61.山間部の街 1
山間部の街は、鉱石が多く取れるということもあり、鍛冶が盛んなようだ。ドワーフの数も多い。魔法具をこれからも作成していきたいので、是非とも鉱石も色々手に入れておきたいものだ。
またこのあたりは農業に適していないので、狩りが盛んでもあるらしい。魔物がそれなりにいる場所に街を作っているというのもあり、魔物がよってこないように魔法具が常時起動されているらしい。その魔法具は『守り石』という巨大な石である。
この『守り石』はこの街が出来た時に、置かれたものらしい。この場所で『聖女』と呼ばれるような少女がいたそうだ。その少女が自分の身を犠牲にしてこの石が出来上がったらしい。……そういう生贄系の話って苦手なんだよな。
幾ら美談として引き継がれていたとしても、本当に自分から自分の身を犠牲にしてそんな風なことを成したのかって当時の人しか分からないだろうし。俺なら絶対にどれだけ周りを大切に思っていたとしても命を投げ出すのは嫌だ。そして命を投げ出されることも嫌だ。
何も犠牲にせずに、そういう風になってほしいなんて俺が異世界人だからそんな甘ったるいことをいってしまっているのかもしれない。
「ヒューガは、この街の成り立ちが気に食わない?」
「気に食わないというか……正直言って、人のために自分を投げ出すのは違うかなとそんな風には思っているよ。それじゃ残された方は決して幸せにならない」
「そうね。そういう意見もあるでしょうね。私は、本人が望んだことならば否定は出来ないと思っているわ。この街が出来るきっかけの少女の事を私は知らないけれど、その少女の事が美談として伝えられているだけでも残されたものたちは少女を慈しんでいたと言えるのではないかしら」
「そうか?」
「そうよ。だって歴史というのは生きているものが作るものだもの。死んだものは後世に真実を伝えられない。生き残った者は、死んだ者のことをどんなふうにでも伝えることが出来る。昔、知り合いの故郷に行ったらその知り合いが悪く伝えられていたこともあるわ」
サリエスさんはそんなことを言った。
地球でもそうだったけれど、歴史というのは勝者が作っていく。幾ら真実が違ったとしても、勝者が語った事は真実となりえるのだ。
――まだこの街の成り立ちに関わった少女は、この街のために力を尽くした存在だと知らしめられていて、像まで出来ている。それだけでも彼女はまだ幸せな方なのかもしれない。
俺はこの街の成り立ちが気になったので、少しだけ街の人から話を聞くことにした。前の街のような危険性があるのならば、手を出すのはやめておこうと思っている。サリエスさんに心配ばかりかけるわけにもいかないし。
サリエスさんはその後、以前来た時のゆかりの場所を見て回ると言って去っていった。
俺は街をぶらぶらしながら、何か面白いことがないかと見て回る。
お店を覗き込んだ時に、いくつかの種類の土も売ってあった。このあたりの土は上質なものが多いらしい。それは色んなものに使われるらしい。……上質な土という言葉に俺は、心が躍った。
《土操手》というユニークスキルがあるからこそ、そういうものを手にしていたいと思ってしまう。というか、土のよさとかで《土操手》の効果も変わったりするのだろうか。そういうことを考えるとわくわくしてくるものである。そんなわけで複数種類の土を購入した。
これらの土の違いも分からないのに買ってしまった。一応説明書はもらっているけれど、それでも土の違いなども難しい。
魔法具をこれからも作っていくのなら、もっと素材の事を知っていかなければならない……のだが、それも難しいものだ。
長い時をかけて、俺はものづくりの経験を経ていくのだろう。
「ヒューガ、色々かったのね」
「ちょっと興味が出て」
「何だか土の種類が多いわね? 何か作りたいの?」
「……これだけの種類があるのだなとびっくりしたから。試してみたいなと」
俺はそれだけ告げた。
「サリエスさんは、どうだった? 色々見て回れた?」
「そうね。昔とやっぱり光景も変わっていたわね。でもまだ知り合いがいきていてほっとしたわ。エルフと人間の寿命は違うから、結構置いて行かれるもの」
寿命の違いというのは、明確にある。
俺も《渡り人》だから普通の人間よりは長生きをする。ユニークスキルがある分、他の人たちよりは死ににくいのではないかとも思う。まぁ、死ぬときは死ぬだろうけど。
結構この世界の人々は簡単に死ぬ。魔物に殺されたり、病気で死んだり――。地球では病院が身近にあったけれど、この世界はそこまで医療が発達しているわけでもない。回復系の魔法を使えるものたちがいるけれど、全ての街にそういう人がいるわけでもないし。
――俺もこの世界で生きて行けば、誰かに置いて行かれることがあるのだろうか。その時に俺はどれだけのショックを受けるだろうか。
「ん? ヒューガ、どうしたの?」
「なんでもないよ」
――サリエスさんがもし目の前で俺をおいて逝くことがあれば衝撃を受けそうだとそんなことを考えて首を振った。そんなことを考える時点で何だかんだ俺はサリエスさんに心を許している事実に気づいたけれど、気づかないふりをした。