67.道中の出会い 2
その冒険者のうちの一人は、表面上はにこやかにしているものの……なんだかサリエスさんに対してよくない分類の視線を向けているように思えた。なんというか、粘っこいものというか、多分、異性としての感情というか……。でもそれは恋とかそういうほどに綺麗なものには見えなかった。
「サリエスさん……あの人……」
「私に向けている視線?」
サリエスさんこっそりと話しかければ、そんなことを言われる。サリエスさんは視線の意味にきちんと気づいているようである。
「……本当に一緒に行って大丈夫?」
「心配しているの? 平気よ。それに良い経験だと行ったでしょう?」
サリエスさんはそう言って笑うけれど、俺は何だか心配になる。いや、サリエスさんは確かに旅慣れしていて、きっと美しい見た目をしているからこそそういう意味で狙われることも多かったのだろう。
平凡な顔立ちの俺からは想像が出来ないが、見た目が整っているというのはメリットも大きいが、デメリットもずっと多い。
例えば目の前でサリエスさんがそういう意味で襲われた時……、基本的に本人でどうにでも出来るだろうけれども俺自身がどうにか出来るようにはしておきたいとは思う。だって一緒にパーティーを組んでいるメンバーがそういう意味で襲われるなんてぞっとする。
それにサリエスさんのように目立つ人と一緒に旅をするのならば、俺自身ももっと気を引き締めなければならないなとはこの冒険者たちとの遭遇から思った。サリエスさんは俺が人質になったぐらいでは、大人しくならないとは思う。とはいえ、仮に俺が人質に取られてサリエスさんに不利に働くのは嫌だしなぁ。
そんなことを思いながら進んでいく。
同行している冒険者パーティーはやっぱり警戒対象である。それとなく、人気のない方へと俺達を移動させようとしているのが分かる。その時のサリエスさんの対応も素晴らしいものだった。違和感がないように断りの言葉を述べ、街道沿いを進ませている。
こういう風に人に対する対応術も俺が学ばなければならないものだよなとは思う。これから先、一人で旅をする可能性は十分に高い。そうなれば俺は全て一人で対応を進めなければならないのだ。だからこういう面でもサリエスさんからの学びは多い。
「君はサリエスさんと恋仲なのか?」
「いえ、違います」
「へぇ。もったいないなぁ。あれだけ綺麗な人と旅をしていて手を出していないなんて」
あと、俺に変な絡み方をしてくる男もいた。
綺麗だから手を出さないのはもったいない……。そういう考え方は正直言って俺はなんだかなと思う。
この冒険者パーティーの男性たちは、綺麗な女性だったら誰にでも手を出す感じなのだろうか? うーん、節操がない。俺が住んでいた日本でもそういう人たちは居ないわけではないけれど、この世界だとそういう人たちってそれなりにいる印象だ。
同行している冒険者パーティーは全員男性なので、今、この場にいる女性はサリエスさんだけだ。
……なんか、一人だけがサリエスさんに露骨な視線を向けているけれど、それ以外の男性たちもサリエスさんのことを狙っている節があるのかもしれない。
なんだろう、視線で分かりやすいタイプならばまだいいけれど……こういう隠しているけれど実はというタイプに関しては厄介だと思う。
サリエスさんは笑っているけれど、本当に大丈夫だろうかと俺は一人ハラハラしている。
サリエスさんにはそんな俺を悟られていて、「ヒューガ、落ち着きなさい。そんな風に態度に出ていたら悟られるわよ?」と言われてしまう。
こういう状況でもサリエスさんは余裕そうで、俺もそういう余裕が欲しいなと思う。エルフだからこそ、長生きしていて色んな修羅場を潜ってきたんだろうな。俺もそうやってもっと冒険者としての経験値を積むことができれば……どんな状況でも余裕を持てるようになるだろうか。
冒険者パーティーが同行しているからこそ、《土操手》の練習は出来ていない。というか、向こうの数の方が多いからな。こちらに対する目が多く、彼らに警戒されるような行動はおそらくしない方がいい。
そんなことを思いながらしばらく過ごしていると……、彼らは動き始めた。
時刻は夜。
場所は、それなりに人が通りがちな街道。
というか、そういう場所で何かを起こそうとしていること自体がなかなか肝が据わっているというか、考えなしというか……。
俺達の見た目が侮られやすいから、というのもあるだろうか? もっと俺が怖そうな見た目だったら別だったんだろうけれど……。
俺の事を拘束しようとしていたので、それは逃げた。一応警戒していたので、逃げることは出来たのだ。
サリエスさんの方はどうだろうか……?
ちゃんと逃げることなど出来ているか?
自分が逃げることが出来てほっとしているが、サリエスさんの方はどうなっている?
そう思っていると、戦闘音が聞こえてくる。
――そしてその音のした方を見ると、笑っているサリエスさんがいる。そしてその足元には男たちが転がっていた。