57.湖のある街 5
目を覚ました時、俺は見た事のない場所にいた。
――知らない天井だ、なんて漫画などでよくある心境を俺も感じている。というか、本当に此処は何処なのだろう。なんだか薄暗い。洞窟のようなそんな雰囲気の場所だ。
……何処からか水の音が聞こえる気もする。
それにしてもどうして俺はこんなところにいるのだろうか。……そう考えて、これまでのことを思い起こす。そして思い出されるのは、食事を取っていたら急に意識を失ったということだ。しかも人気のある場所で意識を失って、気づいたら知らない場所というのは中々ヤバい。
まだ人通りの少ない所でそんなことがおこったのならば理解が出来る。しかし、あんな大勢の人がいる場所でこんなことになっているということは、あの場にいたすべてが共犯者なのか、それともよっぽど周りに騒がれないように俺をこの場所にまで連れ出したかのどちらかになる。
――俺がこんな場所にいるのは、絶対に俺が湖の事を調べていたからが関係するだろう。もしかしたら他の理由もあるかもしれないけれど、思い浮かぶ限りそのこと以外にこんな状況になる理由はない。それにしてもサリエスさんに気を付けるように言われていたのにも関わらずこんなことになってしまうなんて……とそんな気持ちになる。
サリエスさんは俺のことを心配しているだろうか。危険を承知で調べたいという思いに苛まれて、こんな風に調べてしまった俺に何を思っているだろうか。そしてこんな風な状況を導いた俺はサリエスさんに見捨てられても仕方がないと思う。
俺は体を起こす。
――不思議なことに俺はその場に転がされているだけで、手足に枷がつけられているというわけでもない。何故、こんなところに俺は連れてこられたのだろうか。——湖の事を調べている存在を始末しようとしているといったことならば、まず俺はもう死んでいるだろう。
この世界は地球よりもずっと命が軽いから、見知らぬ旅人である俺のことを殺すなんてこの世界の人たちにとっては造作もないことだろう。
俺は体を起こす。
何だか本当に不思議な場所だ。
ぴちゃぴちゃと音がする。薄暗いその場所は、触れるとごつごつとしている。岩だろうか。この街にこんな場所があったのかと不思議な気持ちになる。所々で青白く光っている結晶のようなものが見える。それが何なのかは分からないが、温かい光は俺の心を落ち着かせてくれる。
一歩一歩、足を進める。
道は一方向にしか伸びていないので、そちらに向かう。
――この場所は何処だろうか。転移などという非現実的な、魔法がなければ俺があの街から遠く離れた場所にいるということはないだろうが、本当にこんな幻想的な場所があの街にあったのかと疑問を感じてしまう。
俺が足を進めていると、声が聞こえた。
何を話しているかまでは聞こえない。けれど、誰か人がいることが分かった。
足を進めると、地面に転がっていた石を蹴飛ばしてしまった。……これはやばい。人に俺がいることを気づかれてしまっただろう。
実際に「あら」という声と共に、前に俺に湖の事を知りたいのでしょう? と問いかけてきた少女が姿を現した。
「目が覚めたのね。気分はどう?」
「……悪くもよくもない。それで此処は何処ですか。俺は何のために此処に連れてこられたんですか?」
「何のためにって、貴方が湖の事を調べているからよ。下手に湖の周りをうろちょろされて、水神様を刺激されたらたまったものじゃないもの」
少女はそんなことをいう。みずかみ……水神と書くのだろうか? 神と呼ばれるような存在が、あの湖にはいるということなのだろうか。
「訳が分からないって顔ね。あのね、湖を調べないようにって何度も警告があったでしょう? それを守らなかったのは貴方なのよ? それでこうして私たちに捕まることになったんだから、反省しなさいね?」
「……そうですね。俺が知りたくて調べました」
「でもまぁ、安心しなさい!! 水神様は寛容なのよ。本当は貴方の事を贄として水神様に与えることも考えたけれど、それはいらないそうよ。それかよっぽど貴方がまずそうだったのね。水神様ってばいらないって態度だったもの」
俺は眠っている間に生贄にされそうだったのだろうか……。その水神様が何かは知らないけれど、その水神様が俺を食べなくて良かったと思う。
「水神様っていうのは……」
「この街の神様のような方よ。この街は水神様と共に育った街だもの。まぁ、水神様も貴方の事を食べる気はないみたいだし、貴方がこの街の事を外に漏らさないというのならば話すことは構わないわよ。ただ、分かってるわね? 知ったらもう湖の周りをうろうろしないでちょうだい。そして変な噂でもたてたら私たちが責任をもってあなたを殺すから」
……そう少女は言い放った。




