65.山間部の街 5
冬が開けるまでの間、俺とサリエスさんはその街で過ごした。
――その間、特に何かこれといったことがあったわけではない。俺もサリエスさんも相変わらず互いの事を聞いたりはしないので、ただただパーティーメンバーとして淡々と過ごしているだけである。
《土操手》で出来ることを増やそうとサリエスさんと一緒に特訓をしたり、魔法具作りに励んだり、魔物退治に向かったり――そういう冒険者としての日常を繰り広げるだけである。
サリエスさんと一緒に冒険者活動をしているからこそ、俺は冒険者として少しずつ経験値を積んでこれている。もしサリエスさんと出会えなかったら――俺はどうなっていただろうか。あのまま人を殺したことに落ち込み、しばらく立ち直れなかったかもしれない。
人と人との出会いというのは偶然の産物だ。この異世界にクラス全員でやってきたのも偶然で、今ここに来るのも偶然だ。特にこの世界は命が軽いから後悔がないように生きていきたいなと改めて思う。
そういう命の儚さについて考えてしまうのは、冬だからと亡くなる人を見たからだろう。その街で、人が亡くなった。時々会話をしていたようなそういうそこまでかかわりがない相手だったけれど、やはりつい先日まで生きていた人が亡くなるというのはまだまだ衝撃を感じてしまう。俺もこの世界でもっと長く生きて行けばそういうのにもっと慣れていくだろうか。
冬の間は、冒険者として活動をすることはあまりなかった。雪の中では魔物退治も中々上手くいかないものである。雪道を歩くのは動きにくいからなぁ。でも雪道に慣れるためにも時々はサリエスさんと一緒に歩き回ったりはした。冬の防寒具も手に入れることになった。それにしてもこういう防寒具はやっぱりかさばる。冒険者として行動している身としてみれば、やっぱり《アイテムボックス》を持っていて良かったと思った。
「サリエスさん、冒険者はあまり荷物を持たないもの?」
「そうね。でもある程度、時々は訪れる場所が分かっていればそこに荷物を置いたりはするわよ。私もいくつかの拠点はあるもの」
「そうなのか?」
「ええ。ヒューガももしどこかに拠点をつくるなら考えた方がいいわよ。放置していれば盗まれることもあるし、管理をどのようにするのかなどの問題もあるもの。私の場合、誰も来ないような場所においてたりするわよ。そういう冒険者もそれなりにいるわ。まぁ、冒険者なんて生きるか死ぬかの職業だし、一個の場所を拠点にするものも多いけれど。それに人間は寿命が短いから色んな所に行けるわけでもないもの」
俺は《渡り人》だから、人より寿命が長くなっているからそういう風に拠点をつくるのもアリなのかもしれない。でも最終的には一か所に留まって、モノづくりをすることが目標だから、そういう風に拠点をつくらなくても行けるのだろうか?
遠隔で情報を見たり、取り寄せするようなスキルなどはないらしいけれどそういうものをつくれるようになれる可能性はあるだろうか? 魔法具というのはあらゆる可能性に満ちている。だからこそそういうものをつくることが出来れば、使い勝手もよさそうだ。だけど需要がありすぎてややこしいことになりそうだから、作れたとしても販売は出来ないかもしれないけれど。
サリエスさんは俺が《渡り人》であることも知らないから、俺が百年も経たずに亡くなることを前提で喋っているのだろう。
いつかサリエスさんと離れた後に、《渡り人》の俺がサリエスさんと再会することがあれば驚かれることだろう。……というかサリエスさんは俺が寿命の短いから気まぐれに俺と冒険してくれていると思うと少し騙しているような気持ちになる。でもまぁ、サリエスさんも俺に秘密を明かすこともないし、お互い様といえばお互い様だろうか。
そういえば、雪も地面に落ちれば土認定されるらしい。地面に落ちるまでは操れないけれど、地面に落ちれば《土操手》のスキルで操れるのだ。もちろん、色々条件はあるけれどレベルを上げればもっといろんな使い勝手が良いものだと確信が持てた。異世界に来た当初はどんなふうにつかえるのだろうかと思っていたが、ユニークスキルとも長い付き合いになれば使い方も分かってきて楽しいものだった。
冬の間は冒険者としての活動が最低限しか出来ないので、一人で行動することも多かった。魔法具作成のために引きこもって行動したり、《土操手》のレベル上げをしたり、この世界で暮らしていくためのノウハウをもっと集めていったり、やることは沢山あった。
中々充実した冬ごもりだったと思う。
サリエスさんも何をしていたかは分からないけれど、冬ごもり生活を行えていたらしい。
そして冬があけていく。雪が解けていき、温かな春の訪れがやってくる。結局あの魔物の加工は上手くいかなかったけれど、もう少し魔法具作成のスキルを上げてから試してみようと思っている。
「じゃあ、行きましょうか。ヒューガ」
「ああ」
そして俺たちは、山間部の街を後にするのだった。