62.山間部の街 2
購入した何種類もの土を《土操手》で操っていく。土の強度を変え、土の色を変え――俺のユニークスキルはそういうことが可能だった。
目立たない、分かりにくい能力だけれどもこの力は使い勝手次第では色んな事が出来るだろう。俺のレベル自体が低くて、大きな変化は与えられない。それでも確かに驚く事に土が変化しているのだ。普通の魔法にはこういう力はないだろう。そもそも土に特化した魔法なんてあったとしても誰も使おうとしないのかもしれない。
この《土操手》は何処まで土を変化させられるのだろうか。どういうことが出来て、どういうことが出来ないのか。どうやったらこの土を操るユニークスキルを戦闘で役立てることが出来るのか。
俺はそのあたりを全て把握できているわけではないから。そのあたりを把握出来て、上手く活用出来たらこれから生きていくのが楽になるだろうから。
「ヒューガ、部屋にこもって何をしているの? 折角来たことのない街に来たのだから、街を見て回ったら?」
……結構俺は引きこもって、《土操手》について検証をしていたからサリエスさんに少し心配をかけてしまったらしい。俺もサリエスさんが引きこもっていたら心配するだろうから、その気持ちはわかる。
ずっと土を見続けて、《土操手》を行使し続けるのも疲れるものなので、俺は外に出ることにする。この街に辿り着いた時、街をぶらつきはしたけれど……、それでこの街のことが全て分かるわけでもない。
どうせなら『守り石』やこの街の歴史、そしてこの街でどういったものが作られているか、特産物が何かとかも知りたいかな。……色んな街を比べて、この街ではこういうものが有名だった、こういう街だったとか、そういうのの記録をもっと取ってみてもいいかもしれない。
容量は大きくなくても、《アイテムボックス》があるからそういうのをまとめたものも邪魔にはならないだろうし。
「このあたりではどんな魔物が見られるんですか?」
「このあたりでは――」
ちなみにギルドにも顔を出して、このあたりの魔物についての情報を集めた。今は、この街に辿り着いたばかりで俺とサリエスさんは結構ゆっくりしているけれど、ギルドの依頼も旅の資金のためには受けなければいけないから。
それにしてもやっぱり山にある街の周りにいる魔物は、平地の魔物とは違う。山の上で生きていくための器官が発達している物が多いらしい。それに山だと、冬になると雪が降り、相当寒くなるみたいで、寒い中でも生きていけるだけの身体を持っているのだ。
というか、今も雪が降ってなくてもちょっと寒いぐらいだし、冬になるとどれだけこの場は寒くなるのだろうか……とちょっと不安になる。とはいえ、俺とサリエスさんは冬になるまでこの街にいるかどうかも分からないが。そのあたりはサリエスさんに相談しないと。
雪が降る季節になると、街から出て違う場所に向かうのも大変だろうし。
それにしてもそういう魔物だからこそ毛皮が分厚くて、色んな使い方が出来そうだしな。この街にいる間に、一つぐらい作れたら魔法具も作りたいからそういうものを目当てにギルドの依頼を探すのもいいかもしれない。
ギルドで話を聞いた後は、またぶらぶらと街を歩いた。
『守り石』の話を聞けば、街の人々は沢山話してくれた。この街にとって『守り石』は誇りであるというのがよく分かった。前の街とは違い、街の成り立ちも簡単に話してくれたので、そこまで危険はなさそうだ。
――それにしてもこの場所は平地に比べて危険だからこそ、高価な素材がおおかったりと利点があるようだ。その素材を売ることによって、この街の人々は結構裕福な人が多いらしい。それに危険を共に分かち合って、協力して生きて生きるからこそ、結託して暮らしているようだ。
街の人々同士がほとんどが知り合いで、外からやってきた人達のことをよく観察している。それもあって、犯罪はこの街で少ないようだ。変な行動を起こしたらすぐに街の人々に気づかれるようになっているらしい。
それも山の上にあって、平地の街よりも閉鎖された場所にあるからだろうか。
俺は人付き合いがそこまで得意なわけではないので、将来的にどこかに永住するのならばこういう街の方がいいのかもしれない。下手に多くの知らない人と関わる街よりも、狭く深くの関係の方が、生活していく上では楽だろうし。それでそういう場所で引きこもって生活をして、必要最低限だけ人と交流するっていうのが一番いいだろう。
しばらくは冒険者を続けるつもりだし、この世界で見たい場所も沢山あるけれど――最終的には俺は何処に行きつくのだろうか。この世界のどんな場所で暮らすようになるのだろうか。
この街で過ごしていて、そんなことを考えてしまった。まだまだ俺の人生は、死ななければ長いけれど、少しずつ……どこで過ごして行きたいとかをちゃんと考えていきたいと思った。




