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55.湖のある街 3

「湖のことを調べたい?」

 俺の言葉に、サリエスさんは少し驚いたような表情をした。俺が危険だと噂をされても湖のことを調べたいとは思わなかったようだ。

「そんなに驚くことか? なんだか、きっと何かがありそうだと思えるんだ」

「ヒューガはどちらかというと用心深いほうでしょう? 自分が生きていけるようにと必死になっていて、危険なことはしないイメージだもの。そうね、私も何かあるのではないかとは思うわ。けれども、もし調べるとしたら危険が大きいわ。それにこの街の人たちは湖に人が近づくことを嫌がっているようだわ。一筋縄ではいかないでしょう」

 サリエスさんにそんな言葉をかけられて、確かにと自分で納得する。

 俺はどちらかというと、コツコツとする方が好きだ。無茶をするよりも、サリエスさんがいうように危険なことはしないようにしている。

 サリエスさんに言われて、確かに俺らしくはないなと思う。

 これもこの生活の中で余裕が出てきたからだろうか。異世界に来てすぐは生きることに必死だったから。けれども今は少しずつ余裕が出来ている。

 余裕ばかり持ち続けると足元をすくわれる可能性もあるかもしれないから気をつけなければならないけれど……。

「そうだな。それでも興味があるんだ」

「そんなに心惹かれるのね。……危険を犯さないようにというのを守れるのだったら構わないわ。ただ気を付けていても本当に危険かもしれないから、貴方が湖を調べて戻って来なければ私は貴方が死んだと判断するわよ」

「……危険かもしれないのは百も承知です。もちろん、危険は冒すつもりはない。俺は死にたくないから」

 俺はやりたいことが山ほどあるのだ。作りたいものが沢山ある。それをどうか叶えるために、俺は死ぬわけにはいかない。

 異世界転移なんて信じられないことを経験しているから、もしかしたら死んだ後も異世界転生なんてものもあるのかもしれない。それでもそれを期待なんて出来ないし、人は死んだら終わりだ。俺はまだまだ死にたくはない。その思いが強いから、死ぬつもりはない。

「そうね。ヒューガは死にたくないという思いが強いわよね。冒険者なんて無茶をして成り上がろうって人の方が多いのに、そうでもないものね。冒険者としてある程度生きていけるようになったら冒険者を引退したいって言ってたし」

 確かにそういう気持ちになっている人は、俺のクラスメイトも含めて多いのかもしれない。その気持ちもわからなくはない。だけれども、それよりも生きることが大事だと思う。

 そんな風に名を残すことなんてしなくていい。ただ生きて、物作りが出来ればいいのだ。

「そうだな。俺は死にたくない。ただ生きて、物作りをして、願わくば老衰して死にたい。生を全うして死ねたらいいなと思う」

「その年で老衰して死にたいって、面白いわね。まぁ、いいわ。調べたいなら調べたらいいわ。やりたいことを止める権利は私にはないもの。ただ同じパーティーのメンバーとして、ヒューガが死ぬのは嫌だからそれだけは中止してね」

「ああ。そうするよ」

「そして冒険者業もさぼらないことね。それも生きていくためには必要だから」

「ああ。もちろん」

 あくまで湖について調べたいのは、俺で、サリエスさんは望んでいないことだ。冒険者の依頼として受けるものでもなく、ただ俺が好奇心で調べようと思っているもの。

 だからこそ、本来やるべきことを放置してまでやるべきではないのだ。最低限そちらもやりながら、別に自分がやりたいことをやるのが良いのだ。俺がこれで冒険者業をさぼって、おろそかになればサリエスさんにも見捨てられるような気がするし。サリエスさんは優しいけれど、ただ優しいだけではない。見捨てる時は俺のことを見捨てるだろうから。

「なら、いいわ。やるだけやってみなさい」

 そんな風に綺麗な笑みを浮かべてそんなことを言うサリエスさん。その笑みにどこか安心感を覚える。

 ただサリエスさんに報告して、背中を押してもらえるだけでもやる気が出てくるのだ。



 それから俺は冒険の合間に、まずは湖についてもっと知ろうと思って行動を起こした。

 街の人たちにさりげなく話を聞いたり、図書館にいって改めて調べることから始めている。……下手に湖に潜ったりすると大変な目にあってしまう予感がするから。

 でも湖の中を見ないことには、何かが中に何があるかは把握するのは難しいだろうし、もっと調べなければならないけれど。

 それにしてもこの湖は、どんな風につながっているのだろうか。覗き込むだけでも危険だと言われているし、夜に覗いても湖の周りには街の見回りの人がいるしな。見回りがいる分、治安は良いみたいだけど、どんな風に調べるべきだろうか。



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