剛拳! そこでお前が熱り立ってても仕方無かろう」
「どうしたものか……」
トルース王は終わりの無い話し合いに、頭を抱えた。
「あの……わたくしめに1つ考えが……」
兎人の三日月が手を上げ口を挟んだ。
「何じゃ三日月!」
「わたくしが考えた、最強の武器を地球に送り込みます」
「それは……どんな物だ?」
三日月はにっこり微笑み
「企業秘密で御座います。熟すには些か時間が掛かりますゆえ……早速! 準備を……善は急げです」
そう言って三日月は、ゆっくり一礼して会議室を出て行った。
「おい! 三日月!……何なんだあいつは」
「まぁ良い! 三日月の事だ。何とかしてくれるやもしれん」
三日月は会議室を出ると、一月前に産まれたトルース王の一人娘、アース姫の部屋へと向かった。
ベビーシッターも兎人の仕事。
アース姫の部屋では、兎人の新月がアース姫の子守をしていた。
新月は突然開いた扉に驚き、大きな赤い目を見開いていた……が、すぐに、三日月を確認すると、
「三日月様⁈ どうなさいました?」
「新月! 時が来た様だ」
「時?……」
三日月は他の兎人とは明らさまに違っていた。
その瞳は青く、銀髪に一段と透ける白い肌……そして、その容姿は際立って美しい。
新月はうっとりと三日月を眺めていた。
三日月は新月からアース姫を預かると……
地球目掛け……アース姫を放り投げた‼︎
「三日月さまー‼︎ 何なさるのです……だっだっ誰かーーっ‼︎」
新月は叫びながら、人を呼びに扉に駆け寄る。
「新月‼︎」
三日月は低い声で、はっきりと名前を呼んだ。
新月は恐る恐る、三日月を振り返る。
「案ずるな……」
三日月はその美しい顔を冷酷に歪め、微笑んでいる。
声を聞き付け、城中の者がぞくぞくとアース姫の部屋へと集まって来た。
「ベビーシッターの新月が、手を滑らせて、アース姫様を地球へ落としてしまった様です」
「何と言う事を……」
「えっ⁈ えー……違います……そんな三日月様⁈」
「したがってわたくしめも、地球へ姫を探しに行って参ります! 丁度野暮用も御座いますし…よろしいですか? トルース王」
「ああ…頼む。王妃はまだ、産後の体調が良く無い。王妃に気付かれる前に……頼むぞ!」
「かしこまりました」
三日月はゆっくりと一礼をした。
「新月さん! 参りますよ」
「は……はい?……」
新月は諦めて、三日月に着いて行った。
ヒートヘイズ城、東棟一画。
兎人満月の特別研究室の扉前。
部下の小望月が扉をノックする。
「満月様!三日月様が地球へ参るそうです」
「三日月……」
アース姫は火を吹き、遥か地球へと落ちて行った。