60.山間部の街へ
俺とサリエスさんは、山間部に位置する街を目指している。
山の麓までは、馬車で移動する。麓までの道は整備されていないものが道が大半で、ガタガタッと揺れる馬車に結構馬車に慣れてきたはずなのに疲れてしまった。
サリエスさんは涼しい顔をしていて、旅慣れをしているというのはサリエスさんのような人を言うのだなと思う。俺もいつかサリエスさんのようにもっと旅慣れをしていく事が出来るのだろうか。
馬車で揺られながらこっそりと《土操手》の練習も進めていた。あの湖のある街では、そこまで《土操手》の練習が出来たわけではない。もちろん、コツコツは進めていたけれども……やっぱり折角のユニークスキルなので、どうにかレベルをあげていきたいと思っているのだ。
サリエスさんは俺が何かこそこそしているのは分かっているかもしれないが、何か聞く事などはやっぱりしない。――この距離感は、やはり心地が良い。
もしかしたらサリエスさんは、俺が異世界人だと知っても何も思わないかもしれない。けれどやはりそういうことはあまりこの世界の人々に広めるべきものではない。
土の硬さや柔らかさを変える実験や、色などを変える実験を進める。――案外、この《土操手》というのは使い勝手が良いというか、自由な側面が多い。何処まで制限があるのかというのはまだ分かっていない。日本語のメモなので、異世界人以外には分からないだろう。でもまぁ、見られないようにちゃんとしておく必要はあるけど。
ちょっと試してみようと思って馬車に揺られている間に、味をつけた土などが作れるかと試してみたら――本当にイチゴ味の土とかになって驚いた。流石にお腹を壊したが、これだけ自由度が高いのならばもしかしたらお腹を壊すことがない身体によい土など作れるのだろうか。
それにしてもこのユニークスキルは本当に不思議である。
ただ味を変えるだけでもかなりの魔力を持っていかれたので、色々考えてやるべきだろう。それにしても土がもし食べ物になるのならばこれから土さえあれば俺は生きていけるようになるんだろうか。そうなるかは分からないが、そうなれたら面白いなと思った。
麓に辿り着いた後は、山間部にある街へとサリエスさんと共に歩いた。
流石に歩きながら《土操手》の練習は中々出来なかったので、街に辿り着いてからまた試行錯誤してみようと思う。
山を登るのは二回目だが、やはりまだ二回目では俺は山登りになれていない。サリエスさんの歩いた道を歩いているつもりなのに俺だけこけそうになったり――。
「ヒューガ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。それにしてもやっぱりサリエスさんは凄いな」
「こういうのは慣れよ。ヒューガもそのうち慣れるわよ」
サリエスさんはそう言って笑った。
サリエスさんと一緒に山道を歩く。途中途中で休憩を行いながら進んでいるが、毎回休憩を申し出るのが俺なあたり、もうちょっと体力をつけたいと思ってならない。
途中で見かけた魔物は、サリエスさんと協力して倒した。それらの魔物を《アイテムボックス》に入れて街へと歩く。
芸術の街での魔法具作りなどの経験を得たので、魔物を見るとどれもこれも素材になるのではないかという目で見てしまう。そう言ったらサリエスさんに「職人ね」なんて言われたけれど。
いつか魔法具職人になって、物作りだけで生計をたてられるようになったらやっぱり楽しいのだろうなとそれを思う。
「いつか俺にだからこそ魔法具作りを頼みたいと言ってもらえたら幸せだな」
「本当に何で冒険者やっているのかしらって思うわね。ヒューガの思考は」
「俺にとっては冒険者はあくまで過程だから」
「そうね。最初に会った時から一生冒険者をするつもりはないと言っていたものね。最初からいままで目標がぶれないのは良いことだわ」
サリエスさんは俺との最初の会話を覚えていてくれたらしく、そう言いながら笑った。
やっぱりあくまで俺にとってみれば、冒険者というのは一生続ける仕事ではない。でもこの異世界だと死ぬまで冒険者を続けようとしている存在は少なからずいる。でもどこかで引退をするものが大半だろう。
ただサリエスさんが言うには、最初から冒険者引退後を考えている冒険者は少ないらしい。
「サリエスさんは、冒険者をやめたらどうしたいとかあるの?」
「私? 私はまだまだエルフだし、冒険者は続けられるとは思うけれど……。そうね、やめたらどこかでのんびり過ごすと思うわ。故郷に戻るか、それともどこか気に入った街に居座るかは分からないけれど、どこか気に入った土地に腰を据えてのんびりしたいわね」
サリエスさんは最終的には、どこか気に入ったところでのんびり過ごすというのは何となく決めているらしかった。
さて、そんな会話を交わしながら俺達は山道をどんどん登っていった。
そしてようやく目的地であった街へとたどり着いたのであった。標高の高い位置にある街は、斜めになっているところが多く、また今まで行った街とは違う雰囲気であった。この街がどんな街なのか知るのか俺は楽しみになるのだった。