63.山間部の街 3
今日はサリエスさんと一緒に魔物退治に来ている。
山の少し上の方までサリエスさんと一緒だから向かうことが出来た。その中で何だか気持ちの悪い虫型の魔物を見つけた。何だか見た目が苦手だったので、すぐに手を出そうとしたのだが、サリエスさんに止められた。
「ヒューガ。駄目よ。あの魔物は手を出すと厄介だわ。倒せないことはないけれど、基本的にこちらから手を出さなければ手を出してくることはないから放っておきましょう」
「そんなに厄介なんですか?」
どうやら今見掛けたその魔物は、ゲームでいうノンアクティブな魔物らしい。何だか見た目が禍々しい黒で、足が数えきれないほどあって、こちらに襲い掛かってくるのではないか――とそう思ってしまった。
「あの魔物って、何だか攻撃したくなるでしょう。そういう特性を持っているのよ。それでいてとても硬いのよ。そのくせようやく倒せたと思ったら仲間を呼んで……攻撃力は高くないけど逃げるのが難しいし、何より倒せても倒した瞬間、素材としても使い物にならなくなることが多いの。運よく素材を持ち帰れても加工材料としては劣等というか……上手く加工できる人がいないと聞くわ。職人の中にはあの魔物の素材をいかに加工するか、どうやったら加工できるのかというのを人生の目標にしている人もいるみたいだけど」
「へぇ……」
「ヒューガ……何だか興味津々ね」
「俺もモノづくりは好きだから、そういう素材なら手に入れて加工出来ないか試してみたいなって……」
面倒な魔物だと言う事はサリエスさんの言葉から分かった。サリエスさんは俺に嘘をつくような人ではないから、俺のことを思ってくれて口にしてくれていたことは分かる。……それでも、好奇心が刺激される。
こうして好奇心が刺激され、意欲的に何かをしようとしているあたり、俺もこの異世界に慣れてきたのだと思う。
もちろん、自分の命の方が大事だから危険な真似はする気はない。こうやって口にはしているけれど、本気でサリエスさんに止められたらやめようとは思っているけれど。
「……一匹だけでも素材手に入れられるようにしてみる?」
「いいの?」
「ええ。この魔物は私達を疲弊はさせるけれど、殺せるほどの力はない。試行錯誤したらどうにか撤退も出来るだろうし。ヒューガはモノづくりが好きだから本当にそういうことを成すのではないかって思うもの」
サリエスさんはそう言いながら、俺の方を見る。
「――ヒューガは何だかんだ慎重だから長生きして、色々積み重ねて行って少しでも名を残しそうなそんな気もするわ」
「そうか?」
サリエスさんはそう言う予感がするなんていうけれど、俺はそんな風に名は残らないだろうなと思っている。そもそもそうやって目立ったら俺が自由に過ごしていくことが出来なくなるかもしれないから、好きなことをしながら過ごしていければいいて考えてしまう。
結局サリエスさんが許してくれたので、俺たちはその虫の魔物を退治することにした。前評判でサリエスさんから聞いていた通り、一匹に手を出したと思えばわらわらと仲間が寄ってきて大変だった。一匹でも気持ち悪いと思っていたから、沢山出てきてゾクリとしてしまった。しかも何匹も倒しても中々素材が使えるように手に入らなかった。
……なんだかこの魔物って一匹死ぬと仲間が死体を回収したりする所も多いみたい。巣にいったら色々回収できる可能性もあるけれど、この魔物の巣はどんな形状なのかも含めてまだ解明されていないらしい。
この世界は前世と違って情報伝達技術が発達していない部分もあるから、解明されていないことは特に多そうな気がする。サリエスさんがいうには、こういう生態が不明な魔物たちの生態を解き明かすために全力を尽くしているような集団もいるらしい。生態を解明するために何だって行うという思想らしく、非人道的な行動も起こしていたりするらしい。
……そして彼らは渡り人に関しても生態を解明しようとしているという恐ろしい事を知った。俺が異世界からやってきたと知られたら大変なことになりそうだ。
「……ふぅ。なんとか素材が手に入ったわね」
「ああ。……しかしサリエスさんがいっていたように本当に厄介な魔物だな。十数匹も倒したのに、手に入った素材が少なくて驚いた」
「《アイテムボックス》を作っていて良かったわね。これがあるのとないのとでは色々違うもの」
そう言いながらサリエスさんがにこやかに笑う。
そしてサリエスさんたちと一緒に街へと戻った。街の人たちにあの虫の魔物の素材を手に入れたといったら物好きだと言われた。この街の人たちも旨味の少ない魔物を好んで倒そうとする存在はいないらしい。
最寄りの街である此処があの魔物の生態を解明しようとしていないというのもあり、そういう生態が解明されていないのだろうと思った。
魔法具を扱っているお店はこの街にも何軒かあったため、そこの人に頼み込んで場所を借りて加工してみる。……当然のように失敗して使い物にならなくなった。